デラーズの死に、ガトーが吠える。

「うおおおおおおっっ!!」



機動戦士ドラッツェ0083 STARDUST MEMORY
最終話「駆け抜ける嵐」




「何ですって!? 奴らと一緒にソーラー・システムを守れと?」
『そうだ。今やシーマ艦隊は我々と行動を共にしている』

 モビルスーツ搭載型サラミス級巡洋艦ボスニアに、第一軌道艦隊司令代行のバスク・オム大佐からの信じられないような指令が下る。

「っく、了解!」

 様々な矛盾をはらんで、事態は推移する。



「あと210分、鏡などには……!」

 ガトーのノイエ・ジールが地球軌道艦隊に迫る。



「敵モビルアーマー接近! 距離1万2000!」
「シーマめ、しくじったか! ソーラー・システム、照射までの時間を稼げ!」



「ええい! コントロール艦さえ叩けば……」

 発射直前のソーラー・システムに対してぎりぎりの特攻をかけるガトー。



「展開率、81パーセント。送れぇっ!」
「F4・F5・F6、フォーカシングスタンバイ!」
「L15、アレイチェック急げ!」

 急ぎ、照射態勢を取るソーラー・システム。



「ガイドビーコンなんか出すなぁ! やられたいのか!」

 アナハイムから提供されたモビルスーツガーベラ・テトラでガトーを追うシーマだったが、直後に母艦、ザンジバル級機動巡洋艦リリー・マルレーンを失う。

「言わんこっちゃない……」

 一年戦争以来、共にしてきた部下達を失い、思わずため息を吐くシーマ。



「スペース・コロニー、距離4000! ソーラー・システムII、照射70秒前!」
「おぉ、コロニーは肉眼で見えるぞ! もういい、照射!」
「あ、あと30秒……」
「構わん! やれ!」



「あ! あれか!」

 コントロール艦を発見するガトー。

「南無三!」



「大佐! コントロール艦が!」
「何!?」

 バスク・オム大佐の元に、ソーラー・システムのコントロール艦が破壊されたという連絡が入る。
 と、同時に姿を現すコロニー。

「ぃ、生きていた…… あ、な、何をしている! 回避だ、緊急回避ぃ!」



「フッフフフフフ、もはや誰も止められんのだ…… 後は!」

 ノイエ・ジールをコロニーに向けるガトー。



『貴様らがぁっ!』

 怒りのまま襲いかかってくるガンダム3号機の攻撃にさらされるシーマ。

『シーマ様、お退きを!』
「どこへ退くって言うんだい!」

 シーマのガーベラ・テトラを、ガンダム3号機のビーム砲が串刺しにした!

「何!? はああああっ……」



「……ニナ・パープルトン」
「お願いよ、ガトー! もう充分でしょ? こんな事は止め……」
「済んではいない! 私は『星の屑』を完遂する」

 落下するコロニーの推進器制御装置を前に、一組の男女が愁嘆場を演じていた。

「このコロニーは、間違いなく地球に落ちるのよ。ジャブローでなくてもいいじゃない!」
「ジャブローではない。……キミにはわからんのだ」
「どうして? 何故また私の前に現れたの? あの日突然姿を消したあなたが……」
「すべてを忘れてほしかったのだ。月に身を委ね、時期の満ちるのをひたすらに待っていたあの頃を……」
「……忘れようとしていたわ。いえ、忘れてたわ!」
「私はジオンの再興に身を託したのだ」
「ぅぅ……ぅぅ……ぁ!」
「……キミこそが、『星の屑』の真の目撃者なのかもしれない」

 そこに一発の銃弾がガトーを襲った。

「ガトー! しっかりして!」
「ニナ?」
「やめて、コウ! もう戦う理由はないはずよ」

 ガンダムパイロット、コウ・ウラキだった。

「どいてくれ! コイツが何をしたか知っているだろう!」
「私は…… あなたたちの対決を見届けなければならなかったわ。どちらかが倒れるまで…… だから、こうならないように祈ってたのに!」

 慣れない銃をコウ・ウラキに向け、ガトーを守ろうとするニナ。

「……コウ、やめて」
「ニナ…… 嘘だろ、ニナ。そいつはコロニーを…… ガンダム2号機を!」

 ニナはトリガーを絞り、コウがくずおれた。

「そういう問題じゃないんだよ。コウ・ウラキ中尉」
「君は……」

 ケンだった。
 慣れないニナの射撃が当たった訳では無い。
 コウの背後から現れた人影、ケンがコウの首筋に当て身を加えたのだ。

「少佐殿も、女性の幸せと理念を両立させるぐらいの甲斐性を見せて下さいね。それがジオンの希望につながるんですから」
「ジオンの希望?」
「戦いはこの一戦で終わりではないのですよ。少佐のような方には、まだまだ殉じて楽になられちゃ困るんです。亡くなったデラーズ閣下もきっとそう考えるはず」
「楽…… か」

