ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第28話 大西洋に消ゆ Aパート


 ホワイトベースはシャアの攻撃を退けて北アイルランドをあとにした。
 しかし、その中にシャアの密命を受けた少女が潜んでいた。
 ミハル・ラトキエ。
 決してスパイを職業とする少女ではない。



「思ったより連邦軍のクジラは大きかったようだな」

 大西洋上、地球連邦軍の艦隊を潜水攻撃で見事に沈めるシャア。

「大佐、ブーン艦長から入電です」
「ブーンから?」

 マッドアングラーに送られた電文を読む。

「フン、ブーンめ。スパイを木馬に潜り込ませたか。しかし、どうやって情報を取るつもりだ?」



 士官室を狙うこと。
 第一、行き先をつきとめる。
 第二、木馬の性能に関するあらゆる資料。
 以上の情報を手に入れるのだ。
 本朝五時、接触を取る。

 ミハルが受け取った命令書に書かれていたことだ。
 彼女は士官の部屋、つまりブライトの部屋に潜入するが、

「ブライトさーん、そろそろブリッジに上がってください」

 部屋の外からかけられた声に、慌ててデスクの下に隠れる。

「あれ? もう上がってんの?」

 そう言って部屋に入ってきたのはカイだった。
 彼は部屋を見回すが……

「カイ」

 そこにブライトがミライを連れて現れる。

「えっ? 逢引き?」
「バカなことを言うな。封緘命令の開封だ」

 ブライトは封筒に封印された命令書をかざして言う。

「ふうかん?」

 なんだそりゃ、と考えるカイに、

「機密情報を伝達するのに、暗号電文よりさらに秘匿性を高めるために取られる方式だ。あらかじめこのように開封日時を記した命令書を手渡ししておくことで情報の拡散、流出を防ぐんだ」

 そう答えるブライト。

「へぇ? そりゃまたアナクロな」

 とカイは驚くが、軍事に限らずビジネスでも入札による契約時など『定められた日時までは封印して保管しておかなければならない書類』に対して使われる手法ではある。
 ミヤビなども前世で扱っていたし、紙というメディアが死滅していない宇宙世紀でも使われ続けているものだ。

 そして、

「ミライは副官役としての開封立ち合いだよ」

 そういうことだった。

「ふぅん、じゃあ俺はお邪魔だな」
「いや開封には開封者のほか二名以上の立ち合いが不可欠だ。お前も立ち会ってくれ」

 俺が?
 とでもいうように自分の顔を指さすカイ。
 そして、

「お呼びかしら、ブライトさん」

 そう言って開いたままのドアから現れるミヤビ、その肩に乗っているモビルドールサラ。
 ブライトはバツが悪そうに、

「ミヤビさんにも立ち会いを頼もうと思ったんだが、彼女が軍人でないことをすっかり忘れていてな」

 ミヤビはRX計画、そしてV作戦のためにヤシマ重工から出向しているだけの民間人である。
 常にパイロット用のノーマルスーツなんぞを着て歩いているから皆、忘れがちだが軍属では無いのだ。
 ブライトは咳払いして、

「ブライト・ノアより各員。本時刻をもって定刻21:00と認める」
「ミライ・ヤシマ、同意します」
「よし、それでは開封しよう」

 ペーパーナイフで封印を切り、開封。

「ホワイトベースの目的地がパナマ基地というのはジオンの諜報員に対する偽装。実際には南米の宇宙船用ドックに入るべし、か」

 つまりはミヤビの知る史実どおりのジャブロー行きということだった。
 そして、何か生地が裂ける音。

「なんだ?」
「何が破れたんだろ?」

 それぞれが自分の服を確かめる中、ミヤビは、

「ミライ…… また大きくなったのね?」

 と呆れたように言い、

「ねっ、姉さんっ!?」

 真っ赤になって両手で胸を隠そうとするミライ。
 無論、そんなことで隠せるような大きさではないのだが。

「す、少し席を外させてもらうわね」

 彼女はそう言ってそそくさと退室する。
 服の破れを確認するのだろう。
 まぁ、実際は破れてなどいないのだが。
 そうして荒事に慣れていない妹を退室させたミヤビは腰のホルスターからアーマーマグナムを抜くと、

