この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
 バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。



 バタバタという音と共に、旅道具満載のバイクが、百花屋のウィンドウの向こうを過ぎ去って行きます。

「夏だなぁ……」
「夏ですね」

 向かいの席の相沢さんと、何とはなしに頷き合います。

「テン泊もいいなぁ」
「せめてコテージにしませんか? 荷物も少なくて済みますし」
「何を言う、スクーターの積載能力を舐めてもらっては困るぞ」

 別に真剣に計画を立てている訳ではなく、つらつらと話し合っている私達でしたが、相沢さんの発言に、鋭い突っ込みが入ります。

「相沢君、それって、あの子達を乗せることを考えた上で言ってるの?」
「ぐぁ……」

 私の隣に座っていらっしゃる、香里先輩からの一言でした。



美汐のスクーター日記
『最大積載量は積めるだけ』



「天野さんも、付き合いが良いのも大概にしておいた方がいいわよ」
「はい?」

 私の顔を覗き込まれるようにして仰る香里先輩。

「あの子達を連れて行かないってことは、二人っきりで泊まりがけの旅行になるって、気付いてないの?」
「「あ……」」

 私の呟きに、相沢さんの声が重なります。

「二人とも、気付いてなかったってわけね……」

 仕方がないわね、とでも言いたげな香里先輩の笑み。
 いつもは栞さんに向けられているその笑顔が、今は私に向けられていることに…… 気恥ずかしさと嬉しさが同居したような、何とも言い難い感情を覚えます。
 栞さんが香里先輩のこと、はにかみながらも大好きだと言われる気持ちが分かるような気がしました。

「い、いえ、実際に行くかどうかは置いておいて、ツーリングの計画を考えてみるっていうのは、ライダーの習性みたいなもので……」
「で、フットワークが軽いから、思い立ったが吉日とばかりに飛び出していくのよね」
「あ、ぅ……」

 図星を突かれてしまい、真琴のように呟き、黙るしかありません。
 ……いえ、仰るとおり、相沢さんの思いつきの行動に押し切られ、付き合わされてしまう自分の姿が、容易く想像できてしまいましたから。

「と、とにかく!」

 誤魔化すように、強引にお話を戻す相沢さん。

「タンデムシートを荷物置きに使わなくとも、リアキャリアとメットイントランクがあるし、前にカゴは…… おばさんくさいから止めるとして、YAMAHAにはバックキャリアがあるから、それを付ければ……」
「おばさんくさいは余計です」

 いつものセリフに、いつものように言い返しますが。
 それはともかく、前カゴは便利なんですよ。
 人身事故の場合はクッションの役割を果たすとも言いますし。
 ちなみにバックキャリアは、その名の通りビジネスマンなどがバックを載せるための、ラバーバンドで固定するタイプの荷台のようなものです。

「まぁ、タンデムするしないに係わらず、グランドアクシスのリアシートに荷物を積むのはお勧めしませんけどね」
「ん?」
「給油の度に荷物を下ろさないといけないんですよ」
「ぐぁ……」

 相沢さんのグランドアクシスも含め、最近のスクーター(一部のバイクでも)は、シートを開けないと給油ができないようになっていることが多いのです。
 これを考えずに長期ツーリングに出かけて、ガソリンスタンドで店開き……
 というのはたまに聞かれるところですね。

「いざとなれば、フロントポケット、コンビニフック、それから足下に置くっていうのも手ではあるな」
「足下って…… それは、流石に短距離だけでしょう? 気を付けないとコーナーなど、遠心力で飛んでいきますよ」

 以前、そんな風に荷物を飛ばしているおばさんを見かけたことがあります。

「ん、ああ。でもリアキャリアより重心が低くなる分、安定はするぞ。この間は要らなくなった漫画を段ボールに詰めて、古本屋に運んだし」

 ……それで先週お邪魔したとき、真琴の部屋が片づいていたのですね。

「それに、リアキャリアにでかい荷物を積むと、重いやら掴むところが無いやらで、下手するとセンタースタンドが立てられなくなるぞ」

 スタンドが立てられず、荷物も下ろせず立ち往生……
 女性の場合、非力ですから気を付けなければなりませんね。

「確かに…… そう言う意味では、以前乗っていたJOGスポーツの方が、シート下の出っ張りなどが無い分、足下に大きな荷物を載せられて便利でしたね」

 メットインなんかも、昔はヘルメットを逆さまに入れられたので、ヘルメットの中にちょっとした荷物を入れておくには都合が良かったですし、底に小さな凹みがあって、工具や簡単な雨具を入れられたので便利でした。

「パイプ椅子を運んだときは、尻とシートの間に挟んで走ったなぁ」
「それは、どう考えても危険でしょ」

 相沢さんのとんでもない告白に、突っ込む香里先輩。
 私もそう思います。

「いや、台湾ではスクーターの5人乗りなんかあったって話だし」
「上海雑伎団ですか、それは……」

 そんな曲芸めいたことを引き合いに出してどうするんですか。



To be continued



■ライナーノーツ

 ツーリングの荷物を積んだバイクを見かけると、季節を感じるのは私だけでしょうか?
 特に銀マットなどが見えると、旅情をかき立てられます。
 ……今の主流はエアマットみたいですけど。
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 こんなの。
 スクーターは積載能力に優れているので荷物を積むには困りませんが、逆にツーリングしているっていう雰囲気が出ないのが難点かも知れませんね。


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