【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十一話 動く棺桶


「ふふふ、面白い事になったぞ」
「はあ」

 ギレン・ザビ総帥に呼びつけられたサカキ家令嬢、アヤ・サカキは共にモニターに見入っていた。
 そこでは、連邦軍のプロパガンダ放送が流れ、モビルポッド、ボールを動く棺桶と称してあげつらって居た。
 曰く、ボールは旧来のスペースポッドに装甲と武装を施しただけの急造兵器で、ろくな性能を持たず、戦場に出る様な事になれば、自軍の宇宙戦闘機、セイバーフィッシュのいい的になるだけの欠陥兵器だということである。
 その中では、事故で失われた機体を回収、検証してみたということで実機の映像も流れていた。
 わずかにアヤの瞳が見開かれる。
 彼女はコロニー公社の保有するボールが連邦軍の手に渡る事の無いよう、十分な対策を取って来ていた。
 そして、今の所、アヤの管理するボールの中からは、欠落は発生していなかった。
 であるならば、

「総帥、ボールを連邦に渡したのですか?」

 アヤの管轄外、荷役作業、工作部隊用に軍に納入した品に間違いない。
 そしてまた、この切れ者の総帥が、易々と連邦軍にボールを奪われるとは考えられなかった。
 ならば答えは一つだった。

「ああ、火器管制など重要部を破壊した殻だけを、宇宙空間、連邦軍艦隊のパトロールコースに流してみた」

 アヤの推測通り、ギレンはあっさりと自分の行いを認めた。
 それを確認して、少女は結論に辿り着く。

「それでこれですか。連邦軍も見事に踊ってくれましたね」

 嘆息するアヤ。
 ギレンはそれを面白そうに見る。

「この、連邦軍のプロパガンダの持つ意味が分かるかね」
「浅慮かもしれませんが、私見でよろしければ」

 慎重に受け答えるアヤに対し、ギレンは鷹揚に頷いた。

「かまわん」
「では、手前味噌になりますが、ボールを操縦して連邦軍を倒すゲーム、戦場の絆をサイド1、4、6に展開した結果、反連邦の機運が広がった上に、抑止力たる連邦軍が軽んじられている現状を、連邦が座視する事ができなくなったということですね」

 このゲーム、戦場の絆は、今や各コロニーで社会現象となるまでに盛り上がりを見せていた。
 それは様々な手段で地球連邦に搾取され、その上で我が物顔で駐留し抑圧する地球連邦軍に対するスペースノイドの反感が積りに積もっていた事が背景にある。
 今や、たかがゲームと無視する事のできない時流を作り出していたのだ。

「そうだな。だからタイミングを見計らって、ボールの残骸をくれてやった」

 何がだからなのか、常人には分からないだろう。
 だがギレンには、この小さな令嬢が自分の思考に着いて来られるだけの知性を備えているだろうと言う事が分かっていた。

「このプロパガンダ放送を誘う為ですか?」

 果たして、少女は遅滞なく話についてきた。

「何故そう思う?」
「僭越ながら、閣下のお考えを推測させて頂けるなら、連邦軍がボールを使う事を防ぐためですね」

 ギレンの瞳が鋭く細められた。

「ジオンが独立する為には、モビルスーツによる戦略的優位性を保っている内に戦争を終わらせる必要があります。しかし、数年先を歩んでいるモビルスーツ開発と違って、ボールは既存の技術で再現可能な兵器です。地球連邦に比べ我がジオンの国力は三十分の一以下。乱暴に言ってしまえば、連邦軍はボールを三十体量産してザク一体にぶつけて倒せれば勝てる事になってしまいます」

 つまり、とアヤは言う。

「ボールは動く棺桶という連邦の言葉。総帥は、その言葉が聞きたかったのではないですか?」
「そうだ」

 ギレンは頷いた。

「連邦軍は、短期的な問題の解消の為、決定的な言質を取られてしまった訳だ。自分達で棺桶扱いした兵器を、自軍で使う事ができるかね?」

 答えはノーだ。
 これで、連邦軍は自縄自縛の状態で、戦争に臨む事になる。
 アヤの知る未来知識にあった、連邦軍のボールによる物量作戦の悪夢が消えた瞬間でもあった。



■ライナーノーツ

 本編のようなやられメカとして作るなら旧300円キットが安価でよろしいかと。

 ただし、最新のキットと違って接着剤、合わせ目消し、塗装は必須。
 その他に、旧キットは1/144にしては大き過ぎるということもありますが。

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