「机の下に隠れている人、出てきなさい」

 フォアグリップを前後させ薬室にショットシェルを装填する音をもって威嚇し、銃口を向ける。

「待って、撃たないで!」
「撃たれたくなかったらまずは武器を捨てなさい。ゆっくりよ」
「は、はい……」

 床に転がされる拳銃。
 ミヤビはそれを目にしても視線を、そして銃口をそらさずにカイに言う。

「カイ、拾って」
「あ、ああ」

 銃を拾うカイ。
 地球連邦軍制式拳銃、M-71だ。
 そして、それに続いて机の下から現れる少女。

「ん? あっ、ミハルじゃねえか。なんで?」

 その姿を見て驚愕するカイ。
 ミハルは見知ったカイの姿を見てすがるように、

「私、あんたについて行きたかったんだよ。それでこの船に乗ったんだけど」

 と言い訳をするが……

『カイさん、私言いましたよね、特技は汗の味でウソを見抜くこと』

 右腕のメカニカルアームに装備されたヒートワイヤーを天井に向け射出して先端アンカーのマグネットで固定。
 それを支点に振り子のように宙を舞い、ミハルの肩に飛び移るモビルドールサラ。

『私は人が本当のことを言っているか分かるんです。顔の皮膚を見ると、汗とかで光を反射するでしょう? その感じで見分けるんです。「汗の味」を舐めればもっと確実に分かりますね』

 そして、冷や汗を流すミハルの頬に唇を寄せ……

『この味は! ……ウソをついてる『味』ですよ、ミハルさん!』
「いや、そういうのいいから」

 サラの名演技をそう言って片付けるミヤビ。
 実際にはモビルドールサラはセンサーによる体表温度の変化や脈拍の乱れを採取して、普通にウソ発見器としても働くわけで。
 動揺を誘い、判別をしやすくするハッタリだったのだが。

 一方、一人考え込んでいたブライトは顔を上げるとこう言った。

「私にいい考えがある」

 そういうわけで、

「サイズ合ってないようだし、これに着替えてね」

 と、念のために上から下まで全部新しいものに着替えさせられたミハルは、

「それじゃあ、明日の朝五時に接触を取る予定なのね」

 ウソ発見器としても働くモビルドールサラのアシストにより情報を丸裸にされてしまう。

 まぁ尋問といっても同性のミヤビが担当し、安心させるために顔見知りのカイが同席。
 ブライトは落ち着いた様子で時折口を挟むだけで、基本聞くだけといった体勢。
 よく尋問には怖い刑事と優しい刑事を用意するテクニックが使われるが、ここには優しい刑事しか居ないというぬるさだった。
 これはミハルが生きるためにジオンに協力しているだけの素人の少女と分かっているからこその話である。
 喉を潤すためのハーブティーまで出る始末だ。

 なお……
 ブライトもカイもミハルのことをあっさり受け入れ過ぎじゃない? という話もあるが、これはミヤビのせいだ。
 自分より慌てる者が居るとかえって冷静になれる、という話があったが。
 ミヤビの場合、逆に表情筋が死んだ真顔でまったく動揺無く対応するため、男として彼女より慌てるわけにいかない、という見栄と。
 何よりこれまでの実績が作る、ミヤビが一緒になって対応してくれることへの安心感、心の余裕が凄いのだ。
 まぁ、これはミヤビが有能な訳ではなく、彼女の前世の記憶と、また自分の力を過信することなく必要な時にはサラも含め、周囲の存在の能力に頼り、上手く使うことによるものなのだが、他者にそれが分かるはずも無く。

