ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第30話 小さな防衛線 Aパート
北米を発進したガウの編隊による降下作戦が始まる中、シャア大佐の部隊はジャブローへの侵入を果たす。
しかし双方の大量生産向け簡易型モビルスーツの乱入でぐだぐだのぐずぐずに終わった。
だが、あのシャアがこのまま引き下がるだろうか?
「ポイントB3、現在までのところまったく異常なし。ジオンの定時爆撃、例のごとし」
『了解』
「こんな辺鄙な所で定時報告もくそもあるかって」
その定時爆撃のおかげでしてやられたジャブロー防衛隊だったが、戦訓の周知は間に合っておらず、外れに近いこの観測所では兵たちが呑気な会話を交わしていた。
こういった緊急を要する重要なものは詳報作成を待たず速報を回すべきで、実際参謀本部はそれにより周知を図っていたが。
このように現場の兵はまったく読もうともしていないので意味を成していないのだ。
もっとも現場には現場の言い分もある。
上位部署は縦割りで己の担当業務しか把握せずに文書類を送付するが、地球連邦軍ほどの巨大組織になると各上位部署からそれらの文書、情報類をそれぞれ別々に送られてくる末端部署では、その量が凄いことになる。
目を通すだけで毎日30分かかったり、さらに土日祝日も勤務のある交代制の部署では自分たちの勤務サイクルの休暇が平日になることになり、休み明けにはその間に発行され溜まっている文書、つまり2、3日分を読むために当然2、3倍の時間がかかったりするのである。
真面目な人間でも遅滞無くすべてに目を通すのは難しい、というのが実情なのだった。
だから、この観測所では弛緩した空気が蔓延していて、
「ぼやくなぼやくな。あちらさんだって給料いただくためにパトロールやってんじゃないん、ああっ!」
「どうした? ううっ!」
ステルス機であるアッガイがこの観測所、警戒用トーチカに忍び寄り、一撃で粉砕する。
そうして背後の密林に手を振る。
そこには複数のアッガイが。
その中には赤い、シャアの機体も含まれていた。
「ふふふ、連邦軍も甘いな」
北米のジオン軍基地。
ガルマは今回の作戦結果を過去のジャングル戦の資料と照らし合わせ思索にふける。
「補給を絶てば降下したモビルスーツ部隊もすぐ干上がると思っているのだろうが」
「ガルマさま?」
ガルマは問うような視線を向けるイセリナに、と言うより配下の士官たちに状況を理解させるため、資料を大モニターに映し出す。
「これは?」
「西暦の時代、ベトナム戦争でのケサン基地攻防戦の資料だな」
そうして語り出すガルマ。
「この戦いでは北ベトナム軍に完全包囲されたケサン基地を維持するためアメリカ軍は一日に必要とされる185トンの物資を必死に空輸し続けた。この量は当時の輸送機、C-130で空輸すると一日15回のフライトを必要とするもので、敵の砲火が集中する中での離着陸は困難、ついには空中投下に切り替えられていた」
「それは……」
「追い詰められたアメリカ政府は軍に対し防衛のための戦術核の使用を許可。これをちらつかせた水面下の政治交渉で北ベトナム軍の包囲を解かせたとも言われる」
西暦1968年、つまり『機動戦士ガンダム』が放映された1979年よりほんの10年ちょっとの前のことだ。
マ・クベがオデッサで核をちらつかせて連邦軍の撤退を促していたが、この冷戦時代のアメリカは現実に同じことをやっていたわけで。
北ベトナムの指導者たちは撤退を選択し、レビル将軍はそれでも退かず兵に戦いを命じたというだけの話。
アニメじゃない、本当のことなのだった。
「だが、シーレーンはシャアのマッドアングラー隊が握っているのだ」
「それはつまり……」
ガルマの部下たちも理解したらしい。
「ガウによる空中投下や、デイジーカッターでジャングルを刈り取って着地場所を作っての垂直離着陸輸送機ファットアンクルによる移送だけでなく……」
西暦の時代に使われたデイジーカッター、BLU-82B/C-130は燃料気化爆弾であると誤認されたり、その非常に巨大な爆風半径から対人兵器や威嚇兵器としてアフガニスタンで使われたことから誤解されやすいが、元々はこの用途、ジャングルを刈り取ってヘリコプターの着地場所を作るためのもの。
デイジー、ヒナギクはヨーロッパでは芝生の雑草扱いであるから、デイジーカッターは「雑草を刈るもの」という意味なのだ。
「敵兵の命を雑草のように刈り取るもの」というわけではない。
「マッドアングラー隊の潜水艦で補給物資をいくらでも運べるのですな」
配下の士官の言葉にうなずくガルマは、今回占拠したジャブローのブロックの構造図をモニターに映し出す。
