【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第七話 戦場の絆


 ゴールデンマスター機が完成した事で、ボールの量産化が始まった。
 その際、戦略物資ともなるチタンの輸入について地球連邦の横槍が入ることが懸念されたが、アヤは中立色の強いサイド6リーアに会社を作り、それをダミーとして、月のフォン・ブラウンから供給を引き出すことに成功していた。
 手法としては、旧世紀、1950年代から1960年代にかけての冷戦で、アメリカがソ連に対して行ったものの焼き直し版だった。
 それと同時に、アヤのプロジェクトは何とアミューズメント方面に進出した。
 ボールのシミュレータ作成運用のノウハウを注ぎ込んで作ったゲームだ。
 ボールを使ってミッションをクリアーするという内容で、オンラインで筐体を結び、プレイするもの。
 ミッションモードでは、敵は大胆にも連邦軍。
 セイバーフィッシュ戦闘機にサラミス級巡洋艦、マゼラン級戦艦。
 極めつけはルナ2基地攻略戦まで用意してある。
 ゲーマーは四人で一つの小隊を組み、インカムで相互通信を行い、作戦行動を行う。

「ふむ、よくできた玩具だな」

 ギレン・ザビ総帥の目の前には、このアミューズメント企画、戦場の絆を立案、実行したサカキ財閥令嬢、アヤ・サカキの小さな姿があった。
 彼女はこの企画を実行するにあたり、ギレン配下の情報部と連絡を密に取りながら行っていた。

「戦意高揚には丁度良い。連邦軍に対するモビルスーツ開発の囮としても良好だ」

 満足げに頷くギレンに、アヤは同意した。

「同時に、パイロット養成にも役立ちます。ボールの扱いに慣れるというのはもちろんですが、射撃管制装置のソフトウェアは、次期主力機動兵器と共通です。モビルスーツが配備された暁には、きっとこのゲームの皮を被ったシミュレータの経験が生きるでしょう」
「うむ。これも君が提唱した統合整備計画の成果だな」
「総帥、統合整備計画は今や国家プロジェクトです。私はほんの少し呼び水を与えたに過ぎません」

 アヤはギレン、キシリア双方に統合整備計画を説いていた。
 これは、より確実に計画を実施する為であると同時に、双方の派閥争いから身を守る為でもあった。
 お陰で今ではサカキ財閥は、ギレン派とキシリア派のパイプ役を務める様になっていた。
 もちろん、アヤが関わるのはモビルポッド、ボールに関連する事柄だけで、その他は政治的な駆け引きに長けた父親に全面的に任せていたが。

「しかし防諜には気を使ってくれたまえ。連邦軍にノウハウが渡る事が無いように」
「はい、もちろんです。ソフトウェアは最高度のセキュリティ対策が施されたサーバに集約されております。仮に連邦軍がこのゲームの筐体を手に入れたとしても、何の情報を得る事もできません」
「分かっている。それゆえ許可を与えたのだからな」

 この形態には、防諜の他に様々なメリットがあった。
 第一に、ソフトウェアをサーバ側に置く事により、筐体の単価が下がった事。
 この筐体は、ボール教習用のシミュレータと共用であり、ゲームの人気による量産効果と相まって、今ではこの筐体の販売、レンタルで利益が出るくらいであった。
 第二に、ボールのソフトウェアのアップロードが即座に反映できる事。
 これは、サーバによる集中管理だからこそできる事で、またこれにより、シミュレートしてみたいシチュエーションも、即座に配布する事が可能だ。
 第三に、ボールの学習型OSへのフィードバックができること。
 ジオン中で流行し、稼働率の高いこのゲームの筐体からは、刻々と運用データが送られて来る。
 これにより、ボールの学習型OSのブラッシュアップが可能であった。
 第四に、機動兵器の編隊行動の戦闘ドクトリンを研究するデータが得られること。
 何しろ、ジオン軍はこれからモビルスーツというまったく新しい概念の兵器を運用しなければならないのだ。
 その作戦、戦闘における軍隊部隊の基本的な運用思想も新たに構築する必要があった。
 それ故に、ボールというモビルスーツに似た特性を持つモビルポッドが取る小隊行動のパターンデータの蓄積には、貴重な物があった。
 このデータはジオン軍戦術技術開発研究所に送られ、解析を受ける事になった。
 この為にこそ、このゲームではインカムによる相互通信機能が与えられ、作戦行動を可能としているのだ。
 ゲーム攻略の為のユーザー同士の試行錯誤が、多くの戦術を生み、蓄積されて行った。
 それを知るギレンの機嫌は良かった。

「よもや、遊具がここまで益をもたらしてくれるとはな。君がこの企画を発案した時には大した期待は持っていなかったのだが」
「好きこそものの上手なれ、と申します。若者の持つ潜在力は、このように計り知れない物があるのでしょう」

 アヤはそこまで言って、居住まいを正した。

「所で総帥。このゲーム、戦場の絆ですが、他のコロニー、サイド1ザーンとサイド4ムーア、サイド6リーアからも引き合いが殺到しているのですが」
「ふむ?」

 リーアは最初から親ジオンなので分かる。
 サイド2ハッテ、サイド5ルウムに関しては、もともと連邦寄りなので、ここで名前が出ないのは当然だったが、ザーンとムーアは立場が曖昧だ。

「それだけ、各コロニーを抑圧する連邦軍駐留部隊が嫌われている。独立の機運が高まっているという事です」

 地球連邦軍を倒すこのゲームが求められる理由の根底には、そういった民意があった。

「それで、何か案があるのかね?」
「はい、防諜を十分に行う事を引き換えに行っていいと思います」
「メリットがあるとは思えないが?」
「ザーンとムーア、リーアに向けたものには、自機をそれぞれのコロニーにちなんだエンブレムを備えた特別塗装機にします。その上で、ゲーム内での設定で、彼らをスペースノイド独立へと立ち上がったジオンへの義勇兵とするのです」

 アヤは、微笑みを浮かべながら言った。

「ジオンの為に戦ってくれるザーンとムーア、そしてリーア。素敵だと思いませんか?」



■ライナーノーツ

 戦場の絆はもちろん、同名のアーケードゲームから。
 後に携帯ゲーム向けのポータブルも発売されましたね。


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