ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第六章 泉の洞窟


 癒しの呪文に続いて、眠りの呪文を体得したマリア。
 リューと共に、銀の鍵があるというサマルトリアの西、泉の洞窟に挑戦するのだった。



 鎌首をもたげ、リューを威嚇するキングコブラ達。
 負けずにリューが唸り声を上げ牽制していると、後方からマリアの呪文が飛んだ。

「大いなる眠りよ!」

 マリアの眠りの呪文が、キングコブラ三匹を眠らせる。
 それを確認して、リューは守勢から一転して、牙を剥いた。

「リューさん!」

 マリアが魔導師の杖で援護する。
 杖から火炎が迸り、キングコブラ一匹をこんがりと焼き尽くす。
 キングコブラ達が全滅するのに、そう時間はかからなかった。

「ふぅ、マリアの眠りの呪文のお陰で、だいぶ楽ができるな」

 キングコブラの犠牲者の物だろう、落ちていた貨幣を集めながらリューは言う。

「お役に立てて良かったです」

 ようやく戦闘の助けになる呪文が使えるようになり、顔をほころばせるマリア。
 主力の魔導師の杖による攻撃を受け持つとはいえ、それまでは単なる杖振りだったから、尚更だ。

「さて、先に進む…… 宝箱だ」

 行き止まりに、宝箱が置かれていた。
 念のため、臭いを嗅いだり、周囲を確かめたりするリュー。

「ふむ、特に怪しい所は無いか。開けて見てくれ」
「はい」

 リューの指示に従ってマリアが宝箱を開けると、中には種が一つ入ってるだけだった。

「これは……」
「ん? 何か珍しい植物の種なのか?」
「リューさん、これは素早さの種です。薬草学の本で見たことがあります」
「素早さの種?」
「はい、食べた者の身のこなしを素早くすると言われる物です。リューさん、よろしかったら食べて見て下さい」
「毒見か?」
「違いますっ!」

 ともあれ食べてみる。
 身体がかっと熱くなるような感じがした。

「どうです?」
「なかなかいけるぞ。塩で炒って食べたら美味そうだ」
「そうではなくて!」
「いや、何だか身体が熱い。毒ではないようだが」

 何かこう、落ち着かない感じがする。

「それが効いてるって証拠です。しばらくすれば違和感も消えると思いますよ」
「そうか。ともかく先を急ごう」

 怪物達を確実に倒しながら、先に進むリュー達。

「大ネズミぐらいなら、俺が楯になれば耐えられる。魔力は極力温存するんだ」
「はい、リューさん」
「しかし、毒持ちの敵が多いな、ここ」

 その名の通り、キングコブラは当然として、泡立つ粘液の姿をしたバブルスライムが居て、これが結構な頻度で現れるのだ。

「毒消し草は、十分持って来ましたから、大丈夫ですよ」

 毒消し草は、この世界特有の薬用植物で、あらゆる毒を種類の区別なく中和してくれる優れ物だ。
 便利な物だとリューは思う。

「ん、これは?」

 奥に進むと、更にもう一つ宝箱があった。
 リューが安全を確かめて、マリアが開けると、中には、

「福引券、ですね」
「何でこんな所にこんな物が……」

 ともあれ、最近の買い物で得た福引券と一緒にまとめて仕舞っておく。

「しかし、ローラの門をくぐってからこっち、福引所を見たことが無いんだが」
「何でも、のめり込む人が出て、ローレシア王とサマルトリア王が、これを禁じたとか聞きましたよ」
「でも、商店では福引券をくれるんだよな。もしかして……」
「何ですか?」
「いや、後で確かめてみればいいだろう」

 その場は、それで締めくくり、先を急ぐ。

「階段ですね」
「降りてみよう」

 階段で、さらに洞窟の奥深くに入って行くリュー達。
 そして出会ったのは、白い装束に一つ目の仮面。
 全く肌を曝さない異形の人型。

「悪魔神官っ!?」
「いや、雑魚っぽいぞ。眠らせてみろ!」

 マリアが眠りの呪文を唱えると、三体ともあっけなく眠ってしまった。
 リューが牙を立て、マリアが魔導師の杖を振るい倒すと、何故か衣装だけ残して消え去ってしまった。

「あっけないな」
「この衣装に描かれた紋章は、ハーゴンの崇める邪教の物。ハーゴンの手下には変わりありませんね」

 遺された衣装を握り締め、マリアが言う。

「でも、父を倒した悪魔神官はもっと強かったです」
「……先を急ごう」
「はい」

 進んでまたすぐに宝箱。
 今度は、

「命の木の実ですね。これも盾になって下さるリューさんに」
「これはどんな効果があるんだ?」
「肉体の耐久力を高め、より打たれ強くなるとか」
「ふむ、悪くない味だが…… いだだだだ!?」

 急にリューの全身の筋肉が悲鳴を上げた。

「リューさん!?」
「まさか、筋肉の破損と超回復を一気に行って強くなるっていうのか、この実は!」

 筋力トレーニングを行うと筋肉の一部が損傷し、次いで超回復という現象で、トレーニング前を上回る筋力が付く。
 普通は超回復に二、三日かかるのだが、この実は筋肉の破壊から超回復を短期間に凝縮して行う物らしかった。

