ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第28話 大西洋に消ゆ Dパート
ガンキャノンに有効打を与えられないアッガイと交代し、
「こいつ、水中戦闘用の武器に何を持っているのだ? 見ていろ」
前方発射管から魚雷を放つブーンのグラブロ。
たまらず回避、海面に向かって逃げるガンキャノンに、
「このグラブロに対して迂闊に海中に入ったのがお前のミスだよ」
モビルアーマーの大出力をもって急接近。
繰り出したクローアームはガンキャノンのビームを受け熔解するものの、撃破まではできない。
すかさず反対側のクローでガンキャノンの脚をつかみ取る!
「おーら、捕まえたぞ、ガンキャノン」
ガンキャノンは必死にロケットエンジンを吹かすが逃れられない。
「はははははっ、モビルスーツといえどもどうだ、グラブロのパワーの前にはベイビー・サブミッションよ!」
「赤子の手をひねるようなもの」と言いたいらしい。
しかしこうして英語に言い換えられるとその例えが外国人にはどのように受け止められるのか心配になる日本人も多いのではないだろうか……
「くっ」
ビームライフルで攻撃しようにも、圧倒的なパワーで左右に振り回され照準が定まらない。
絶体絶命のピンチのアムロの脳裏を、かつてミヤビから受けたアドバイスの言葉が過る。
「アムロ、それは無理矢理空中で戦おうとするからよ。逆に考えましょう、『足を止めて戦った方がいいさ』と考えるのよ」
この『逆転の発想』を思い出したアムロは……
カイは操縦するガンペリーを、浮上しては攻撃してくるアッガイに向ける。
「スコープの十文字に敵の光が合ったらミサイルを撃つんだ。いいな?」
「うん、わかるよ」
うなずき、照準器を覗き込むミハル。
「あそこだ!」
浮上し、ハヤトのコア・ファイターを狙って頭部バルカンを撃つアッガイ。
『弾もミサイルもなくなった。カ、カイさん、頼む』
ハヤトからの通信。
ホワイトベースはカタパルトが損傷。
補給に帰ったらコア・ファイターはもうこの戦闘では出ることができない。
カタパルト無しで発艦できるミヤビのドラケンE改可翔式が唯一、補給を受けての再出撃が可能で、現在補給作業中だった。
「了解!」
カイは水中を走る機影を追う。
「レバーはひとつずつ押すんだ。落ち着いてな」
「う、うん」
対潜ミサイルを発射。
「はずれ、次」
しかし、
「うわっ」
「わあっ!」
アッガイの反撃を受け、ガンペリーの左側面ハッチが吹き飛ぶ。
幸いにしてそちらはガンキャノンの足場にされていた側。
右側面ハッチに装備されていた対潜ミサイルの誘爆は無かったが、
「ミハル、撃て、撃てっ」
「……カイ、レバー押しても発射しないよ」
「なんだと? こんな時に」
慌てて確かめるも反応はない。
「だ、駄目だ。今の攻撃で電気回路がやられたな。チッ」
「どうしたらやっつけられるの?」
「カタパルトの脇にあるレバーが動かせりゃいいんだが……」
それを聞いたミハルが席を立つ。
「ミハル、どこに行くんだ?」
「カイ、カタパルトの脇にレバーがあるんだろ」
「ミハル、危ねえぞ。うわっ!」
危うくアッガイからの射撃を回避する。
そして、荷室に降りるハッチを開けたミハルを、
『ここは私の出番ですよ。ミハルさんは座っていてください』
そう言ってモビルドールサラが追い抜き、
『ヒートワイヤー射出!』
右腕肘から先、グフ・カスタムに似たメカニカルアームに換装された腕からアンカー付きワイヤーを射出。
特殊部隊員のラペリング降下、ロープを使った懸垂下降のようにして下の、現在は吹き抜けになっているコンテナ部へと降りていく。
コクピットの照準器と同じ装置を見つけ、
『これですね』
と盤上に着地。
『サラ、いいか、ちゃんとやらねえといけないんだぞ。わかってんのか? うわっ』
機内通話機越しのカイの声。
『はい、カイさん、当たるように操縦を』
彼女は言う。
『カイさん』
『何だ?』
『ミハルさんと、お幸せに』
そして、最後に残されている1発の発射レバーを引き下ろす。
発射されるミサイル噴射のあおりを受け、モビルドールサラの義体が機外へと弾き飛ばされる、その瞬間……
『……サラミ?』
届く、カイの声に彼女の涙腺が崩壊する。
(何で分かっちゃうんでしょうね)
宙を舞いながら、サラに代わってこのドローン義体を操作していたサラスリーは考える。
(カイさん…… 最後まで、私の名前をちゃんと呼んでくれなかった……)
でも、それでいいのかもしれない。
カイが、マスターが付けてくれたこの世でただ一つの名前。
センスが無いけど、これがもらえただけでも自分は幸せだった。
サラスリーは胸を張って言える。
そして……
『どうしてあなたが居るんですかっ!?』
視界に一緒に落下しているノーマルスーツ姿の女性。
ミハルの姿を認めて驚愕する。
そう、彼女はモビルドールサラを追いかけて巻き込まれてしまったのだ!