 一方、ブライトに、

「彼はこういうことに詳しいはずだ」

 と、ミハルが身に着けていた時計の解析について依頼されていたメカニックのオムルからは、

『この時計、確かに通信装置が組み込まれていますね。ただ電波の有効範囲は狭いですよ。相手がホワイトベースの中に居ないと届かないんじゃないのかなぁ』

 といった報告が上がっていた。
 史実でもブライトに「彼は爆弾に詳しいはずだ」などと言われていたオムルだったが、一体彼はブライトの中でどんな扱いなのか。
 裏モノを扱ったアングラ情報誌でも愛読しているイメージなのだろうか……

「ですからミヤビさん、彼女には当初に公表されていた予定どおりパナマ基地に向かうと伝えてもらいましょう。その後、南米ジャブローへと進路を切り替えれば確実にジオンの裏をかくことができる」

 自らの作戦(いい考え)を語るブライト。
 それから若干言いづらそうに、

「ですから……」
「協力者の身柄の保護ね。いいわ、彼女はヤシマ・ファイアアンドセキュリティの連絡員で、手違いにより乗っていたところを出港されてしまった」

 ミヤビはミハルを見つめて言う。

「後で遡って入社履歴を作ってあげるわ。ジャブローに着いたらシーマさんに引き取ってもらって、実際に事務員として働いてもらいましょう。弟さん、妹さんも保護してね」
「そ、そんなにしてもらっていいんですか?」

 驚くミハルに、ミヤビは言う。

「協力してもらうからにはこれぐらい、させてちょうだい」

 そしてカイも、

「甘えさせてもらっとけよ。弟や妹のためだと思ってさ」

 と言い添える。
 ブライトは、

「好意が信じられない、というのなら、確実に協力してもらうための報酬をミヤビさんに用意してもらった、そのように考えればいいんじゃないのかな」

 そう言う。
 柔らかな物言いは彼らしくないようにも思えるが、実際には史実でもアムロの母親に十分配慮した言い方をしていたように、基本、彼は民間人には普通に礼儀正しく接する男だ。
 ジオンのスパイをやっていたミハルが純粋な民間人と呼べるかはさておき。

「まぁ何にせよ、よろしく。カイ、サラちゃん、彼女の面倒を見てあげてね」

 そう言って席を立つミヤビ。
 ……夜に弱い彼女には、活動限界が迫っているのだった。



 翌日早朝。

「四時の方向に民間機です。救助信号が出ています」
「救助信号? 確かに民間機か?」

 マーカーからの報告にブライトは眉をひそめる。

「フラウ・ボゥ、どうなんだ?」
「はい、確認しています」

 データと照合を行うが、

「登録ナンバーによると、ヴェルデ諸島の漁業組合の飛行機です」
「なるほど? それをジオンが奪ったか……」

 さすがに事前情報があればブライトも疑う。
 しかし、これも敵を欺く作戦のうちの一つ。

「よし、うしろのデッキから着艦するように伝えろ」
「はい」
「第4デッキ開け。民間機を収容する」



 後方デッキから相対速度を合わせ着艦する民間小型機。
 自らこの情報収集任務に出たブーンは、

「ジオンの人間で木馬に潜り込んだのは我々が初めてじゃないかな?」

 と部下のキャリオカに言うが、捕虜として捕まったが脱走したというコズンという前例もあるし、史実ならランバ・ラル隊も侵入している。
 まぁ、密かに潜入という意味なら初めてか。