「占拠したジャブローの区画には、おあつらえ向きに解放戦線(ベトコン)のトンネル陣地よろしく河川に面した水面下の入り口や、連邦軍も把握しきれていないだろう外と繋がる地下水脈まであり、水陸両用モビルスーツを使えば安全な物資の搬入も可能なのだしな」
さらに、
「その上、今回のモビルスーツ部隊には連邦軍も使っているヤシマ製100ミリマシンガンを持たせてある」
鹵獲した砲弾をそのまま使える。
報告では占拠したブロックで砲弾、そして100ミリマシンガンそのものも発見されているという。
また連邦軍は自軍のモビルスーツ向けにジオンのヒートホークのコピー品を使わせることを決めたらしく、鹵獲品の中には連邦製ヒートホークまである。
「ジャングルを利用したゲリラ戦は西暦の時代、超大国であるアメリカ合衆国をも退けた弱者の戦術。これまではその弱者の戦術を物量に勝る強者、連邦軍にやられていたからこそジャブローには手を出せなかったが」
だが、今回の降下作戦で足掛かりはできた。
「同じ条件で戦うならモビルスーツ戦の熟練度に勝る、こちらが有利だ。何しろジャングルでは物量に任せた攻撃が困難。少数部隊の浸透戦術によるゲリラ戦により、じわじわと攻めていけば……」
西暦の時代のアメリカ軍と同じく、大国である連邦軍も最終的には音を上げる。
そういった未来も有り得るのかもしれなかった……
「定時爆撃か。ま、心配する必要はない」
ホワイトベースクルーの前に立つ人事担当の士官は響いてくる爆撃音に対し、こともなげに言った。
これが地球連邦軍というもの。
巨大過ぎるがゆえに担当業務以外に興味が薄く基本、他人事で入手する情報も遅いのだ。
「それでホワイトベースの編成は現行のままで所属はティアンム艦隊の第13独立部隊と決まった。……次に、各員に階級を申し渡す。ブライト・ノア中尉」
「はい」
「ミライ・ヤシマ少尉」
「はい」
「リュウ・ホセイ曹長」
「はい」
今さらながら階級章を受取るホワイトベースクルーたち。
アムロは複雑な表情だ。
(僕らはいつのまにか軍人にさせられてしまって……)
「アムロ・レイ曹長」
「……はい」
(こんな物もらったの、小学校の卒業証書以来初めてだけど、なんの役に立つんだろ?)
まぁ、それでもリュウの名が呼ばれている、生きているだけミヤビの知る史実よりマシなのだろう。
「セイラ・マス軍曹」
「はい」
「カイ・シデン伍長」
「はい」
「ハヤト・コバヤシ伍長」
「はい」
「フラウ・ボゥ上等兵」
返事が無い。
「フラウ・ボゥ上等兵、おらんのか?」
そこに駆け込んでくる子供たち。
「やーっ」
「やだよう」
「もう、待ちなさい、こらっ。あっ、す、すいません」
そしてそれを追いかけるフラウ。
「やだもん、どこにも行かないもん」
「そうだ」
「行くもんか」
「何事だ? ん?」
苛立つ士官の視線を受け、フラウはバツが悪そうに答える。
「あ、あの子たち、育児センターへ行くのどうしても嫌だって言って」
「勝手なことを」
吐き捨てるように言うが、そこにふくよかな女性士官が進み出た。
「そういうことはワタクシが専門です、言い聞かせてみましょう。あ、あなたも一緒にいらっしゃい」
「はい」
「早く辞令を受け取りなさい」
「あ、はい」
そういうことで、カツ、レツ、キッカは史実どおり育児施設へと引き取られていった。
「そう、キッカたちは育児施設に行ったのね」
その場には居なかったミヤビは、フラウとアムロから顛末を聞く。
「面白い遊び場が一杯あるからって、育児官の人に説得されて行きましたけど」
うかない表情のフラウ。
「……でも、あの子たちここにいて本当に幸せになれるかしら?」
史実では、アムロが、
「置いて行くしかないだろう、仕方ないよ」
「小さい子が人の殺し合い見るの、いけないよ」
そう答えていたが、ここにはミヤビが居る。
「あら、生きていこうと思えばどこだって天国になるわよ。だって生きているんですもの。幸せになるチャンスはどこにでもあるわ」
どこかで聞いたようなセリフだったが、しかし同じ言葉でも発言者、そして受け取る者の意識によって、その意味、意義はまったく異なるものになる。
元ネタの『新世紀エヴァンゲリオン』の碇ユイは母性的な女性に見えて、実際には超然とした思考の持ち主だったが。
ミヤビは逆に浮世離れした美貌、外見を持っているにも関わらず、中身は酷く人間臭い。
だから、
「ほんとにそう思うんですか?」
ミヤビの外見からくる、怜悧なイメージが強いフラウには理想主義が過ぎる言葉に聞こえ、
「僕はミヤビさんの言葉に賛成かな」
これまでのミヤビとの付き合い。
彼女が自分たちにしてくれたこと。
そして時折その瞳に垣間見ることができる柔らかな、人間味あふれる感情。