「ひ、酷い目に遭った」

 ぜいぜいと荒い息をつくリュー。

「だ、大丈夫ですか?」
「ん、ああ、痛みはもう退いたが、美味いだけの話は無いって事が体感できたぞ」

 後はもう、真っ直ぐに洞窟の最奥を目指す。
 するとそこには確かに、銀の鍵が落ちていた。

「よし、これで目的は果たしたぞ。帰るか」
「はい」

 来た道をまっすぐ帰るリューとマリア。
 もちろん、帰り道にも魔物は出たが、全て倒して地上に出る。

「それじゃあ、ローレシアに帰りますか?」
「いや、途中のリリザに寄ってみたい。あそこには、鍵のかかった部屋があったはずだ」

 ローレシアへの帰途の途中、リリザの街に寄る。
 武器屋の横にある、鍵のかかった怪しい建物に銀の鍵を使って入ってみると、

「ここは、福引所です。福引をいたしますか?」

 中は、福引所になっていた。

「リューさん!」
「ああ、やっぱり予想が当たったな。こういった娯楽は禁止されても、隠れて行われるようになるのさ」

 マリアに福引券を渡してもらい、福引の機械に向かうリュー。

「さて、マリア、何が欲しい?」
「そうですね、やっぱり一等のゴールドカードでしょうか? これがあると、お店で品物を買う時に、いくらか割り引いてくれるんですよ」
「よし、それじゃあ、やるか」

 人間の頃のパチスロの経験と犬の動体視力を駆使して、目押しで一等の太陽の印を揃えて行くリュー。
 太陽! 太陽! 太陽!
 太陽の印が、三つ並ぶ。

「おめでとうございます! 一等、ゴールドカードが当たりました!」

 係員の景気の良い声と共に、金色のカードが差し出された。

「凄いですリューさん! これでお買い物が楽になります」
「うん、良かったな。福引券はもう一枚あるが」
「二等は星の印で祈りの指輪、三等は月の印で魔導師の杖でしたね。それじゃあ、四等は?」
「うーん、それじゃあ、水の印でも揃えてみるか?」

 再び福引券を渡し、今度は水のマークを揃えて行く。

「おめでとうございます! 四等、魔除けの鈴が当たりました!」
「熊避けの鈴?」

 首をひねるマリア。

「熊避けの鈴って何ですか?」

 マリアは小さな鈴を受け取りながら、リューに聞く。

「熊に人間が居る事を教えるため、山で身に付ける鈴だ。熊は賢くて、人間を避けるからな」
「そうなんですか」

 鈴は鳴らすと、かすかにリンと澄んだ音を立てた。

「その割に、音が小さいな」
「熊さんは耳がいいんでしょうか?」

 二人の誤解が解けたのは、ローレシアの城に帰って来てから。
 銀の鍵を使って入った部屋で、商人の話を聞いてからだった。

「魔除けの鈴は、魔物達の呪文から身を守ります。何でも、眠らされたり呪文を封じ込まれたりする事が少なくなるとか」
「熊避けじゃなくて、魔除けでしたか……」
「ま、まぁよくある間違いだな。そう言う意味では、もう一つ欲しいか」

 くん、と鼻を鳴らすリュー。
 匂いを辿って行くと、対面の扉にたどり着いた。
 やはり銀の鍵を使って中に入ると、そこは城内の礼拝堂に仕えるシスターの私室だった。
 物腰柔らかに、若いシスターが対応してくれる。

「ムーンブルクの事、私も聞いてしまいました…… 大神官ハーゴンは、邪悪な力の持ち主。自分を滅ぼそうとする者に、呪いをかけると言われています。お気をつけて下さいまし」
「はい」

 マリアが受け答えする一方、リューは、匂いの元を辿って、部屋の中の箪笥にたどり着いていた。

「リューさん?」
「あらあら、鼻がいいのね」

 シスターが箪笥を開くと、白一色の、良い香りのする大人な下着達が整然と……

「リューさんっ!?」

 思わず声を張り上げるマリア。
 リューはと言うと、下着を目にしたとたん、物凄い勢いで顔を逸らしていた。

「はい」

 シスターがリューに差し出したのは、彼女の下着…… ではなくて、福引券だった。
 下着と一緒の引出しに仕舞い込まれていた物だ。

「私には不要な物です。持って行って下さい」
「ワン」

 頷いてマリアに受け取るよう、促すリュー。

「あ、ありがとうございます」
「いいえ、あなたに神の加護がございますように」

 シスターに見送られ、部屋を出るマリアとリュー。

「この福引券の匂いを辿っていたんですね、さすがリューさんです」
「ま、まぁな」
「これで、もう一つ、魔除けの鈴がもらえます」

 お揃いですね、とにこやかに笑うマリアに、密かに安堵のため息を漏らすリュー。
 もちろん、犬の嗅覚を持ってしても、福引券の匂いなど分かるはずもない。
 リューは、シスターが下着の香りづけの為に箪笥に入れていた、ポプリによる匂い袋に釣られたのだ。
 もちろん、シスターが身に付けている下着にも香りは移っていて。
 犬の本能に従ってシスターのスカートに鼻面を突っ込む、などという真似をしなくて本当に良かったと思うリューだった。



■ライナーノーツ

 ドラクエといえば、すぎやまこういち作曲のBGM。
 こちらは1・2の楽曲をオーケストラ・アレンジした作品。
 すぎやまこういち指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。


Tweet

次話へ

前話へ

トップページへ戻る

inserted by FC2 system