「はあ」
「お前は何もしゃべるな」
「は?」
「ジオン訛りが強すぎる」
「は、はい」

 ガンダムファンの間では有名な『ジオン訛り』について初めて言及されたシーンである。
 ブーンは機体を降りると対応に現れたブライトに状況を説明する。

「実は、魚の群れを探してたら、ジオンの戦闘機が冗談半分に撃ってきてさ」
「いつです?」
「20分ぐらい前かなぁ」

 ブライトが、応急処置に当たっているクルーに確認の目を向けるが彼は、

「こりゃあ20ミリの不発弾にやられたんだな」

 というように、偽装をされている模様。
 ブライトは努めて表情に出ないよう冷静に、

「応急修理して帰れるだけの燃料は貸します」

 そう対応。

「ありがたい」
「しかし、そこの部屋以外の立ち入りは禁止します」

 何か細工されてはたまらないとばかりに言う。

「わかってるって」

 とブーンは聞き流し、

「おい、キャリオカ」

 部下に声をかけて休憩スペースへと向かう。
 その背にブライトは、

「修理代の請求書は組合へまわしますよ」

 と牽制半分、騙されているという偽装半分に言っておくが、ブーンは手のひらをひらひらと振って、

「フッ、安くしといてね」

 そう答えるのだった。
 そして、

「トイレを」

 と、監視に立っていたジョブ・ジョンに断って部屋を出てその目を逃れる。
 個室の便器に腰かけ、時計に偽装した通信機のスイッチを入れる。

 なお、ホワイトベースのトイレの個室は海外旅行に行くと体験できるアレ。
 トイレのドアの上下が日本人の感覚からすると異様に開いていて外から足元、そして近づくと顔まで丸見えなタイプだ。
 レイプ等、犯罪防止のためのものだが、その辺きっちりと描写されていた『機動戦士ガンダム』という番組はそこまでリアルを追求していたと言えよう。
 1979年当時の視聴対象者である少年たちには異常に映ったかも知れないが……



「……来た」

 カイとモビルドールサラが見守る中、ミハルの腕時計型通信装置に信号が入る。
 彼女がカイに瞳を向けると、彼は上手くやれ、信じているとばかりに真剣な表情でうなずく。

『107号、答えられたら音声で送れ。木馬の目的地は?』
「パナマの連邦軍基地」
『よーし、あとは?』
「まだです」
『上出来だ。頑張ってくれ』

 そうして通信が切れる。

「ふぅ」
「よくやったな、ミハル」
「ああ、声が震えなかったのは……」

 ミハルはカイをじっと見つめて、

「あんたが見守ってくれていたお陰さ。そうでなきゃ」
「ミハル……」

 見つめあう、二人。
 そして、

(私、完全にお邪魔虫みたいですね)

 と気配を殺し、そっと目をそらすモビルドールサラだった。

 なお、この場に居ないミヤビはもちろんまだベッドの中。
 まぁ、彼女に言わせれば、朝5時に連絡を取ると指定したブーンといい、報告を受けてその日の朝6時にオデッサ作戦の開始を決めたレビル将軍といい(つまりそれ以前の時刻に起きて勤務していたということ)、

「何でこんなに朝早くから動こうとするの、それとも『機動戦士ガンダム』放映時、西暦1979年当時って、こんな日の出前から働くのが普通だったの!?」

 という話だったが。



■ライナーノーツ

 諜報戦の続き、といった感じでしたが、上手く行くかは次回のお楽しみということで。
 まぁ、戦闘開始になるんですけどね、ええ。


> 地球連邦軍制式拳銃、M-71だ。
> そして、それに続いて机の下から現れる少女。

 M-71は過去、ガレージキットとして販売されたりしましたが、現在では入手は困難でしょう。
 では今でも手に入る立体の参考物は、というとミハルが着ている女性制服とセットでM-71のディティールがよくわかるセイラさんの1/8スケールのフィギュアが一番でしょうか?

メガハウス エクセレントモデル RAHDXG.A.NEO 機動戦士ガンダム セイラ・マス 約1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア
メガハウス(MegaHouse) (2015-08-02)

 技術の進歩って凄いですよねぇ。
 なおセイラさんであるためか、ジオン軍制式拳銃ナバン62式も付属していたり。


> 裏モノを扱ったアングラ情報誌でも愛読しているイメージなのだろうか……

 盗聴器とかショットガンマイク、コンクリートマイク。
 解錠のためのピッキングツールやその使い方、鍵の構造などなど。
 話の種といいますか、ネタとして読むには、また創作の参考とするには面白いですよね、こういう雑誌。
 逆にセキュリティの勉強にもなりますし。

 一方、軍事的、または国家の諜報機関などの情報が知りたいという方なら、

コンバット・バイブル〈4〉情報バトル編―戦いは情報収集で決まる!!
信, 上田, 元貞, 毛利
日本出版社 (1999-11)

 この辺の方が分かりやすくて参考になりますが。


 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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