それらを元にミヤビの言葉を聞くアムロには、希望と確かな優しさを感じさせるものに思える。
そしてミヤビからすると、この言葉は切実なる願いだ。
前世の、そしてこの世界の未来の記憶を持つ彼女にとってリュウやシーマ、史実では悲劇の中死んでいった人たち、彼らが何は無くとも生きてさえいてくれれば、それは希望に、救いになるのだ。
生きてさえいてくれれば幸せになれるチャンスはある。
死はその可能性すら摘んでしまうものなのだから。
ミヤビは神様にチートな力をもらって転生したチート系転生者などではないし、元々天賦の才能がある天才でもない。
効率的に学習することができる秀才ではあるが、しかしそれでも凡人の域を脱することはできないただの一般人だ。
そんな彼女にとっては彼らの命を救うのだって大変なことだし、そもそもそれ以上のこと、自分の力で彼ら全員を幸せにしようなんて、それこそおこがましい。
生きてさえいれば、彼らは自分の力で幸せになれる。
そう信じているのだ。
シャアたちのアッガイはジャブロー内に密かに侵入。
降下部隊が占拠したジャブロー第4ブロックと、他のブロックの境界線は連邦軍により厳重な警戒が敷かれているため、定時爆撃を陽動に地表を迂回し別ルートをたどって忍び込んだのだ。
シャアはアッガイの腕を振ることで配下に合図。
機体をひざまずかせると、エレベーター式のコクピットハッチを使い地上に降り立つ。
「シャア大佐、準備できました」
全身ウェットスーツ姿で並ぶ特殊工作員たち。
しかし、
「き、きつい……」
その中に交じっているアルレット。
膨らみ始めた幼い胸、体の線をそのまま浮き立たせるそのスーツ姿を恥ずかしげに縮こまらせている。
その姿はもはや犯罪的ですらある。
「よ、よし、行くぞ」
シャアの声も、どこか動揺を隠しきれないでいた。
「ところで大佐はスーツを着ないんですか?」
素朴な疑問に思い当たるアルレット。
シャアはいつもの赤い軍服姿だった。
「私はモビルスーツに乗っても必ず帰ってくる主義だ。死にたくない一心でな。だから戦闘服だのノーマルスーツなどは着ないのだよ」
そう答えるシャア。
「ま、まぁ、このアッガイもそうですが、赤は闇に溶け込みやすく夜間迷彩として優秀ですけど……」
どこか納得できない表情でアルレットは言う。
黒や青系は夜間や宇宙空間などの低光量環境下(ローライト・コンディション)では逆に目立つのだ。
忍者が着ていた忍び装束も現実には黒ではなく蘇芳色と言われる濃い赤紫色などが使われていたという。
「き、きつい……」
一方、連邦軍側でも身体の線を浮き立たせたピッチピチの全身密着型スーツを着せられている女性が一人。
こちらはアルレットとは対照的な母性、オッパイの持ち主だったが……
そして連邦軍のモビルスーツ生産工場を発見するシャアたち。
通風孔の隙間から暗視カメラを差し込み、照明の落ちた工場内部にある機体を確認。
映し出された暗視カメラ特有の粒子が荒いモノクロ映像は、
「ここから見えるのは機体の一部、これは肩か? これまでに見たことのないタイプだな。量産型のモデルということか」
四角く角張った腕と肩装甲。
直線で構成されるこれは、
「噂に聞くガンダム、その量産型(Gundam type Mass-production model)か?」
RX-78ガンダムの噂はシャアも聞いている。
アナハイム製のにせガンダムがランバ・ラル隊で運用されているから、のはずだが、ではここにある機体は……?
ともあれ、
「シャア大佐」
「連邦軍もここまでこぎつけた。これなどしょせんは一部分の物だろうさ」
「やりますか? 大佐」
「無論だ。ラジム、お前の班はここに仕掛けろ」
「はっ」
「私とアカハナの班は木馬のドックに向かう」
「はっ」
「アルレットは……」
「ここでコンピュータからデータを吸い出させて下さい」
そのためにこそ、マシーンに対してニュータイプ能力を発揮できる彼女を連れて来たのだ。
「分かった。ラジム、彼女の護衛も頼む」
「はい」
こうして二手に分かれ、破壊工作と機密の奪取を図る。
■ライナーノーツ
ガルマによる戦略構想。
『機動戦士ガンダム』という作品が作られた1979年当時には、ベトナム戦争はまだ記憶に新しく。
(米軍の完全撤退が1973年、その後サイゴン陥落で終結したのが1975年)
ジャブローのジャングル戦も、それが念頭にあったのではないかと思われます。
それゆえ二次創作をするにしても、その辺の資料が参考になりますね。
そしてシャアたちが発見した謎の量産機の正体は……
今回は引っ張らずに次回更新で正体を明かしますのでご期待ください。
>「西暦の時代、ベトナム戦争でのケサン基地攻防戦の資料だな」
ベトナム戦争についてはこちらの資料を参考にしています。