ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第4話 ルナツー脱出作戦 Bパート


「だからブロック接続レバーが二段になってる点を忘れなければいいのさ。この操作がジオンのザクと決定的に違うってことなんだ」

 食事を取りながらの雑談は、アムロによるモビルスーツ操作の説明に移っていた。

 アリアリアリアリ、アリーヴェデルチ(さよならだ)!?
 まだ操縦する気アリアリなんだー。

 とミヤビは内心呆れていたが、表情筋が死んでいるその顔にはそういったことは反映されない。

「ほんじゃあさ、ガンキャノンが最高にジオンのザクより優れてるってのはなんなんだよ?」

 カイの質問に、アムロはうなずいて、

「戦闘力さ。今までのザクタイプのモビルスーツと違って、戦いのケーススタディが記憶される」
「ケーススタディが記憶される? ってことはガンキャノンって、戦闘すればするほど戦い方を憶えて強くなるって理屈か?」
「そうさ。しかも操縦の未熟な僕でさえ歴戦の勇士のシャアとどうにか戦えたのは、僕の上手下手よりガンキャノンの教育型コンピューターの性能がいいってことだよ」

 実直に語るアムロの肩をリュウが叩く。

「はははは、ご謙遜ご謙遜」

 恰幅のいい、気づかいのできるキャラっていうのは頼りになるとミヤビは思う。
 前世で一時期、上司を務めてくれた人がそうだった。
 本当、笑いの絶えないいい職場だったと今でも思う。

「だけどよう、学習機能なんてパソコンにだって付いてるじゃねぇか」
「それは……」

 カイの言葉に、ミヤビの口から珍しく苦笑が漏れた。

「ミヤビさん?」
「いえ、普通の人はそう思うわよね」

 機動戦士ガンダムが放映されたのは1979年。
 日本初のワープロ、東芝のJW−10(標準価格630万円!)が発表された翌年だ。
 JW−10は同音語の学習機能も備えており、つまり学習するコンピュータというのは当時最先端技術だったわけだ。

 時がたつとコンピュータがケーススタディをするなど当たり前の時代となり、
「教育型コンピュータってそんなに凄いか?」
 というファンが増え、それに対し更に後付けの設定が加えられたりしたが、ミヤビのような技術者だとまた別の視点がある。

「モビルスーツは従来の兵器をはるかに超えた複雑さを持つ、数万点以上の工業製品の集合体なのよ。その機体各所から吸い上げられるデータ…… 速度、温度、圧力、流量、電流、電圧、位相角、機械応力に熱応力、伸び、伸び差、加速度、各関節の動作ポジション、開度、機器のオンオフ状態。どれだけの数があると思う? そのデータの有効桁数は? そしてサンプリング周期は? 例えばたった千点の計測点であっても毎秒取り続けたら一分で6万個のデータよ。しかもモビルスーツは大気圏外なら音速を超えるスピードで飛行するからデータの採取間隔は1秒どころかコンマ数秒毎に必要に。それだけで更に何倍にも何十倍にもなる。そしてセンサーカメラ類が拾い上げる画像データ各種……」

 ミヤビの前世、旧21世紀の世界で言うところの工業分野でのIoT(Internet of Things)技術活用で、GE(ゼネラル・エレクトリック)などがプラントの機器や航空機のエンジンにセンサーを取り付けてネット経由で集約、遠隔管理するサービスを発表した際に、まず日本企業が首をひねったのは、

 もの凄い量のデータがあるけど、どうやって遠隔地と通信するの?
 ネット回線の帯域食いつぶしちゃうじゃない。
 というか専用線でも引かないと無理でしょ。
 そもそもネット回線の信頼度なんて低すぎて使えないよ。
 通信途絶したらどうするの?

