ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第1話 ガンダム大地に立たない!!


 辺境のスペースコロニー、サイド7に立ち上がったのは地球連邦軍モビルスーツRX−78ガンダム!!
 ではなくRX−77ガンキャノンだった。
 おかげでそれをフォローしたミヤビとその乗機である全高5メートルにも満たないミドルモビルスーツ、ドラケンE改は散々な目に遭っていた。
 文字どおりの奥の手、甲壱型腕ビームサーベルまで起動して攻めてきたジオン軍モビルスーツ、ザクに対峙する……



「ビームサーベル展開!」
ドラケンE改ビームサーベル
 ドラケンE改の右腕、ヒジより下のハードポイントに装着された『甲壱型腕ビームサーベル』。
 Iフィールド制御板を兼ねた3本のクローを取り付けた、その先端からミヤビの音声コマンド入力によりビーム刃が伸びる。

『ビームサーベル起動しました。燃料電池全力稼働を開始。活動限界まであと4分53秒』

 機体制御OSが合成音声で告げると同時に、モニターの隅に若干増減しながらも確実に減っていく活動限界までの時間を映し出す。
 ビームサーベルをフルスペックで起動、維持できる電力をミドルモビルスーツが供給することはできない。
 そのためビーム刃の長さを60%以下に制限しているが、それでも作動可能時間は短く5分以下。
 限界が訪れると自動停止してしまうため、それまでに決着をつける必要がある。

「行きます!」

 ジェット・ローラーダッシュで急加速!
 動力源である燃料電池の動作に伴い発生する熱は原型機であるドラケンEにおける背面放熱器の代わりに内蔵されている熱回収器を介して推進剤の加熱に使われている。
 このため燃料電池全力運転による発熱は副次的効果として推進剤噴射速度上昇をもたらし、一時的に機動力が向上する。

 ……殺人的な加速だ!

 歯を食いしばるミヤビ。
 高速で走行する機体から、さらに水蒸気が噴き出す。
 利用しきれない余剰熱は両肩、尻に搭載された放熱器から放出されるが、この時、燃料電池から排出される水を放熱器に噴霧して温度を下げる機構が働く。
 そうして発散される水蒸気は熱量を持った残像を作り出し敵の熱源センサーを誤動作させるのだ!

「今!」

 ビームサーベルをターンXのシャイニングフィンガーソードのように構え、ロケットエンジンを全開にして、突っ込む!
 しかし……

 極度の集中によって時間がゆっくりと進むように感じられる、いわゆるゾーンという状態になったミヤビはふと思い出す。

 ビームサーベルでザクをぶった斬ったとして。
 その核融合炉が爆発したらコロニーの外壁に大穴が開くんじゃないの?

 と。

 前世の記憶では、それでテム・レイ博士は宇宙に吸い出され酸素欠乏症になってしまったのだ。
 彼を連れ戻しに来たミヤビがやってしまっては本末転倒である。
 かといってアムロ少年のようにコクピットだけを狙って突くなんて器用な真似はできるとも思えない。
 そんな能力は彼女には無い。
 ミヤビは即座に…… 丸投げした。

「サラちゃん、おすすめの太刀筋、ジェネレーター回避で無力化!」
『はい、ミヤビさん』

 電子音声と共にヘルメット付属のバイザー型HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に表示される外部映像へ『ここを斬って』というラインが追加表示される。
 そう、機動戦士ガンダム第19話「ランバ・ラル特攻!」にてシールドを構えながら突進してくるガンダムに対し、ランバ・ラルのグフのモニター上に表示されたコンピュータの指示のように。

 『サラ』、彼女はドラケンE改に搭載された簡易サポートAIだ。
 未来においてSガンダムに搭載されるルーツ博士開発の人工知能、AIである『ALICE』。
 その原型となったプログラムから株分けしてもらいミヤビたちが育てた存在だ。

