【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第八話 次期主力兵器競合試験


 宇宙世紀75年。
 ジオンの命運を賭けた次期主力兵器競合試験が今、行われていた。
 会場には、綺羅星のごとく居並ぶジオン軍の将官。
 そして、ジオニック社、ツィマッド社両社の代表者の姿があったが、そんな中、場違いに小さな令嬢の姿があった。

「私は添え物に過ぎない訳ですが」

 周囲から浮いている事を自覚しながら、サカキ財閥令嬢、アヤ・サカキは小さくため息をついた。
 モビルスーツの射撃管制装置を共同開発した事で、この場に居る事を許されたのだ。
 彼女自身、ツィマッド社のヅダの空中分解事故を防ぐ為、チタン合金材料を提供したり、リミッターをかける事を提案したりと色々と手を尽くした訳だが、結果がどうなるか気になっていた。
 それ故、この場に立ち会えるのは都合が良いとも言えるが、同時に心臓に悪いとも言える。
 何とも複雑な気持ちだった。
 ジオニック社、ツィマッド社、両社の社長からは、射撃管制装置の完成度を上げる事に貢献したアヤにねぎらいの言葉がかけられていたが、この場でヅダの改修状況を聞く訳にも行かず、笑顔を維持するのに苦労するだけであった。

「ジオニック社製、YMS−05ザク、飛行試験開始します」
「ツィマッド社製、EMS−04ヅダ、飛行試験開始します」

 会場にアナウンスが流れる。
 そして始まる性能試験。
 アヤはモニター越しの光景を、かたずを飲んで見守っていたが、ヅダは重元素を推進剤とする熱核ロケットエンジンである木星エンジンの性能を遺憾なく引き出し、ザクを上回る機動性を見せていた。
 しかし、それがかえってアヤの小さな胸に心労を与える。
 そんな心臓に悪い時間が過ぎて行き…… ついに、ザク、ヅダ共に、事故も無く試験を終了した時には全身の力が抜けたものだった。

「何をそんなに気を揉んでいるのだ?」
「総帥!?」

 飛びあがらなかっただけ、ましというものだろう。
 脱力した所にいきなり声をかけられたアヤは、無理矢理悲鳴を押し殺した。
 気力を振り絞っていつもの穏やかな笑顔を作り、少女は声の主、ギレン・ザビ総帥に答えた。

「いかがされましたか? このような場で私などに声をかけられるとは」
「いや、なに。次の試験は、宇宙空間での模擬戦だ。標的機の提供元と共に観戦しようかと思っただけだ」

 会場の巨大モニターには、試験空域に用意されたオレンジ色の標的機。
 モビルポッド、ボールの姿があった。

「ペイント弾による模擬戦形式でしたね」
「うむ、ただ動く的を攻撃するだけでは評価できんからな。ボールにも反撃を許可している」
「とはいえ、標的も有人では、格闘戦は禁止なのですね?」
「何?」
「モビルスーツはせっかく人型をしているのです。蹴りを使った格闘戦に持ち込んでしまえば、ボールに勝ち目は無いと思われますが」
「ふむ、興味深い意見ではあるな。戦術技術開発研究所に検討を指示しよう」
「ありがとうございます」

 そうして、二人で飲み物を取っている内に、試験が開始された。

「ザク一機にボールが四機ですか?」
「機体のコスト、パイロット養成にかかるコスト、機体の運用にかかるコスト。どれを取っても、ボールはモビルスーツと比べ、四分の一以下に抑えられている。ならば、四機を相手取って、それを上回ってもらわねば、割に合わぬと思わんかね」
「それはそうですが……」

 話をしている内に、ボールが一機、ペイント弾にまみれる。

「標的機二番行動不能」

 会場内にアナウンスが流れる。

「ふむ、案外丈夫な物だな。被弾しても死亡判定とならないとは」
「ボールの球形のボディは衝撃に強いですから。それに、装甲材にチタン合金を奢っているのは伊達ではありません」
「105ミリ砲では威力不足か。兵站の関係で今すぐに変更する事はかなわぬが、正式採用される物は120ミリに対応できるようにせねばなるまいな」

 そう言って居る間にも標的機が落されて行く。
 どれも行動不能判定で、図らずもボールの生存性の高さが立証されてしまった訳だ。

「全機撃墜。ただし、ザクも中破判定」
「むぅ……」

 ギレンの機嫌は悪い。

「キルレシオが見合わん」
「難しい所かと思います。そもそも国力比から言いましたら、ジオンの将兵は三十倍の敵を倒さなければ、計算が合わないのですから」
「ふむ、だからこその中立サイドからの義勇兵募集構想か」

 アヤは慌てて周囲を見回したが、近くに人影が無かった事にほっとする。
 そんな彼女を、ギレンはくつくつと笑って観察した。

「心配せずとも良い。サイド1、4、6の中立化工作は既に国策として動き出している」

 絶句する、アヤ。
 次に口を開くまで、しばらく時間がかかった。

「そうだとしても、秘密裏にですよね。私ごときが知って良い物なのですか?」
「なに、この工作には君の玩具、あの戦場の絆というゲームが役立つ。実際、大した人気だと言う話ではないか」

 抑圧されたスペースノイドが独立の為モビルポッド、ボールを駆り、連邦軍と戦うという体感シミュレーションゲーム、戦場の絆。
 これが社会現象となるほど受ける背景には、やはり植民地扱いされ、様々な方面で搾取されているスペースノイドの現状があるのだった。
 ちなみに輸出版では、それぞれのコロニーで個別のエンブレムを備えた特別塗装機が与えられ、ジオン軍義勇兵として戦うストーリーに変更されていたが、これがまた好評だった。
 スペースノイド独立の急先鋒であるジオンの旗の下で、スペースノイドが力を合わせて戦うと言う設定が受けているのだ。

「君のお陰で、各コロニーの民衆が啓蒙されているのだよ」
「啓蒙などと……」
「なに、謙遜する必要は無い。君は今やそれだけの影響力を持った人物なのだ」
「はあ」

 ギレンは機嫌が良さそうに、この小さな才女が困惑する様を観察するのだった。



■ライナーノーツ

>YMS−05ザク

 こちらはMS-05、ザクI、旧ザクと呼ばれるモデルの試作機ですね。


Tweet

次話へ

前話へ

トップページへ戻る

inserted by FC2 system