 ということだった。
 だからそれを参考に既存の回線の帯域内で許せる範囲の一部のデータだけを集約して分析業務に役立たせる、みたいなことしかできなかった。
 環境に合わせ最適化、ローカライズすることが、ガラパゴス化が得意な日本企業の発想であり、またそれが限界でもあった。

 しかし海外企業は日本企業がちまちまローカライズしているのを見て鼻で笑っていただろう。
 そんなものは放っておいてもすぐ解決される問題だからだ。
 例えばGoogleがYouTubeを買収した当時、ネット回線を使った動画配信など回線が遅くてしばしば再生が止まってしまうような残念なものだった。
 それなのになぜGoogleが大金をかけてYouTubeを買収したのかというと、そんな問題、すぐに回線速度が上がって解決するという未来が分かっていたからだ。

 しかし技術の進歩により多量のデータをやり取りできるようになると、今度は逆にそれゆえの問題が発生する。

「この膨大な量のデータを機体制御OSに反映させるには、ちょっとしたスーパーコンピュータ並みの処理能力が必要よ」

 ということ。
 ミヤビの前世でもこのようなビッグデータは人間が処理することなどできないため、AIによる深層学習、ディープラーニングにより対応していた。

 もっとも、これにも問題があってAIは「故障の兆候があるので止めて点検しましょう」というような結果を出すことはできるが、「なぜそういう結論に達したの?」ということを説明するのは不得意だった。
 ディープラーニングの経緯を説明するというのは、人間の頭の中を覗くのに等しいものだから当然である。
 そもそも『ベテランのカンや経験』のような言葉で説明できない知識、『暗黙知』をAIに持たせるという技術なのだからなおさら。
 しかし警告が出たとして気軽に止めて点検修理できるものならいいが、航空機のように止めて点検するのに、そして当然必要になる代替機の用意に莫大なコストがかかるようなものだと「理由は分からないけどAIが言っているので止めます」というわけにはなかなかいかない。
 だから旧21世紀では『AIの思考を翻訳してくれる人間の専門家』の需要が高かったのだ。

 まぁ、そんな感じでビッグデータの処理も大変なのだ。
 だから、

「普通は記録装置(データロガー)を試作機に取り付けて稼働試験を行ってデータを収集。持ち帰ったデータを吸い出して高性能コンピュータとAIに処理させて加工、反映するという作業を繰り返す必要があるんだけど」

 モビルスーツ開発で出遅れた連邦軍にそんなことをやっている時間はない。
 ならどうするか。

「そのために、得られた稼働データをリアルタイムに処理して機体制御OSに反映できるよう、モビルスーツにスーパーコンピュータを載せてしまったのよ」
「へっ?」
「そうすればその場で稼働データが反映されるでしょ。そうやって改善された機体制御OSに動かされる動作データを収集して更に…… という具合に通常の何倍ものスピードで学習と反映が可能になるの」

 ロールプレイングゲームで自分だけ成長スピードが倍などといったインチキ、チートを使っているようなものだ。
 これにより地球連邦軍は短期間にモビルスーツを開発することができたのだった。

「だから教育型コンピュータとわざわざ名づけられるほど特別な存在なのよ」

 そういうことだった。

「んじゃあ、ザクがその教育型コンピュータみたいなのを使わないのは?」
「信じられないくらいのお金と技術が要るから」

 単純なことだ。

「まず耐候性。防水、防じん、耐衝撃など軍人の蛮用にも耐える仕様にすると、数倍にも価格が跳ね上がるわ」

 パナソニックが販売していた作業現場用のPC、タフブックとかを考えればわかる。
 数世代前のものかと思えるような性能しか備えていなくてもものすごい値段がして、通常品ならその5分の1以下で買えるものだった。
 もちろんスペックが低いのにも理由があって、防水、防じんのため完全密閉したボディには冷却ファンは付けられないし、耐衝撃性に配慮した素材は大抵、伝熱性が低い。
 その上想定される使用環境は−10℃〜50℃。
 つまり発熱の大きい最新の高性能CPUなど載せられないから、どうしても枯れた、一回り以上型落ち品と同等の抑えられたスペックだが発熱の小さい省エネ型の構成部品を選ばないといけないからだ。

