この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
雨……
雨が降っています。
アスファルトを叩き、全てを洗い流そうとするかのように。
「日頃の行いが悪い奴が居るようだな」
平然と仰る相沢さん。
ですが……
「うぐぅ……」
「それは間違いなく、この梅雨の最中、タイヤの皮むきに私達を付き合わせている人のことを言うのだと思いますよ」
本当に、この人は……
美汐のスクーター日記
『何も考えずに走れ!』
「何でタイヤの皮むきに出かけて、降られなきゃならないんだ……」
「それは、相沢さんが梅雨に入るまでタイヤ交換を渋ってきたせいでしょう」
「ぐぅ……」
晴れ間を見計らって出てきた相沢さんに、強引に付き合わされた私とあゆさんでしたが、やっぱりと言いますか、降られてしまいましたね。
それで、こうやって人気のない自然公園の東屋にスクーターを並べて雨宿りしているわけなのですが。
「うぐぅ、大体タイヤの皮むきって何なの?」
訳も分からず連れて来られたあゆさんも、気の毒です。
……チョイノリのペースが皮むきに丁度良い、などと言われて。
「新品のタイヤは、製造時に付着した離型剤等で滑りやすい為、表面が一通り剥けるまで、抑えて走らないと危ないんですよ」
「ハイグリップタイヤに交換して喜び勇んでバイク屋を出たとたん、すってんころりんで逆戻り…… なんていうのも良く聞くからなぁ」
それはハイグリップタイヤを選んだせいもあるのでは?
あれは、暖まらないと普通のタイヤよりグリップしてくれませんから。
「ともかく、梅雨に備えてタイヤ交換したのに、皮むき前の滑りやすいタイヤで雨に降られては本末転倒です」
ですから早めの交換をお勧めしていましたのに。
「ま、まぁな。それにしても空気圧高めにしてきたのが仇になったなぁ」
お話を逸らすかのように、仰る相沢さん。
「接地面積が減る分、滑り出しが急になりますからね」
「しかし、俺のアクシスはタンデムする関係上、リアは常に高めにしなきゃならんからな」
「でも、空気圧が高い方が面圧が高くなる分、雨には強いとも聞きますよ」
「むぅ……」
限界まで耐えて一気に滑るか、限界は低くとも分かりやすく対処しやすく滑り出すか。
どちらが良いかは好みによるでしょう。
元々スクーターはタイヤ径が小さい分、接地長が短いので一気に滑り出す特性を持っていますし。
「それにしても、天野でもサイド一杯までは使えないものなんだなぁ」
私のJOG−ZRのタイヤを確かめながら、相沢さんが仰られます。
「それはそうですよ。公道なんですから安全マージンは充分取りますし、第一、これ以上はスクーターだとセンタースタンドが擦れます」
私のZRのタイヤは、サイドを約1センチ残す所まで使われています。
サーキット走行などする人だと、センタースタンドを取り外して、端まで使い切ってしまう(それぐらいコーナーで寝せる)そうですが。
「あゆは真ん中しか減ってない…… って言うよりタイヤのひげ、まだ残ってるな」
新品のタイヤには、製造時にできる、細い髭が残っています。
普通であれば、少し走ればすり切れてしまうものなのですが。
「いいじゃないですか、それだけ安全運転しているということなのですから」
無理をせず、自分に合った走りをするのが良いと思います。
「大体、タイヤを端まで削りたいなら駐車場なんかで、ひたすら低速で8の字走行を続ければ……」
言いかけて、目の前に広がる、がらんとした自然公園の駐車場に気付きます。
「相沢さん……」
「天野?」
見つめ合う、私達。
「……マジか?」
マジです。
そうして……
「天野ーっ!」
「何ですかーっ!?」
「面白くないぞーっ!」
雨の降る中、がら空きの駐車場を利用してひたすら8の字走行を続ける相沢さん。
「うぐぅ、ちょっと可哀想かも……」
呟かれるあゆさんでしたが、ともあれ、相沢さんにお返事を返します。
「余計なこと考えてないで、走りに集中してください! 同じ事を繰り返しているようでも、状況は常に変化し続けるものなんですよ!」
見込みで走らず、常に状況に反応して走る。
『Don't Anticipate.Do React.』ということですね。
To be continued
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