【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
第五話 ジオンカラーのボール
ボールの試作機が完成した。
球形の機体に、眼球に似たカメラアイ。
機体下部に設置された一対のマニピュレーター。
核融合炉は搭載されておらず、燃料電池で駆動する。
ここまでは、アヤが見た未来の連邦軍モビルポッド、ボールとほぼ変わらない。
違いは天頂部に装備された105ミリマシンガン。
ジオン軍主力モビルスーツトライアルで使われる手持ち武器を、アタッチメントで固定したものだ。
これがジオン版ボール、その試作型だった。
チタンの地肌を晒していたその機体は、試作機らしくオレンジ塗装とする予定だったが、プロジェクトリーダー、アヤ・サカキの強い希望でグリーンに塗られる事になった。
「一つのけじめなのです」
とはアヤの言葉だったが、意味を知る者は居なかった。
ただ強い決意があることは誰の目にも明らかで、今後、この色はコロニー湾口部の荷役や、コロニー補修作業用に配備されたオレンジカラーモデルと対を成す、宇宙軍色として定着するのだった。
そして早速テストが行われ、不具合の洗い出しと共に、105ミリマシンガンと射撃管制装置の試験が行われた。
この作業において、アヤが提唱した学習型OSが非常に役立った事は特筆に値した。
動作を記憶して自己学習して行くこのOSは、テストのデータ収集に、大変便利に働くのだ。
「で、いつになったら私を乗せてくれるのですか?」
自分用のノーマルスーツまで周到に用意していたアヤだったが、技術陣の返事は素っ気無かった。
「ゴールデンマスターが仕上がってからに決まってるじゃないですか」
「ゴールデンマスターって、量産機じゃないですか」
正確に言えば、生産機の元となる完成バージョンの事だ。
しかし、開発主任は言った。
「ご自分がサカキ家のご令嬢だって事を、自覚して下さいよ」
「それは、分かっていますが」
未来のボールを知る者は自分しか居ないという思いが、アヤを現場へと駆り立てていた。
しかしながら、実際は原形機となったスペースポッドSP−W03に関わっていた技術者達の方が、この場面では役に立つのだった。
仕方なしに、アヤは並行して作成されていた、シミュレータの完成への協力を行った。
「目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ……」
このシミュレータにも、学習型OSが仕込まれている為、それが実機へ。
特に射撃管制装置へのフィードバックとなって反映された。
それと同時に、
「それで、フラナガン博士。私のシミュレータのデータは参考になりますか?」
「ええ、もちろん」
キシリア・ザビの元から出向してきたフラナガン博士が答える。
初めて確認された、明確なニュータイプ能力発現者たるアヤ。
その存在は、ニュータイプの研究を行う上で、大変希少な物だった。
本来なら身柄を引き取って研究を行いたい所であるが、アヤはサカキ財閥の令嬢で、その様な真似を行う事は出来ない。
その為、逆にニュータイプ研究の第一人者たるフラナガン博士がアヤの元に派遣されて来たのだ。
バイタルや脳波データを収集する特殊なパイロットスーツをアヤは着せられ、シミュレーションを行って居た。
アヤの知る史実よりも遥かに早い時期にニュータイプ研究が進められたこと。
これによりサイコミュシステムの実用化が早まり、その小型化も進む事になるのだが、それが歴史にどのように影響するのかを、アヤはまだ知らない。
一方、シミュレータ担当の技師からは疑問の声が上がった。
「ここまで高級な仕様にする必要はあるんですか?」
実機に使用される耐環境性を持った高価なハードウェアではなく、家電製品として使われているコンピュータで処理を肩代わりしている為、実機に比べれば安価だとは言え、ただのシミュレータにここまで実機に近付けたものを用意するのは、どうかと考えたのだった。
それに対し、この小さな令嬢は涼しげな声で答えた物だった。
「このボールは、建前上は、あくまでも作業用スペースポッドなのです。マシンガンは装備していますが、それはスペースデブリ処理用。実際に弾薬を使った演習はさせられないのが現実です」
少なくとも、ジオンが臨戦態勢に入るまでは、実弾演習は無理だろう。
「ですからマシンガンの練習は、シミュレータに頼るしかないのです。シミュレータの充実は必須なのですよ」
その他にも理由はあるのだが、今はまだ計画の段階だ。
実機のゴールデンマスターが仕上がり、量産体制に入った時点で大々的に進める予定だ。
その為の根回しも着々と進んでいる。
「上手く行くと良いのですがね」
■ライナーノーツ
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