【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十七話 南極条約締結の裏で


 緒戦における圧倒的な勝利を後ろ盾に、ジオン公国は地球連邦政府に事実上の降伏勧告である休戦条約の締結を突き付けた。
 ジオン公国軍は、開戦後の一週間戦争からルウム戦役において、連邦軍本部であるジャブローの攻略こそなしえなかったものの、地球連邦宇宙軍随一の名将レビル将軍を捕虜にするなどの大勝利をあげていた。
 既に連邦宇宙軍は、ルナ2に立てこもる少数を除いて壊滅状態であり、降伏もやむなしと言う空気が大勢を占めていた。
 しかし、レビル将軍が収容されていたジオン本国から脱出に成功し、条約締結のための会合が開かれていたその時に全地球規模での演説を行い、地球連邦軍以上にジオン軍も疲弊していることを訴えた。
 ジオンに兵無し、と。
 これを受けて、地球連邦政府首脳は徹底抗戦を決意、交渉も振り出しに戻る。
 結局、核の封印等の戦時条約を結んで交渉を終えた。
 これを、条約が締結された地、南極にちなんで南極条約と呼んだ。

「ふははは、連邦もまた、見事に踊ってくれたものだ」

 ギレン・ザビのオフィス。
 機嫌良く笑うギレンの前に、サカキ財閥令嬢、アヤ・サカキの小柄な姿があった。
 その彼女に、ギレンの第一秘書で十九歳の若き才女、セシリア・アイリーンが紅茶を淹れてくれる。
 ハニーブロンドの髪を持つ大人の女性。
 年齢の分かりにくい日系、アジア系モンゴロイドで、幼さの目立つアヤとは対照的で。
 自分にはない、成熟した女性の魅力に感じ入りながらも、アヤは慎重に口を開いた。

「全ては総帥の掌の上、ですか?」

 少女は注意深く言葉を選ぶが、ギレンは遠慮は無用と鷹揚に頷いた。

「どういう事か理解できるかね?」
「はい、当初、地球連邦に比べ我がジオンの国力は三十分の一以下でした。それに対し開戦後は、サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアが我が国に与し、反対に地球連邦はコロニー落としの損害で、大きく国力を損ないました」

 アヤは教師の問いに答える生徒の様に、自分の所見を述べた。

「しかし、それでも地球連邦の持つ国力は侮れません。仮に現時点で降伏したとしても、地球上の戦略物資を握っている以上、地球連邦はいずれまたスペースノイドを圧迫する様になるでしょう」
「ふむ、そうだな。では、それを防ぐにはどうしたらいい?」
「地球上の戦略物資の奪取。これしかないでしょう」

 これは、キシリアの意向にも沿う物であった。

「その為には、今ここで休戦などされては困ります。少なくとも地球上の資源を差し押さえ、地球連邦を干からびさせるまで、戦争は継続させねばならないのです」
「その通りだ。その為に芝居をうって、ジオンが疲弊しているようにレビルに信じ込ませ、わざわざ解放したのだ」

 全てが仕組まれた事だったのだ。

「しかし、良くそこまで辿り着いたな」

 ギレンはアヤの洞察力を褒め称えるが、アヤは恥ずかしげに頭を振るだけだった。

「私どもも、モビルスーツの開発に協力をしていますから」
「ああ、ボールを使ったツィマッド社とのエンジンなどの共同研究か」
「はい」

 サカキ財閥が支配するジオンコロニー公社では、開発したモビルポッド、ボールをテストベッドに、ツィマッド社と次世代エンジンを研究していた。
 ツィマッド社の新型モビルスーツ、ドムに技術が利用されることになった土星エンジンである。
 その他にも、チタン合金の冶金技術を共同開発しており、ドムの装甲には、チタン・セラミック複合材が採用される予定だ。
 その関係からも分かったのだ。

「地上戦用のモビルスーツの開発を早期から指示されていましたから、地球侵攻作戦は必ずあると」

 ドムは、シャア・アズナブル少佐が駆る土星エンジン搭載型ボールの稼働データにより、既に完成。
 ツィマッド社は全社挙げての量産体制を構築している所だった。

「逆に言えば、現時点での講和は無い物と確信しておりました」

 ギレンは頷いて説明した。

「しかし、この選択は、サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアを、いや、スペースノイド全てを味方とした今だからこそ使える手だ。ジオン単体では、人的資源の面から地球の制圧はままならず、緒戦で地球連邦軍を破っての短期決戦でしか、勝ちは拾えなかっただろう」

 つまり、

「サイド1、4、6の中立化構想の元となる流れを作り出した君の成果と言う訳だ」
「そんな、私はただきっかけを作ったに過ぎません。全ては総帥の政治的努力の賜物かと」

 ひたすら恐縮して見せるアヤを、ギレンは可笑しげに見やるのだった。


■ライナーノーツ

 アヤはドムの開発にも協力しており、ドム試作実験機などもツィマッド社との共同開発となっている。


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