『ヒートワイヤー射出!』
ミハルに向けワイヤーを射出して引き寄せ、いや自分の義体をつなぎとめる。
(なっ!?)
いつもの変わらぬ表情の下、盛大に慌てるミヤビ。
歴史の修正力じみた展開を恐れて、モビルドールサラにミハルが危険なことをしないよう、くれぐれも言いつけていたはずなのだが。
補給を受けて再出撃して見れば、ガンペリーから落ちていくミハルの姿に慌てて急行することに。
しかし、
(私はバナージのようなニュータイプじゃないんだけどぉ!?)
『機動戦士ガンダムUC』では主人公、バナージ・リンクスはヒロインのオードリー、つまりミネバ・ラオ・ザビをプチモビルスーツ、TOLRO-800トロハチで空中キャッチして救出していたが、あれはコロニー中心の無重力、ないし低重力部で救助してからの降下だし、そもそもミヤビにそんな器用な真似できるはずは無い!
だがその時、
『ガイドレーザー、来ます!』
(は?)
ミハルに取り付いたモビルドールサラの胸元から一筋のガイドレーザーがドラケンE改可翔式に届いていた。
『レーザーサーチャー同調。相対速度合わせます』
「これなら!」
受け止められる?
しかし飛行中には風圧でドラケンE改可翔式のコクピットハッチは開けられない。
いや、
「コクピットハッチ、強制排除!」
コクピット右側面にある「EMERGENCY FACE OPEN HANDLE」とマーキングされた誤操作防止カバーを開け、緊急脱出用レバーを引くミヤビ。
爆発ボルトによる強制排除装置が働き、コクピットハッチが弾け飛ぶ!
「相対速度、速いかしら? 掴める?」
『5、4、3、2、1』
「駄目!?」
わずかな差で間に合わない!?
だがしかし!
『ヒートワイヤー射出!!』
モビルドールサラから射出されたワイヤーが何とかつなぎ止め、ミハルの身体はドラケンE改可翔式のコクピット、ミヤビの前へ。
「ユー・ハブ・コントロール!」
『っ、アイ・ハブ!』
機体の操縦はサラに任せ、ミヤビは両手を使って受け止める。
史実より離れた場所でミサイル発射の煽りを受けたこと。
史実では3発同時発射された対潜ミサイルだったが、モビルドールサラが撃ったのは1発だけだったこと。
史実と違い、ノーマルスーツとヘルメットを着けていたこと。
これらの違いにより、ミハルは無事だった。
「ふぅ……」
そして……
限界を超えて酷使され役目を果たし終わったのか、砕け散るモビルドールサラの右腕メカニカルアーム。
彼女は宙を舞い、大西洋に消えた。
一方アムロのガンキャノンはグラブロの強力なパワーで振り回され、その機体はもがくこともなくぐったりとしていた。
右手に持っていたはずのビームライフルも無い。
「あっ、ガンキャノンだッ! 海の中にガンキャノンが見えたぞ」
「いかん、ぐ…… ぐったりしていたぞ」
空中からハヤトとリュウのコア・ファイターがその姿を見つけるが、武器を使い果たした彼らにはどうにもできない。
しかし、それに対してサラナインが、
『ぐったり……? ぜんぜんもがいていなかったんですか? うーん、それはひょっとしたらナイスな考えなのかも』
「え?」
「ん、パイロットが気でも失ったか?」
動かなくなったガンキャノンを、ブーンは確認のため引き寄せセンサーにかざす。
そして、ガンキャノンの右手から何かが零れ落ち、
「何だこりゃあ?」
グラブロの目前で爆発!
