ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
第十一章 デルコンダルの城
「おお、これは沈んだ舟の財宝! これで私は破産せずに済みますよ。ありがとうございました! お礼に我が家の宝、山彦の笛を差し上げましょう」
ラダトームで商人から聞いた通りにルプガナの北の海を探した所、沈没船は、あっけなく見つかった。
リューが潜って財宝を引き揚げ、持ち主であるルプガナの商人に返した所、大層感謝され、山彦の笛とやらを受け取った。
「オカリナか」
「吹いてみましょうか?」
試しに吹いてみるが、綺麗な音色を出すだけだ。
「預り所に預けておきましょう」
ルプガナの街の預り所に、山彦の笛を預ける。
ここには、風のマントや薬草、毒消し草、まとまった額の金等も一緒に預けている。
「金も預けるのか?」
「はい、一定額以上持っているのが分かると、お店の人が福引券をくれなくなりますから」
「何だか主婦じみた発言だな」
と、リューが漏らすと、
「それは、私はリューさんの妻ですから」
と、照れた様子で返事が返って来る。
リューはそれをスルーすると、明後日の方角を向きながら呟く。
「さて、東にも北にも行った。俺達は南から来たんだから、今度は西に行ってみるか」
「もう、つれないですリューさん」
「昼間から寝ぼけた事を言っている奴が悪い」
主婦と言えば、とリューは思う。
「マリアの母親の話、聞いた事が無かったな。やはり王族の出なのか?」
「いえ、母のアンナは平民の出で、父に見初められて王妃になったとか。私が十歳の時に、病で亡くなりましたが」
「そうか……」
その割に、箱入りに育ってるな、と思う。
多分、父である王に溺愛されて育ったのだろう。
「さぁ、薬草を補充したら出港するぞ」
こうして、船で西を目指すリューとマリア。
突き当たったのは、ローレシア。
「更に南に行ってみるか」
ということで、ローレシアの南に向かう。
すると、急峻な崖に覆われた陸地が見えてきた。
「ここは、初めて来ますね」
「マリア、敵だ!」
悪魔の類だろうか、翼で空を飛び、剣を持った敵が襲ってきた。
「ぐあっ!」
恐ろしく素早く、こちらが対応する前に、リューが剣で斬られた。
「リューさん!」
「まだ大丈夫だ! 俺に構うな!」
「くっ、虚ろなる幻影!」
相手の精神に働きかけ、幻を見せる幻覚呪文を唱えるマリア。
魔物は、現実と妄想の区別が付かなくなり、混乱する。
「くっ、幻影に引っかかってくれたのはいいが、このままじゃラッキーヒット一発でお陀仏だぞ」
「リューさんは、身を守って下さい。大いなる癒しよ!」
マリアは癒しの呪文で、リューの傷を一気に治す。
「よし、反撃するぞ!」
「はい、風よ、今こそ集い舞い狂え!」
マリアの風の刃の呪文が敵を切り刻み、地上に降りて来た所を、リューの牙が迎え撃つ。
死闘の末、ようやく倒す事が出来た。
「一体でこれか。集団で来られたら危ない所だったな」
「はい」
リューとマリアは、荒い息をつきながらも、互いの無事を喜んだ。
船は上陸地点を求めて河を遡り、内陸部へと到達する。
「城だ……」
上陸し、城を目指すリューとマリア。
幸い、魔物に出くわす事もなく、目的地である城にたどり着く事が出来た。
「お前も試合に出るか? 命を粗末にするなよっ!」
城に入ると大男がマリアにそう忠告してくれた。
中庭への入口を守る衛兵に事の次第を聞いてみると、
「まったく、王様の格闘好きには困ったものです。この前も、旅の戦士をサーベルタイガーと戦わせて…… その戦士は大ケガをしてしまったんですよ」
とのこと。
「これは、ここの王とは関わりを持たない方がいいな」
「そうですね」
ともあれ、挨拶だけは、しなければならないだろう。
広場を前に玉座に座る王へ、マリアは近づく。
「ああ…… 闘っている男の人って、素敵……」
「ここは戦いの広場。勇者達のコロシアムでございますわ」
王の両隣りに侍る女性が口々に告げる。
猛獣を飼っている檻もそこにはあった。
息を飲むマリアに、王は話しかけた。
「はるばるデルコンダルの城に、よくぞ来た! わしが、この城の王じゃ。もし、わしを楽しませてくれたなら、そなたに褒美を取らせよう。どうじゃ?」
「いえ、遠慮させて頂きます」
「それは残念だな。さらばじゃ」
こうして、何とか王をやり過ごしたマリアとリューは、この城の人々に話を聞いてみた。
「山彦の笛は、精霊の歌声。お城、街、洞窟、塔、祠…… 笛を吹き、山彦の返る所に紋章があると聞きます」
そう話してくれたのは、この城付きの神父。
「山彦の笛って、そういう物だったんですね」
「しかし、紋章って何だ?」
この時点では、二人には分からなかった。
そして、最も役に立ったのは、牢に入れられた兵士の言葉。
「金の鍵を手に入れろ! 遥か、南の島ザハンに住むタシスンという男が持っているようだ」
そう言う話だった。
「これで決まったな、今日はこの城に泊って、更に南の海を目指すか」
「はい」
「しかしここ、道具屋が無いのが困ったものだな。使った薬草が補充できないぞ」
「なら、預り所から、引き出しましょう」
証文を持って、預り所に。
この預り所というサービスは全世界に展開していて、他の街で預けた物でも証文さえあれば、用意して渡してくれる。
「ふむ、薬草なんかを預けていたと思ったら、こういう事か」
「内助の功、です。私はリューさんの妻ですから」
頬を染めて言うマリアに、ああ、また始まったと首を振るリュー。
「ご褒美に、今晩は一緒のベッドで寝て下さいね。あの檻の中の猛獣の鳴き声が怖くって」
「ふぅ…… まぁ、眠れずに寝不足になられるよりはマシか。それじゃあ、宿に行くぞ」
半ば諦め気味にリューは言って、コロシアムの隅に設けられた宿泊所に向かった。
「リューさんに変だと思われるかも知れないですけど、リューさんの毛皮が好きなんです」
夕食後、湯浴みをしてからリューと一緒のベッドに入り、マリアは呟く。
「モフモフして柔らかな毛皮が大好きで。リューさんの毛皮に頬を埋めながら眠るのが幸せです。凄く」
「安上がりな幸せだな、それ」
「はい、お買い得ですよ、私」
リューの軽口に、にっこりと笑って応えて。
マリアはぎゅっとリューに抱きついて、眠るのだった。
■ライナーノーツ
こちらは、25周年記念に発売された公式ガイドブック。
オリジナルのファミコン版と、リメイクのスーパーファミコン版に対応。
資料としても申し分ない。