【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十六話 ルウム戦役

「ニュータイプ、ですか」
「そうだ。先のルウム戦役におけるモビルスーツ戦で、ニュータイプ実在の証明と考える以外に解釈不能な事例が確認されたのだ」

 アヤは、キシリアの元でルウム戦役の記録を見ていた。
 宇宙世紀79年1月15日。
 ジオン公国軍は、最後に残された連邦軍側のコロニー、サイド5ルウムへ侵攻した。
 先のブリティッシュ作戦では地球連邦軍総司令部ジャブローを破壊する事が出来なかった事から再度コロニー落としをする為、というのは欺瞞で、実際には地球連邦軍艦隊を誘い出すための囮であり、ルナ2などに残存していた地球連邦軍宇宙艦隊の壊滅こそ真の目的だった。

「特に著しかったのが、これだ」

 キシリアが戦闘映像を停止する。

「光速に近い速度で移動するビームを回避したかのような挙動を示すパイロットの存在があった」
「シャア・アズナブル中尉。いいえ、少佐ですか」

 ルウム戦役で、五隻の戦艦を沈めたという英雄。
 通常のザクの三倍のスピードで迫る彼は、赤い彗星として、連邦軍に恐れられていると言う。
 しかし、

「本当に三倍のスピードを出していますね」

 彼の乗機は、ザクでは無かった。
 赤く塗られた球体に、大型ロケットエンジンを載せた、その機体はモビルポッド、ボール。
 それも、

「ツィマッド社の土星エンジンを積んだ三倍ボールが、あの方に渡っていたとは」

 アヤの持つ未来の記憶から、ザクの三倍の推力比を持つこの機体を赤い彗星にあやかって赤く塗ったのだが、それが巡り巡って、当人の手に渡るとは。
 ツィマッド社のエンジニアが実戦データ収集の為、試作した機体を軍に納めていたのは知っていたが、よもやこんな事になろうとは思ってもみなかったアヤだった。
 ちなみに、この戦闘データが手に入ったのも、試作機のデータ解析の為、ボールに内蔵されていた学習型OSのデータを吸い上げた結果であった。
 ルウム戦役と言う大規模な戦場を、ザクの三倍のスピードを持つボールで駆け巡る。
 研究では、ニュータイプ能力発現には心身に強いストレスを受けることが必要とされている。
 アヤの場合は、十二歳の時に遭ったシャトル事故であり、シャアの場合は、この高機動型ボールでの艦隊戦がそうらしかった。

「これで、実戦におけるニュータイプの有用性が証明できたな。例の計画を推進することとしよう」
「ニュータイプの軍事利用に対する研究ですか」

 アヤの存在によりニュータイプ研究を進めて来た民間の研究機関、フラナガン機関を、正式に軍の管理下に置き、軍事利用を目的とした組織に組み直す計画だ。
 アヤの存在がニュータイプ研究を加速させており、既に基礎理論は構築されていたのだった。

「それでは、シャア少佐をフラナガン機関に引き込むのですか?」

 シャアは、ドズル中将配下の宇宙攻撃軍に所属していた。
 キシリアの率いる突撃機動軍とは、別組織である。

「いや、今は時期が悪い」

 キシリアは、首を振った。
 シャア・アズナブル少佐は、ジオンの英雄として祭り上げられていた。
 それだけの人物を、ドズルの元から引き抜くのは、現時点では無理だった。

「そう言えば、お前はシャアと面識があるのだったな。ドズルとも」

 思いついたように、キシリアは言った。
 しかし、そもそも、あの二人とアヤが接触したのは、キシリアがスポンサーとなっていたフラナガン博士の研究の為だったのだが。

「シャアは、この試作型のボールを愛用しているという話だ。お前は、技術的なサポートを行うと言う事を名目に接触を計れ。可能な限りのデータを収集し、できるなら将来、こちらに来る事を誘ってみるのだ」
「はぁ、技術サポートを図るのはやぶさかではありませんが」

 実際、ツィマッド社との技術提携でようやく形となった土星エンジンのデータ収集は必須である。
 その他にも、この度、モビルスーツの制式武器として採用となった、ZIM/M.T−K175C、175ミリ無反動砲。
 通称マゼラトップ砲のボールでの運用データの収集作業もある。
 土星エンジン装備のボールを操るシャアとの接触は、アヤとしても望む事だった。

「それで、ルウム戦役は、ジオンの大勝で終わったのですね」
「ああ、緒戦で多数の艦艇を失った連邦軍は、ジャブローにある宇宙艦艇用の工廠を見捨てる事ができん。他に代替できる基地も無いしな。むざむざとこちらの意図に乗せられるしかない訳だ」
「そう言う事ですか」
「そして、我が軍は開戦後ほとんど消耗せず、万全の態勢で臨めたのが功を奏した。コロニーへの工作にボールが使えた事も大きい。その分、戦闘の主力へとザクをまわすことができたのだからな。それは、お前の手柄だ」
「いえ、あれは当社OBの方々が頑張って下さったお陰です」

 工作部隊のボールのパイロットは、アヤが、コロニー公社を退職した定年後のシルバー人材をかき集めて来たものであった。
 兵役で人材が乏しい中での人的資源の有効活用である。

「戦場に出ない民間人である私ごときが手柄など、おこがましいと思います」
「……本気でそう考えているのだな、お前は」
「は?」
「もう少し、欲を見せた方が良い。無欲な人間は逆に信用されない物だ」

 人は欲があるから他者と取引を行い、関係を構築しようとする。
 それがキシリアの考えだった。

「でも、キシリア様は、私を信用して下さいます」
「お前の真の目的が理解できたからな。スペースノイドの独立、これを果たす為にジオンに協力する。それがお前の行動規範だと知っているからだ」
「はい」
「だが、誰しもが、お前の考えに賛同する訳でもない。だから、分かりやすい欲を見せる事は、信用を得やすくする。例えば、そうだ。ザビ家に近い生活がしたい。ガルマの嫁にでもなりたいなどとな」
「はい? 私がガルマ様の!?」

 アヤは、既に社交界デビューを果たしており、ガルマとは知己を結んでいた。
 しかし、結婚などとは考えもしなかった。
 だが、キシリアは、まんざら冗談で言って居るわけでも無さそうだった。

「サカキ財閥と縁を結べる事を抜きにしても、お前はジオンに不可欠な人材だ。考えてもらえると、ガルマの姉としても嬉しいのだがな」
「はぁ」

 落ち着きなく視線を彷徨わせる少女に、苦笑するキシリアだった。



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