『遅延信管を使ったハンドグレネード爆雷のお味はどう? これだけ近距離で食らったら、センサーは真っ白でしょう!!』
無い胸を張るサラツー。
ミヤビの前世でもアメリカ軍海兵隊が、陸軍とは異なる缶型のMK3爆裂手榴弾を使っていたが。
これは金属片を広範囲にばら撒く破片手榴弾よりも危害半径が小さく、接近戦でも友軍を巻き込む危険性が低い。
そして水中で炸裂させても水圧によって兵士を殺傷することができ、いわば超小型の爆雷として機能するため、水中工作員(フロッグマン)などを殺傷ないし退散させるためにも使用されていたものだ。
アムロは気絶したふりをして、ガンキャノンのハンドグレネードを同じように爆雷代わりに使う瞬間を待っていたのだ!
『ほんの少し用心深ければ戦いに勝てたのにね』
わずかな憐みを込めてサラツーは言う。
『そしてアムロは注意深いのよ! ビームライフルは左手に持ち替えて機体の影に隠していた!』
ジオンのモビルスーツは基本、銃器は右手で操作するようになっているがゆえにブーンはその可能性を見落としてしまったのだ。
そして逆に地球連邦軍のモビルスーツ用の銃器は『機動戦士ガンダム』劇中でジムがビームスプレーガンを左手で構えたり、ガンキャノン自体もビームライフルを左手で持っていたことがあったりしたように基本アンビ、両利き対応。
ゆえにガンキャノンは左手のビームライフルをそのまま持ち替えることも無くグラブロの機体中枢に向ける!
この近距離なら水による減衰も最小限で済む!!
「くらえ!」
『ブッ壊すほど…… シュートッ!』
アムロとサラツーの叫びと共に放たれるビーム。
そしてグラブロはビームライフルの光に貫かれ、撃破された。
ホワイトベースデッキに響く、切ない泣き声。
「モビルドールサラが居なくなった?」
困惑するブライトに、ジョブが答える。
「ええ。ガンペリーでカイと一緒に出撃したらしいんですが」
顔を見合わせる一同。
「それで……」
ブライトは根本的な疑問を口にする。
「何でセイラが泣いているんだ?」
みな、自分の方が聞きたいという顔だが、当のセイラは周囲の目も気にせず、
「どうして居なくなってしまったのーっ!」
などと叫んでいる。
それぐらいなら自分が欲しかったのに。
いや、そもそもベルファストの港でカイに預けられた時にお金を積んで自分のものにしておけば……
ぶつぶつとつぶやかれる嘆きに、そっとその場を離れるミヤビ。
まぁ、モビルドールサラはサラやサラシリーズに遠隔操作されるミニサイズの歩行型ドローン。
予備の義体はまだあるし、そもそもAI本体は義体がどうなろうと無事、ではあるのだが。
今のセイラに言ったら、問答無用で持って行かれそうで怖かったのだ。
さすがにこんな風に病んだ様子の人物に、自分が育てたAIが操作する義体をくれてやるのは人身売買みたいでどうかと思うのだ。
次回予告
連邦軍本部ジャブロー。
シャアの指揮する猛撃の中、ミヤビは前後対称のボディに短い脚、異形のモビルスーツと出会う。
それも一機ではなく複数。
一方、
「大丈夫だ! こんなコトもあろうかと…… 私は新しいモビルスーツを用意しておいた!!」
対するウッディ大尉配下の作業員たちがホワイトベースの修理のために乗り込んでいた作業用重機は、
「ドラケンE改の簡易量産型モビルスーツ、SM(サム)!!」
次回『ジャブローに散撒(ばらま)く!』
君は生き延びることができるか?
■ライナーノーツ
ミハル、何とか助かりました。
代わりにモビルドールサラが大西洋に消えましたが。
そしてガンキャノン対グラブロは、アムロの策で勝利。
> アムロは気絶したふりをして、ガンキャノンのハンドグレネードを同じように爆雷代わりに使う瞬間を待っていたのだ!
劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙篇』のア・バオア・クー戦で要塞突入の際に使用されたガンキャノンのハンドグレネードですが、こちらも破片ではなく爆発で攻撃する爆裂手榴弾だと思うんですよね。
形状がこのように、