 『サラ』というネーミングはもちろん、ミヤビの前世知識の中にあった『ガンダムビルドダイバーズ』登場のヒロイン、電子生命体の彼女から。
 少女の姿をしたアバターも、また涼やかな音声も可能な限り再現してある。

 Sガンダムに搭載されたALICEの稼働には大容量のコンピュータシステムが必要だったが、これは従来の兵器をはるかに超えた複雑さを持つ数万点以上の工業製品の集合体であるモビルスーツ、その中でも特に化け物じみた複雑な機体システムを持つSガンダムを単独で完全に制御する能力を持つよう設計されていたからだ。
 作業用機械の延長線上にあるミドルモビルスーツ、ドラケンE改、その簡素な機体制御をサポートする程度ならせいぜい低級AIが稼働するハロ2台分のコンピュータで十分に動かせたし、何かあってコンピュータの負荷が上がった場合は速やかに休眠してリソースを開放、最低限の対応を行う人工無脳に切り替わるようになっている。

(でも……)

 とミヤビは考える。
 AIの考えた太刀筋が、果たして熟練のパイロットに通じるだろうかと。

 機動兵器の操縦はAIが人間に勝てない分野だ。
 AIは人間の何倍もの速度で理詰めで思考を進めていくには向いているが、ある意味それが弱点でもある。
 理詰めで行動や動作を最適化し無駄を省き効率化していくと、その制御は一つの最適解に収束していく。
 ミヤビの前世の記憶、『機動戦士ガンダム』の劇中でランバ・ラルが、

「正確な射撃だ。それゆえコンピューターには予想しやすい」

 と言ってコンピュータのアシストにより、その場を一歩も動くことなく機体をそらすだけで攻撃をかわしているが、そういうことだ。
 AIが導き出すような理想的で正確な動きは、だからこそ予測されやすくなってしまうのだ。

 それゆえAI制御の兵器が開発できたとしても練度の高いパイロットなら簡単にその動きを先読みできるし、そうでなくとも敵パイロットを補助するAIのアシストで新兵でも対処できてしまう。
 そう、無人機と有人機の比較でよくAIと人間の対比を行うが、実際には「AI」対「AIのサポートを受けた人間」を比較しなければならないのだから。

 そして、たとえ予測されるのを避けるために制御に作為的に味付けをして変化を出しても、AIが持つ高速の演算性が違いを即座に埋めて同質化してしまうので意味が無い。
 これがAIの持つジレンマだった。
 理詰めでは個性や多様性を産み出すことができないのだ。
 なぜならそれは人間が持つこだわりや嗜好という一見、非効率で非論理的としか思えないものから生み出されるものだからだ。
 そしてそれは、

 理論化、言語化が困難な直感的な選択反応の圧倒的な差。
 人間が持つ理詰めでは超えられない動物的直感。

 といったAIには持ちえない力を生む。
 それを得るためにこそ『ALICE』、つまり『Advanced Logistic&In-consequence Cognizing Equipment = 発展型論理・非論理認識装置』は開発されていたのだ。
 だからこそ『ALICE』は人と同じように思考し、感情を持ち、執着を示すようになった。
 では、サラは?
 ミヤビが育てた彼女は人と同じ感情を本当の意味で持つことができているのだろうか?

 ランバ・ラルはアムロ・レイの正確な射撃をコンピュータのアシストによりかわして見せ、その後コンピュータの指示どおりにヒートサーベルをふるった結果、逆にアムロにスカされて一太刀浴びせられてしまっていた。
 そして同様の支援をサラから受けているミヤビが、同じように返り討ちにあって撃破されてしまう可能性は多分にあった。

 だが、

「ままよ!」

 ミヤビは考えることを止めた。
 哲学戦闘できるほど余裕のある覚醒アムロやシャア、ガトーやコウのような連中と違って、ごちゃごちゃ考えたりしゃべったりしながら戦えるほどミヤビのスペックは高くない。
 それにへっぽこなミヤビの腕前ではどうせサラの指示以上の動きなんてできないし、最初から選択肢は無いのだった。
 だから今はサラを信じるのみ!