 ケンは、よいしょとコウの身体を背負って、ニナに問いかける。

「そこの彼女、ガトー少佐について行けば、アクシズで辛い生活が待ってるかも知れないぞ。それでも一緒に居たいのかい?」

 ニナは、ケンの言葉をゆっくりと噛みしめ、そして頷いた。

「はい」
「じゃあ、少佐、彼女の事は任せましたからね。二人とも……」

 ケンは笑って背を向けた。

「お幸せに」



「兵員の救助が最優先だ! 回収作業を急げ! 損傷の激しい機体は放棄せよ!」
「コロニーは最終軌道調整も完了、完璧です」

 アクシズ艦隊の司令ユーリー・ハスラーは、感慨深げにその様子を見ていた。

「デラーズ、『星の屑』は成ったぞ。よくここまで……」
「司令、連邦の月からの追撃部隊です」



「協定の退去時間を重ねて通告しろ! 期限切れと同時に攻撃する、とな!」

 追跡艦隊の司令、ヘボンから、アクシズ艦隊へ通告がなされる。



「ロフマン少尉、コロニーは分解を始めています。早く帰還してください! 聞こえていますか? 我々は、最善を尽くしたのです」
『……こちらロフマン。今、帰還中だ』
「少尉、無事だったんですね! すぐにボスニアと合流を!」

 アニッシュの無事に、ほっと胸をなで下ろすメイ。

「良かったわね、メイさん」
「……はい」

 ノエルの言葉に素直に頷く。



『デラーズ・フリート残存の部隊に告ぐ。もはやキミたちに戻るべき場所はない。速やかに降伏せよ! キミたちには、すでに戦闘力と呼べるものがない事を承知している。無駄死にはするな!』

 連邦軍からの降伏勧告に、ガトーは鼻を鳴らした。

「いいか。一人でも多く突破し、アクシズ艦隊へ辿り着くのだ。我々の真実の戦いを、後の世に伝える為に!」

 そして、率先して血路を切り開いて行く。

「ガトー……」

 必死にガトーの背後でシートにしがみついているニナ。
 そのポケットの中には、ガトーから渡されたブルーダイヤがそっと息づいていた。



「さて、最後の仕上げだな」

 ケンは、コウ・ウラキ中尉をアルビオンのモビルスーツデッキに放り込んでから、ドラッツェでコロニーを追いかけていた。
 核バズーカの照準を、コロニーに合わせる。

「これが俺たちの星の影作戦。いや、本当の、本当の星の屑作戦だ」

 バズーカを発射。
 炸裂する核弾頭がコロニーを無数の残骸に変え、爆風を利用してドラッツェは地球の重力圏を脱出する。

『お帰り隊長。相変わらず、はらはらさせるご帰還だな』

 ガースキーから一番に入る、迎えの言葉。
 ドラッツェの進路上には、ムサイ級巡洋艦キワメルが回収のため待機していた。

『凄い流れ星……、これなら願い事がいっぱい叶いそう』

 これはクローディア。
 コロニーの残骸が、地球上に無数の流星群を生じさせていた。

『眩く輝く素敵な星を見て幸せな気持ちになるのを受けて、その言い伝えがあるのかも知れませんね』

 とこれは、ユウキだった。
 ケンは思う。
 俺には、そんなに真っ直ぐな彼女の方が眩しすぎる、と。
 ともあれ、

「ただいま」

 万感の思いを込め、彼の操る蒼い流星は、星の銀河を滑るように帰投したのだった。



エピローグ

「うっ」

 キワメルの医務室で目覚めるシーマ。

「ここは……」
「私の艦の医務室ですわ。シーマ中佐」

 シーマに微笑みかけたのは、ジェーン・コンティ大尉だった。

「中佐の艦隊の生き残りも現在、集結中です」
「なぜ、あたしを助けた?」
「我が艦は、ジオン共和国防衛隊ダグラス・ローデン少将の命により動いている部隊です」
「共和国の?」

 益々意味が分からない。
 今のジオン共和国に、シーマを助ける理由など思いつかなかった。

「今、ジオン共和国が防衛隊と言う軍事力を持って居られるのは何故かご存知で?」
「………」
「宇宙海賊という仮想敵が居るからですわ」

 だから、連邦軍はジオンに完全な武装放棄をさせることができないでいる。
 そこまで聞いて、シーマは相手の意図を察した。

「なんだい、あたしにマッチポンプをやれって言うのかい」

 要するに八百長試合をしようと持ち掛けられている訳だ。

「あなたの元に、ジェイク・ガンス軍曹が行きましたよね」
「うん?」
「元上司が彼を救いたがっていまして……」
「あたしはついでかい」
「怒られましたか?」

 シーマはゆるりと首を振った。

「あたしはそういう甘ちゃんも嫌いじゃないよ」

 ……特にこんなことの後だとね。

 そう、シーマは内心で続けたのだった。



機動戦士ドラッツェ0083 STARDUST MEMORY  完



■ライナーノーツ

>「我が艦は、ジオン共和国防衛隊ダグラス・ローデン少将の命により動いている部隊です」

 この辺の設定は、マンガ版の続編、『GUNDAM LEGACY』から。

 ただし、マンガ版は死亡しているキャラなどが居ますから、全面的に内容に沿っているものではありません。

 それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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