「さらに通常用途のコンピュータとは要求される信頼度が何桁も違うわ。誰だって戦闘中に機体制御OSがフリーズしましたなんて体験したくないでしょ」

 そして信頼性というやつを上げるためにかかるコストは指数関数的に、急激に跳ね上がる。
 そう、ある程度まではかけたコストに比例して信頼性は上がるが、それ以上となると10倍、100倍、1000倍という途方もない費用がかかっていくのだ。
 インフラ系の止められない設備や人命にかかわる装置等、高い信頼性が要求される用途では旧21世紀になってもパソコンという言葉が生まれた当時の枯れた、しかし信頼性だけは高い8ビットCPU、Z80同等品の電子計算機が使われていたが、その程度の処理能力しか持たないものに数千万円の費用がかかったりというのは実際にある話だったりする。

 逆に言えばパソコンとかフリーズしても人が死んだり莫大な損害が生じたりしないシステムは、そこそこの信頼性でいいからあれほど安く最新のものが提供されているのだ。
 日本人は何でも完璧さを求め、パソコンがフリーズした! こんなシステムでは仕事はできない! 恒久的再発防止を! と声高に叫ぶが意味はない。
「その要求に応えるとあなたやあなたの会社ではとうてい買えないような値段になるがよろしいか?」
 ということだ。

 これを考えればコア・ファイターに載せられた教育型コンピュータは常識外の、金のある地球連邦軍ならではの狂気の産物だった。
 ミヤビの前世の記憶の中でも教育型コンピュータがガンダムにかかっているコストの中で大きな割合を占めているとされていたし、だからこそジムなど量産型のモビルスーツには採用されていない。
 コスト度外視で開発をする一部の試作機だけに使用されているものだった。

「じゃあ、ミヤビさんの乗ってるドラケンE改は?」

 アムロの言葉に、ミヤビは瞳を瞬かせると一瞬の逡巡の後答える。

「ドラケンE改は学習型OSという方式を採用しているわ。機体には稼働ログ採集機能を搭載してネットに接続する度に管理サーバにそれをアップ。管理サーバが集約されたデータを使って機体制御OSを更新、アップデートパッチを配るって方式ね」

 量産機に向いているこの方式は、教育型コンピュータを搭載しない一般の地球連邦軍モビルスーツにも採用される予定だ。
 この方式に対する数々のパテントを先行して取得しているミヤビとヤシマ重工の得る利益は莫大なものになるはずだった。

「そしてドラケンE改は作業用機械の延長線上にあるミドルモビルスーツだから、その簡素な機体を制御する程度ならサポートAIを搭載してもハロ2台分のコンピュータで十分に動かせるわ」
「は、ハロ?」
「ちなみにこれは比喩じゃなくて実際に以前あなたのお父さんが開発していた、あなた自身もペットロボット、ハロに組み込んでいるのと同じものよ」

 ドラケンE改では俗にテム・レイの回路と呼ばれる初期の教育型コンピューター、アムロがSUN社製のペットロボット、ハロに組み込んでいたものと同型を採用している。
 史実ではサイド6でアムロに「こんなもの!」と投げ捨てられた旧式な回路ではあるが、

・街工場や個人レベルの機材で作ることのできるローテクでありながら、低級とはいえ一応AIを動かすことができる程度のスペック。
・ローテクだからこそ備えている蹴飛ばされようとも(実際ハロは何度も蹴飛ばされている)問題ない耐衝撃性などの耐環境性。
・安い。
・入出力のI/Oインターフェイスが光統合回路リンクで構成されており、ミノフスキー粒子散布下の環境でもノイズの干渉を受けない。

 という点で優秀。
 足りないスペックは回路を2つ搭載し並列に動作させるデュアルプロセッサとして働かせることで補っている。
 これは性能向上だけでなく一方が故障などで停止してももう一方で処理を継続できるなど、信頼性向上の効果があっての採用である。

