ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第十三章 金の鍵


 漁師町ザハンを船で発つ、マリアとリュー。
 すぐ近くの島に、祠があったため、立ち寄ってみる。

「旅の扉だ」
「どこに繋がっているんでしょうかね」

 そこに入った者を、遠くの地へと運ぶ旅の扉。
 入ってみて着いた所はローレシアの城だった。

「ちょうどいい。金の鍵を使って、城や街の中で入れなかった所を探索してみるとしようか」
「それはいい考えですね」

 まずはローレシアの城の中を探索。
 鍵のかかった部屋に入るとそこは宝物庫らしく、宝箱が並んでいた。

「この部屋に入って来るとは、何奴だっ!? おのれ盗っ人め、覚悟っ!」

 警備の兵士が飛んで来るが、マリアの顔を見て、平伏する。

「ややっ? マリア王女様でしたか。こりゃとんだ失礼を……」
「いえ、構いません。お仕事ですものね」

 マリアはそう言って、兵を許した。

「さて、宝箱を確かめたい所だが」
「構わないでしょう。私達の旅に役立つものがあれば、ローレシア王に断って頂けばいいでしょうし、もしかしたら、ハーゴン征伐に向かった王子達の役に立つ物が入っているかも知れませんし」
「そうだな、確かめるだけ確かめるか」

 宝箱に入っていたのは、力の種、命の木の実、不思議な木の実。
 後はお金と、ロトの印!

「これって、王子達の旅に必要な物ではないんでしょうか?」
「それっぽいよな。長い年月ここに保管されていて忘れられたか?」
「ムーンペタの預り所辺りへ、王子達名義で預かってもらいましょうか。それなら、王子達にも渡せると思いますよ」
「そうだな」

 ローレシア王に聞いてみた所、宝物庫の物は自由にして構わないとの事。

「ううっ、またドーピングタイムか」

 力の種、命の木の実を前に唸るリュー。

「それじゃあ、やっぱり私が口移しで」
「いらん」

 種と木の実を食べ、超回復による筋力増強の痛みに苦しむリュー。
 一方、マリアはと言うと、不思議な木の実を口にしていた。
 何でも精神力を増強する力があるとのこと。

「不思議な感じですね。精神的な容量が広がった気がします」
「むぅ、痛みとかは無いのか」
「ええ」
「何だか不公平だぞ」

 次いで、サマルトリアの城に行く。
 そして、サマルトリア城の金の鍵で開く扉の奥では、老人がマリア達を迎えた。

「よくぞ来た! ロトの血を引きし者よ! さあ! 宝箱を開け、その中の物を取るがよい!」

 そして、宝箱を開けて出て来たのは……

「ロトの楯?」

 伝説の勇者の楯だった。

「どうしてこんな物が…… 王子達が旅立つ時に渡してあげれば良かったのに」
「とにかく、渡してやらないとな」

 王子達の消息を聞きに、サマルトリアの王子の妹の元を訪れるマリア達だったが、

「あれ? お兄ちゃんは? えーん、お兄ちゃんが居ないよお……」

 と泣かれてしまった。
 王子はずいぶんと、ここには帰って来ていないらしい。

「これも預り所だな」
「そうですね」

 仕方なしに、重い楯をリューの背中にくくりつけて運ぶ。

「次は、ムーンペタか」
「久しぶりですね。リューさんと私が出会った思い出の地です」
「途中、幽霊の出るローラの門があるが?」

 最初に訪れた時の失態を思い出したか、真っ赤になるマリア。

「そ、そんな事言う人、嫌いです」
「そうか、嫌われてしまったか」

 冷静に切り返すリュー。

「えっ、わっ、これは、リューさんが嫌いな訳じゃなくて……」
「分かった分かった。それじゃあ、ムーンペタに向かうぞ」

 こうして二人はローラの門へ。

「そう言えば、ここにも金の鍵で開く扉があったな」

 鍵を開けて入ってみると、旅の扉があった。

「行ってみるか」
「はい」

 旅の扉を伝って、祠へ。
 そこには別の場所への旅の扉があって、以前炎の紋章を手に入れた祠に出た。
 そこから更に、別の場所へ。
 すると、祭壇の前に神父が立つ荘厳な広間へと運ばれた。

「おお、わしは待っておった! 勇者ロトの子孫が現れるのを! そなた達に、ロトの兜を授けよう!」
「はい?」

 今度は盾に続いて兜だ。

「これも預り所だな」
「そうですね、ムーンペタの預り所で預かってもらえば、王子達に渡る筈です」
「しかし重い……」

 ともあれ、ムーンペタに向かうリューとマリア。
 預り所に、ロトの印、ロトの盾、ロトの兜を、ローレシアとサマルトリアの王子達の名義で預けて一息付く。
 と、街の北西にある泉の傍に、金の鍵で開く扉を見つける。