 考えるな、感じるんだ。

 有名な言葉を心に唱え、無心で機体を操る。
 機体を右に振ってからの左への操舵、フェイントからの進路変更。
 背面装備の推力偏向制御ロケットエンジン、その可動ノズルによる噴射まで使った常識外れの機動に、横殴りのGがミヤビを襲う!
 耐Gスーツ機能を持ったノーマルスーツ。
 そしてドラケンE改は6点式ハーネス(シートベルト)の付いたバケットシートによりパイロットを保持しているが、さらにジェットコースターに使われているようなバー式の安全装置、セイフティバーを下すようになっている。
 原型機のドラケンEにも装備されていたがこちらは出来が良くなく胸や腹に食い込むため、パイロットの中には古タオルを巻きつけてクッションとしていた者も居たほどだったが。
 ドラケンE改に採用されているものは人間工学に基づき改良されたものでクッション性、安全性が飛躍的に高められている。
 オプションでいくつかのグレードが用意されているが、標準品でもオフロードバイク用のブレストガードを装備しているのと同等以上のプロテクション性能を持っていて、肋骨や鎖骨などを骨折から守ってくれるものだった。
 それらに守られつつ、ミヤビはドラケンE改を操った。
 すれ違いざまに繰り出されるビームサーベル。

 紫電一閃!

 その光の軌跡がザクの装甲を両断する!



「燃え尽きたよ、真っ白に……」

 ミヤビは某ボクサー漫画の主人公のようなセリフを吐きバケット・シートに身体を預けた。
 斬り捨てられ倒れ伏すザクを背景に、強制冷却のための水蒸気を両肩、尻の放熱器から立ち上らせ立ち尽くすドラケンE改の姿はV−MAX発動後、冷却中のSPTレイズナーか、最終回で本当に燃やされてしまったコンバットアーマー、ダグラムかといったところ。
 実際、ミヤビの気分はもう最終回だ。
 最初からクライマックスはヒーローならぬ常人のミヤビにはきつすぎる。

 しかし……

「そうだ、それでいいのだミヤビ君。この新しいメカのおかげだ、甲壱型腕ビームサーベルは使えるぞ。はははは、あははは、あはははっ。地球連邦万歳だ!」

 いや目的だったテム・レイ博士の保護は果たせたけど、誰かこのおっさんを黙らせてくれ、とミヤビは思う。
 もっとも、これを招いたのも自分の選択と行いの結果か。
 そう思うと本当に泣けてきた。

 ああ、そうか。
 ここはあのセリフだ。

「フッ、認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」

 ミヤビはぐぐもった声でそうつぶやいたが、サラには聞き取りづらかったらしい。

『バカさゆえのあやまち?』

 きょとんとした様子でそう聞き返され、それでも合ってるなー、と黄昏れるミヤビだった。



次回予告
 ホワイトベースで脱出を図るミヤビたちを待ち受けていたシャアは、ついに赤い彗星の本領を発揮してドラケンE改に迫る。
 それはシャアにとってもミヤビにとっても、初めて体験する恐ろしい戦いであった。
「というかガンダムはどうしたの? 助けてアムロ君!」と叫びたいミヤビ。
 次回『ドラケン破壊命令』
 君は、生き延びることができるか?



■ライナーノーツ

 お待たせしておりました序章の続き、第1話をお届けしました。
 メインヒロイン(?)のサラちゃんの登場です。

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 作中の人工知能、AIの持つ特性に関しては実際にAIを開発したり、仕事で利用したりといった方々から伺ったお話を元に書いております。
 最先端技術のお話のアレコレを聞くのは面白いですね。
 今回はそれを作品作りに生かしてみました。

 ご意見、ご感想、リクエスト等がありましたら、こちらまでお寄せ下さい。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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