【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第九話 赤は緑の三倍


 EMS−04ヅダは、重元素を推進剤とする熱核ロケットエンジンである木星エンジンの性能を遺憾なく引き出し、次期主力兵器競合試験においてザクに対し優位に立った。
 しかし、ザクの約二倍という高コストが会計監査院から問題視された結果、正式採用は見送られ、史上初の実戦用モビルスーツの座をザクIに明け渡す事となったのだった。

「しかし、それで良かったのかも知れません。実は、次期主力兵器競合試験終了後、機体のバイタル部分にクラックが見つかりまして。やはり木星エンジンの出力に、現状技術では対応できないようなのですよ」
「はあ」

 ジオンコロニー公社、来賓用応接室。
 そこではツィマッド社のモビルスーツ開発部門担当の取締役が、コロニー公社社長令嬢、アヤ・サカキに対して説明を行って居た。
 しかしだ、

「そのような事を、私の様な者に言ってしまってよろしいのですか?」

 下手に漏らせば信用を失う様な事実を他社の人間に公言してしまう場合。
 考えられるのは、よほど相手を信用しているか、または……

「そこで、わが社ではまず基礎技術を高める事にしたのです。まず一つ目は、貴社が提供して下さったチタン合金の冶金技術の向上を、御社と共同で図りたい」

 協力関係に引き込む事が考えられる。
 予想が当たって、アヤは天を仰ぎたくなるのをこらえ、上品に微笑んだ。

「それは結構な事ですね」

 実際問題、球体を基本とした単純な部品で構成されているジオンコロニー公社開発のモビルポッド、ボールには、これ以上のチタン加工技術の向上は不要なのだが。
 しかし統合整備計画の推進、そしてジオン軍モビルスーツの装甲材をチタン合金で強化したいアヤにとっては、得にならないと分かっていてもやらなければならない事だった。
 ジオニック社も巻き込みたいところだが、今、あの会社はザクの生産で手いっぱい。
 こちらに対応している余裕はないだろう。
 その分は、将来ライセンス料で払ってもらうとして、

「あと、木星エンジンの後継として、土星エンジンを開発したいのですが」
「それは、さすがに専門外ですが」

 戸惑うアヤに、ツィマッド社の取締役はこう言った。

「テスト用にプラットフォームを作り上げたいのですよ。チタン合金製で、構造も単純で剛性が非常に高い。更には学習型OSの搭載で、データ収集には最適な機体」
「それは……」
「はい、ボールを使わせてもらいたいのです」

 こうして、テスト用に木星エンジンを取り付けたボールが、ジオンコロニー公社とツィマッド社の共同で作成される事になったのだ。



「どう考えても、マニピュレーターの強度が足りませんね。加速を繰り返すとかかった応力で金属疲労を起こしてぽきっと逝きますよ」
「仕方ないですね、伸縮式にして、機動時は機体内に収納する事にしましょう。先端のハンド部分だけが出ている様な状態で」
「木星エンジンは機体下部に設置するんですね」
「それ以外、この大型ロケットを設置する場所は無いでしょう」

 そんなやりとりをしながらできあがったのは、マニピュレーター基部にハンド部分がついた、まるで前にならえをしているような可愛らしいボディにそぐわない大型のロケットエンジンを機体下部に取り付けられた機体。

「通常の三倍のスピードが出ますね」
「……とりあえず、赤く塗って置きましょうか」
「赤ですか?」
「赤は緑の三倍なのです」

 このアヤの言葉を受けて、木星エンジン試験型ボールは、通称三倍ボールと呼ばれる事になるのだった。



■ライナーノーツ

 三倍ボールの元ネタは、トニーたけざきのガンダム漫画より。
 シャア専用ボールのニュータイプ対応改装前のモデルという設定です。
トニーたけざきのガンダム漫画 2 (角川コミックス・エース 113-2)トニーたけざきのガンダム漫画 2 (角川コミックス・エース 113-2)
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