この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
「洗車、洗車〜、洗車洗車洗車ぁ〜♪」
「うぐぅ、何それ」
「何って洗車の歌だぞ」
「そ、そうなの?」
「ああ。あゆもチョイノリ洗うなら歌え」
「う、うん……」
「「洗車、洗車〜、洗車洗車洗車ぁ〜♪」」
「洗車、洗車♪」
「洗車、洗車♪」
「「洗車洗車洗車ぁ〜ぁ〜ぁ〜!!」」
「あぅ〜っ! 同じ曲ばっかりで頭が変になるぅ!」
「まぁ、リ○ダ・リン○のサビの部分を洗車に置き換えて、延々と繰り返しているだけですから……」
これが伝説のスーパーテク『オートリバースエンドレスリフレインリピート』というものなのでしょうか?
美汐のスクーター日記
『猫とスクーターと私』
「と言うわけで、あゆあゆをからかうのはこれくらいにして」
先ほどまでの熱唱ぶりはどこへやら、いきなり素に戻る相沢さん。
切り替え早すぎです。
「……うぐっ?」
あゆさんも早く戻ってきて下さい。
「よう、天野。今日はどうした?」
「こんにちは、相沢さん。今日は真琴と遊びに来たのですが……」
そうしたら、水瀬家の庭先で相沢さんとあゆさんがスクーターを洗っていたわけで。
「ああ、これか? ぴろが泥の付いた足でアクシスのシートによじ登ったみたいでな、その跡を落としていたんだ」
「そうですか。猫の足跡って、水洗いしないと落ちないんですよね」
「おお、天野もやられたことあるのか?」
「うちの子(JOG)は、動物に好かれるようで」
まぁ、私の場合はフロアステップだったので、自然に落ちるに任せていますが、これがなかなか消えないのです。
猫の足跡は油分を含んでいるため落ちにくいというお話でしたが。
「それはよろしいのですが……」
水瀬家の方、窓越しに恨めしそうにこちらを見ている名雪さんが非常に気になるのですが。
秋子さんに猫のように襟首を捕まえられて、うーうーうなっています。
どうやら飛び出そうとするのを、押さえられているご様子。
「ひどいよ祐一っ!」
叫ぶ、名雪さん。
「あんなに可愛い猫さんの足跡、消しちゃうなんて!」
「あのなぁ……」
「一所懸命よじ登ろうとして、ズルッって滑った跡があったし、なんと言っても肉球の跡がプリティなんだよ!」
「だからって、シートを汚したままにはできないだろ」
「そういう模様だと思えば気にならないよ」
「気になるっての」
相変わらずのご様子ですね。
秋子さんも、頬に手を当て、あらあらと微笑んでいます。
「足跡程度なら、水洗いすれば落とせるからいいけど、マーキングとかは勘弁だな」
猫のマーキングは臭いが凄いですからね。
シャレにならないレベルで。
やられたバイクカバーが一発で使用不能に…… というのはたまに聞かれる所です。
「今はいい忌避剤がありますから。悪戯が酷いようなら、使うといいと思います」
継続的に使うのがポイントなのだそうです。
猫にとって嫌な場所になってくれれば、自然と寄りつかなくなるそうですから。
猫は人よりも家につくと言いますが、これは行動が環境によって決まるということなのです。
「悪魔の薬だよー」
そう仰るのは、秋子さんに連れられて退場する名雪さんでしたが。
「まぁ、笑って済ませられる範囲だったらいいんだけどな」
「あぅ」
名雪さんと入れ違いに現れたぴろを、真琴の頭の上に乗せながら仰る相沢さん。
確かに、動物と共存するって、そういうことですからね。
「ありがちな話だと、バイクカバーをかけっぱなしにしていたら、いつの間にか、そこで猫が子供を産んでいて…… ってのもあるな」
それは悩みますよね。
猫に限らず動物の仔って、とても愛らしいですから。
本当に小さな爪で、網戸をかりかりと引っ掻いて、開けてくれとせがんだり……
「結局、大きくなって出ていくまでバイクを動かせないっていう」
「うぐぅ、優しい人なんだね」
「ん、ああ…… そうかもな」
口ごもる相沢さん。
……もしかして、相沢さん自身もご経験があるのでしょうか?
ともあれ、何にだって、誰にだって他者と関わらず生きていくことなんてできなくて。
お互い「仕方ないなぁ」で許される範囲で許し合って生活して行く。
それを死ぬまで続けるのが人生というものなのでしょうね。
「あぅ?」
不思議そうに私を見つめる真琴に、自分が知らず、微笑んでいたことに気付きます。
「何でもありませんよ、真琴」
そう答えてあげると、真琴は安心したように笑ってくれました。
To be continued
■ライナーノーツ
>伝説のスーパーテク『オートリバースエンドレスリフレインリピート』
元ネタはこれ。
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