【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第二十話 V作戦

 宇宙世紀79年9月。
 シャア・アズナブル少佐が、ジオン十字勲章ものの戦功を立てた。
 連邦軍のV作戦を察知し、モビルスーツとその母艦、木馬を鹵獲したのだ。
 この功績を持って、シャア少佐は二階級特進。
 ズム・シティに招聘され、教導機動隊の司令官に任命された。
 なお、教導機動隊は、キシリア・ザビ配下の突撃機動軍に所属しており、これによりシャアは、ドズルの宇宙攻撃軍から離れる事になった。
 ニュータイプであると目される彼を、戦功に報いる形でキシリアが招いた結果だった。

「お疲れさまでした。シャア大佐」

 ジオン本国に帰ったシャアは、初めて慰労の言葉を受けた。
 二階級特進を果たした彼に対し、祝いの言葉を言う者は居ても、労をねぎらう者は皆無だったのだ。
 そして、この言葉をかけてくれたのが、彼に大きな影響を与えてくれたニュータイプの少女。
 サカキ財閥令嬢、アヤ・サカキであることに、彼女が特別である事を感じずには居られないシャアだった。

「ああ、実際大変だったよ。部下とザクを三機も失ってしまった」

 だから、彼も素直に内心を語った。
 少女はさもありなんと頷いて言った。

「連邦の新型は凄い性能の様ですね。先日占拠されたルナ2で鹵獲された装甲材、ルナチタニウムを惜しげもなく使用しているとか」

 軍属ではないくせに、軍内部の情報に精通しているこの少女。
 モビルポッド、ボールを作り上げ、そのノウハウでモビルスーツの性能の底上げをしている彼女ならではの情報網があるのだった。
 それを思いながらも、シャアは連邦軍モビルスーツとの対戦を思い出して苦笑いを浮かべた。

「そうだな、ザクのマシンガンが全く通用しなかったのには驚いたな。私も自分の目を疑ったよ」
「それでは、どうやって、連邦のモビルスーツを?」
「ああ、それは君のお陰だよ」
「はい?」

 事情が呑み込めない様子の少女に、シャアは、笑って言った。

「一度目の手合わせで、マシンガンが効かないのが分かったからな。二度目には、君が新たに配備してくれた、ZIM/M.T−K175C、175ミリ無反動砲をボールに装備させて戦いに臨んだのだよ」
「ああ、マゼラトップ砲ですか」

 ZIM/M.T−K175C、175ミリ無反動砲は、ジオン軍主力戦車マゼラアタックの主砲である。
 マゼラアタックは砲塔部分が分離、マゼラトップとして飛行が可能だった。
 この状態でも砲撃できるよう、無反動砲が採用されていたのだが、これがボールの武装に適していた為、採用された経緯にある。
 無論、ボール専用にするのはコストの面で不適当である為、ジオン軍上層部にモビルスーツ用武器としての配備案を上奏。
 ボールにはあくまでも流用と言う形を取った。
 そして、この砲の実戦データを取る為に、唯一実戦で戦っているシャアの高機動型ボールに先行配備されたのだった。

「味方のザクが格闘戦を仕掛けてな。組み合いになった所を、高機動型ボールのスピードを生かして背後を急襲。175ミリ無反動砲で無力化した訳だ」
「そんな使い方があるなんて……」

 絶句するアヤに対し、シャアは首を傾げた。

「それでは、どの様な使い方を考えていたのだ?」
「もちろん、長射程を生かしたアウトレンジからの砲撃です」

 アヤは説明した。

「元々ボールは二級の戦力。主戦場での戦いは考えられていません。ですから従来は、モビルスーツ用の武器をアタッチメントで装備して自衛を行うので十分だった訳です」

 実際、その様な使われ方をボールはされていた。

「しかし今後、戦局が厳しくなって主戦場にボールを投入せざるを得なくなった場合。格闘戦能力の無いボールは、敵モビルスーツの餌食になってしまいます。それを避ける為、敵モビルスーツの相手は味方のモビルスーツに任せ、ボールにはロングレンジ砲を載せて後方、アウトレンジから支援射撃を行う様にする。その為の保険なのですよ、この175ミリ無反動砲は」

 なるほど、理にかなった戦術である。
 利を説いて、人命を尊重したより良き方向に人を導く。
 それが、この令嬢のやり方であった。
 だからこそ、ザビ家の面々、ギレン、キシリア、ドズルの間でパイプ役を務める事が出来るとも言える。
 希少な人材だった。

「それにしても報告にあった、モビルスーツに戦艦並みのビーム砲を搭載する技術。これはジオンのモビルスーツを変えますね」
「そうだな」

 嘆息するアヤにシャアは頷く。

「ドム用に開発中だったビームバズーカが、これで完成するでしょう。しかし、地上用モビルスーツはそれでいいとして、問題は宇宙用モビルスーツですね。暫定で、ドムを宇宙用に改装したリック・ドムが生産される様ですが、これでも連邦軍のモビルスーツには及びません。新型が必要になるでしょう」

 実際には、ドムにはチタン・セラミック複合材が使用されている為、地上用ドムは機動力で連邦軍が量産化しようとしているジムに圧勝。
 宇宙戦用のリック・ドムも、ビームバズーカが装備されれば互角以上の性能を持つ事になるのだが、この時点では、誰も知り得ない事だった。



■ライナーノーツ

 マゼラアタック砲は正史では地上用ザクの装備とされている。
 アヤはそれを宇宙でも使うように働きかけている。
 実際、無反動砲はその名のとおり反動が無い、もしくは弱いため無重力空間向きの武装ではある。
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