 発想の元は冷戦時に規制により西側の優秀なCPUを入手できなかったソビエト連邦が巡航ミサイルに旧式な8ビットCPU、Z80(もしくは互換品)を使っていたというエピソード。
 そして高度な信頼性が必要とされる設備でZ80系のデュアルプロセッサ構成の制御用コンピュータが利用されていたことに由来する。

 実際、高い信頼性を必要とする兵器に使用される技術は極力トラブルを避けるためある程度開発されて時間の経過したものが選ばれるのが常識で、RX−78ガンダムのようなあらゆる最先端技術を投入したような機体は異端であると言って良いものだった。



『そ、それは反則です!』

ドラケンE改60ミリバルカンポッド

 シャアたちの潜入をドラケンE改を使って妨害していたサラだったが、そこに一機のザクIIが乱入して来た。
 前回の戦闘で母艦であるパプアを墜とされ、一時的にシャアのムサイに身を寄せているガデムの操る機体だ。
 員数外の存在だったため艦に残っていたのだが、シャアの「戦場までザク一機届けてくれ(意訳)」という要請に「補給部隊の面子にかけて(こっちはマジ)」持ってきてくれたわけだ。

『どうして警戒網を掻い潜ってここまでザクが!?』

 驚愕の声を上げるサラだったが、ネタは簡単だ。
 シャアたちはノーマルスーツでここにたどり着くまでの間にルナ2の警戒網にある穴、侵入ルートを探り出しその情報をレーザー通信でムサイへと送っていたのだ。
 いざという場合にザクを送り込むために。
 それを利用してガデムのザクは潜入したのだ。

 いくら未来の知識があるにせよ、しょせんは凡人のミヤビがシャアを上回り歴史を変えることはなかなかに難しい。
 それを物語るかのような展開だった。

『わ、私だけの制御じゃ時間稼ぎすらできません。逃げます!』

 サラは短距離ミサイルを撃ちっぱなしの赤外線画像(IIR)自律誘導で放つ。
 老いたりとはいえ歴戦の勇士であるガデムには当然通じず避けられるが、その隙に即座に撤退する。

『後はルナ2の警備に任せます』

 シャアたちを発見した時点で通報済みだから、何とかしてくれるはずだ。
 そう信じたいサラだった。



■ライナーノーツ

 教育型コンピュータを現代の先端技術で考えると、というお話でした。
 あとドラケンE改は本当にハロのCPU二つを使ったデュアルプロセッサで動いていますよ、というお話。
 しかもハロのCPUはあの『テム・レイの回路』だった、という。


 教育型コンピュータに関しては、実際にビッグデータやAIのディープラーニングによる故障やリスク検知について扱っている研究者の方から伺ったお話を参考に書いています。
 大昔は熱電対を付けたペンレコーダーを現場に設置してアナログでデータ収集したり(もっとアナログだとアルコール温度計を粘土で取り付けて一定時間ごとに人間が記録採取したり……)それがデジタルになって、最新ではIoT技術でという具合に進化しましたが、データが多ければ多い分、今度はデータ処理が大変になるというジレンマですね。


> パナソニックが販売していた作業現場用のPC、タフブックとかを考えればわかる。

 このとおりのスペックに対しこのお値段。

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 何このボッタクリは! という方も居ますが、それには理由があるということですね。
 個人的にはとっても欲しいんですけど。


> ドラケンE改では俗にテム・レイの回路と呼ばれる初期の教育型コンピューター、アムロがSUN社製のペットロボット、ハロに組み込んでいたものと同型を採用している。

 マンガ『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのメモリーより―』からの設定ですね。

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 USBハブなんですが『こんな古い物を』を演出するためにわざと古い規格であるUSB1.1専用にしてあるという。
 時代遅れの規格で部品を生産しているメーカーも無い、特注になっちゃいますよ、というのをあえて押し通したというお話が伝わるこだわりの逸品です。


 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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