【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十八話 地球侵攻作戦

 ムサイ級巡洋艦ファルメルは、ドズル・ザビの乗艦だったが、ルウム戦役での功績により、シャア・アズナブル少佐が譲り受けた艦である。
 そのファルメルは今、補給の為にサイド3に帰還していた。

「戦場から帰られて、お変りになられましたね、シャア少佐」

 サカキ財閥令嬢、アヤ・サカキをファルメルの艦長室に迎い入れていたシャアは、白い小柄な少女からそう言われ、自分の頬を一撫でした。
 ニュータイプと言われるこの少女とは、戦前からの付き合いになる。
 顔を合わせる回数こそ少なかったものの、その独特な人柄と見識は、少なからずシャアに影響を与えていた。
 その為か、シャアは余人には明かせぬ身の内に抱えているものを、ためらいがちに吐き出した。

「ルウム戦役の戦場でな、己の知覚力が拡大された様な感覚を覚えた。あれが、君の言っていた……」

 少女は確信したように頷いた。

「そう、ニュータイプです。申し上げましたよね。少佐にはその力があると」
「ああ、君の言っていた事は確かだった様だ。これが人の革新か」

 シャアは、新たな自分に戸惑いを覚えていた。
 自分はザビ家への復讐の為、ジオン軍に身を投じていたはずだった。
 しかし、

「君の言っていたな、スペースノイドの独立。その目指す所が分かってきた様な気がするのだ」

 少女はシャアの前では、ジオンの独立ではなく、スペースノイドの独立と言う言葉を繰り返し使っていた。
 地球に巣食う腐敗官僚の排除、アースノイドの特権を剥奪することによる、アースノイドとスペースノイドの意識的な地位の逆転、パラダイムシフトこそが大事で、ジオンの政治形態に対する批判などは、長期的に見ればいずれ解消される物に過ぎないと。
 他の者の耳が無い所では、それを待てない、ザビ家の独裁体制がその身に合わないと言うなら、スペースノイドの独立が果たされたら、中立のコロニーなり月のフォン・ブラウンなりで政治活動を行えばいいとまで言っていた。
 その広い視野が、ニュータイプとして目覚めた今、自分にも得られた様に感じるのだ。

「君は……」

 そう言いかけた時だった。
 副官のドレンが、新たな来客を告げたのは。

「やぁ、シャア。どうしたんだい。赤い彗星として名を上げた君が、ジオン本土に戻って来るなんて」

 そう言って、艦長室のシャアの元を訪れたのは、ガルマ・ザビ。
 ザビ家の四男である彼は、シャアの士官学校の同期にして友人だった。

「ガルマ……」
「おっと、これは失礼。先客があったようだね」

 軍艦に場違いな白い私服の令嬢を認め、表情を改めるガルマ。

「先日のパーティではどうも、ガルマ様。ご親友の陣中見舞いですか?」

 少女は微笑みを浮かべ、挨拶を述べる。
 言葉とは、言う者によってここまで印象を変えるものだったろうか。
 彼女が使った親友と言う言葉が、これほど自然に受け止められたのは、シャアにとって初めての体験だった。

「アヤ君じゃないか。君が、どうして?」

 ガルマの疑問に答えたのは、シャアだった。

「私の乗る高機動型ボールは、ツィマッド社製の試作型土星エンジンを搭載した特別機なのでね。補給とバージョンアップの為には、本土の技師に見てもらう必要があるのだよ」
「同時に、蓄積した少佐の戦闘データを頂いているのです。まあ、シャア少佐のお陰で土星エンジンは完成。その成果は、地球侵攻作戦用のモビルスーツ、ドムに生かされているのですが」

 言い添えるアヤに、ガルマは頷いた。

「ああ、あの重モビルスーツか。私も姉上の指揮下で地球侵攻作戦に参加するから聞いてるよ。モビルスーツの地上での移動速度の遅さを補う為に、ホバー走行を取り入れた最新鋭の機体だってね」

 アヤがツィマッド社に技術的な協力を行った事と、軍から早期に地上侵攻用モビルスーツの発注がかけられていた為だろう、ドムの制式化は早まっており、地球侵攻作戦に参加する地上用モビルスーツは、全てドムに統一されていた。
 この為、ザクの地上タイプであるザクIIJ型も、陸戦用モビルスーツグフも試作はされていたのだが、量産化は見送られていた。
 また、このドムの装甲には、ツィマッド社とサカキ財閥が支配するジオンコロニー公社が共同で開発したチタン・セラミック複合材が採用されていた。
 これにより、耐弾性の著しい向上が、図られている。

「統合整備計画によるコックピットの操縦系の規格・生産ラインの統一が功を奏して、ザクからの機種転換も容易に行われていると言う話だよ」
「そうですか、それは何よりです」

 満足げに微笑むアヤに、ガルマは思い出す。

「うん? そう言えば、モビルスーツのコクピット周りは、ジオンコロニー公社スペースポッド部門が生産を受け持っているという話だったね」
「そうなのか?」

 ガルマとシャア、二人の視線を受け、アヤは説明する。

「はい、元々は、私が企画した体感シミュレーションゲーム、戦場の絆で、モニター設置によるコストを抑える為に開発されたのが、パノラミック・オプティカル・ディスプレイと呼ばれるドームスクリーン技術なのです。これを、モビルスーツにフィードバックする事によって、皆さんご存知の前方上下左右、百八十度の視界をシームレスに映し出すコクピットが完成したのですよ」
「それを、ジオンコロニー公社お得意のチタン殻でブロック化した訳か。この脱出ポッドのお陰で命拾いをしたと、戦場の兵の中でも好評だったよ」

 シャアが現場の意見を伝えてくれる。
 それを受けて、アヤは胸を撫で下ろした。

「そう言って頂けると、統合整備計画の中に組み込む為に苦労した甲斐があったと言う物ですね」

 何より、人命を救えたのが嬉しいのだ。
 そんな令嬢の様子に、男二人も自然と微笑みを浮かべる事になった。



 この後、キシリア率いる突撃機動軍は、地球侵攻作戦を実行し、モビルスーツドムの卓越した性能も寄与し、地球各地を支配下に置いた。
 ガルマもこれに参加。
 ジオン公国軍の地球方面軍司令官として北米に拠る事になったのだった。



■ライナーノーツ

 この時点のドムは正史のものと形状こそ変わらないが、中身はリック・ドムIIで実現された統合整備計画の要素を取り込んだものとなっている。
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