「ここは……」
「地下通路が泉の中央の島に続いているみたいですね」

 泉の中央の島にたどり着くと、老人が一人、焚火に当たっていた。

「大きな海のどこかに、精霊の祠があるそうじゃ。五つの紋章を手に入れた者は、そこで精霊を呼び出す事ができるという。もっとも、この言い伝えがどこまで本当なのか、それは誰も知らんがの……」

 老人はマリアにそう語った。

「炎の紋章が、あったということは、その言い伝えも本当かも知れませんね」
「そうだな、それより、あの泉の向こう、街の外れに居る兵士は何だ?」
「えっ?」

 湖の真ん中に来たので分かったが、確かにリューの言う通り、兵士の姿が見える。

「行ってみましょうか」
「ああ」

 老人に暇を告げ、泉を回り込んで、兵士の元に行く。
 街の外を眺めていた兵士は、マリア達の足音にぎょっとした様に、振り向いた。

「ま、まさかマリア姫様!? ご無事でしたかっ!」

 マリアに対して平伏する。
 彼は、ムーンブルク城の兵士だった。

「わ、私は…… 王様や城の者達を置き去りにして…… 私は何と言う情けない兵士なのでしょう! もう、姫様に顔向けできませぬ」

 己を責める兵士に、マリアは言った。

「いいのよ。顔を上げて。誰も、あなたを責める事はできないわ」
「ひ、姫様…… うっうっうっ……」

 マリアの言葉に涙する兵士。

「でも、どうやって助かったのですか? 城を脱出できたのは、ローレシアへとハーゴンの来襲を伝えた兵士だけだったと聞きましたが」
「そ、それは……」

 言葉に詰まる兵士。

「もしかして、リリザの街に子供を預けたというのが、この兵士なんじゃないのか?」

 リューがマリアに、兵士に聞いてみるよう促す。

「リリザの街に、ムーンブルクの兵士の子供が預けられていましたが、もしかしてあなたのお子さんですか?」
「ううっ……」
「それだと、あなたはあらかじめ、ハーゴンの軍勢が攻めて来る事を知っていた事になりませんか? 教えて下さい。一体何があったのです?」
「そ、それは牢に閉じ込められていた神官が…… いえ、私の口からは、これ以上は言えませぬ。王様から他言無用のご命令が」
「私であってもですか?」
「王様は、姫様にだけは何があっても言ってはならぬと」
「そうですか……」

 これ以上は、舌を噛んで自害してしまいそうな兵士の様子に、諦めるマリア。

「分かりましたこれ以上は、自分で確かめましょう」
「ひ、姫様…… 申し訳ありませぬ、申し訳ありませぬっ……」
「あなたはもう自由です。リリザの街にお子さんを迎えに行ってあげて下さい」

 そう兵士に告げて、立ち去るリューとマリア。

「やはり、牢に刻まれていた魔法陣が事件の鍵か。神官、とあの兵士は言ったな」
「まさか、父の仇の、悪魔神官の事でしょうか?」
「いや、それなら、悪魔神官と呼ぶだろう。しかし……」
「何ですか?」
「破壊神と契約すると言うが、代償は何なのだろうな?」
「えっ?」
「前に出てきた、破壊神を崇める奴ら、倒したら服だけ残して消えただろ」
「まさか……」
「あの牢獄に数年、あるいはもっとかけて刻んだ破壊神との契約の魔法陣。その刻んだ主を隠さなければならなかった王。この事件、根は深いのかも知れんな」
「リューさん……」

 しかし、気分を切り替えるように、話題を変えるリュー。

「さて、腹が減ったな。久しぶりに月明かり亭の飯を食いたいもんだ」
「あ、二人で一緒に食べたあれですね。私、他人と一緒にあんな風に食事したのは初めてでした」

 そう答えるマリアに、リューは釘を刺して置く。

「だからと言って、今日も一緒の皿で食べるなんて、行儀の悪い事は言ってくれるなよ。今度は犬じゃない。他人の目があるんだから」
「あ、ルームサービスにしてもらえば」
「だから、はしたない真似は止めろと言ってるんだ」

 いつものやりとりをしながら、リューとマリアは初めて泊った月明かり亭に向け、足を運ぶのだった。



■ライナーノーツ

 ロトの盾は何度か立体化もされていますね。


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