この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
 バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。



『名雪……』

『俺には、奇跡は起こせないけど……』

『でも、名雪の側にいることだけはできる』

『約束する』

『名雪が、悲しい時には、俺がなぐさめてやる』

『楽しい時には、一緒に笑ってやる』

『白い雪に覆われる冬も……』

『街中に桜の舞う春も……』

『静かな夏も……』

『目の覚めるような紅葉に囲まれた秋も……』

『そして、また、雪が降り始めても……』

『俺は、ずっとここにいる』

『もう、どこにもいかない』

『俺は……』

『名雪のことが、本当に……』


 空白。


『……こんなセリフ、素面でこれ以上言えるかーっ!!!』


 相沢さん……



美汐のスクーター日記
『二人乗り解禁?』



「祐一さんっ、名雪さんの命が関わってるんですよっ!」
『だからって、これ以上臭いセリフっ、しかもお前らも聞いてる前で…… 言えん! 言わん!! 言えるかーっ!!!』
『二人とも、ケンカしちゃダメだおー』
『だおーじゃないっ! 誰のためにこんな真似してると思ってるんだっ!! いい加減起きろ名雪!!! タンデムシートで寝るなーっ!!!!』

 栞さんとやり取りする相沢さん達の声が、無線越しに車内へ響き渡ります。

「えぅ〜、『ドキッ! 恋の炎のウソ告白で、名雪さんもおめめパッチリ』大作戦、失敗です〜」
「……だから無理だって言ったでしょう」
「仕方がありません。祐一さん、今度は私に……」
「それがホントの狙い? あなたって子は……」

 頭痛を堪えるように、こめかみを押さえる香里先輩。
 私としては、ネーミングセンスの方もどうかと思われるのですが、そこは姉妹故の慣れ、いえ諦めというものでしょうか?

「こうなったら、私が乗り移って……」
「ふぇ、無茶しないで舞」
「うぐぅ……」
「あぅーっ」
「あらあら」

 秋子さん、娘さんと甥御さんが生命の危機に瀕しているんですけれど……


 そもそも事の起こりは1週間前、とある温泉施設の券を秋子さんが持ってきてくれたことに端を発します。
 最初は、私のJOG−ZRや、相沢さんのアクシスも使って行こうと考えたのですが、ルート途中に原付禁止の有料道路があったため、結局秋子さんが運転する車と、倉田先輩のフュージョンに分乗することになったのです。
 そして……

「祐一、私もスクーターの後ろに乗せて」
「名雪? 何言ってるんだ、お前は寝るからスクーターは禁止だって分かってるだろ」
「うん、だからこれ」
「ん?」

 名雪さんが持ち出したのは、ハンズフリー・トランシーバー。
 ツーリングやタンデムで、仲間と話し合うための無線機でした。

「これで話しながら行けば、大丈夫だよ」
「しかしなぁ……」
「車にも同じ物を積んで、みんなともお話できるようにするから」
「うーん」

 ということで、相沢さんが押し切られた結果が、この通りで。
 考えてみれば名雪さん、寝ボケながらでも会話できるという特殊技能をお持ちだったんですよね……

 その上タイミングが悪いと言いますか、名雪さんが寝始めたのが、ちょうど有料道路に入ってからでした。
 この有料道路、原付禁止と言うだけあって高速道路並のスピードで車が流れている上、片側1車線で路側帯は無し、対向車線とは中途半端にポールで仕切られている、というもので、つまり途中で止まることができないのです。
 ……あからさまな欠陥道路だと思うのですが。

『地震だおー』
『うぉっ! タンデムシートでステップ加重使うな! ふらつくだろっ!!』

『けろぴーは、ここ』
『こら両肩掴むな! 動けねぇーっ!?』

『だぉっ!?』
『コーナリング中にいきなり身体起こすなーっ!!!』

 このままでは、本当に相沢さんが逝ってしまいます。
 と言いますか、ロング&ローで、安定性のいいフュージョンだから何とかなっているだけで、いつものアクシスでしたらとうに事故ってますよ。
 こんな実況中継、聞かせられるこちらも寿命が縮みそうです……

 ともあれ、

「あと5キロで出口よ、相沢君」

 地図を片手にナビゲーションを行う香里先輩。

「祐一、フュージョンなら何とかなる。信じてがんばる」

 いつもフュージョンに乗っている川澄先輩からの励まし。

「祐一さん、スクーターなら壊しても構いません。だから無事に……」

 ただ、相沢さんの無事だけを祈る倉田先輩の願い。

「相沢さん、コーナーではなるべくバンク取らないようにして下さい。あと、スピードは落としすぎるとかえって加重移動の影響を受けますよ」

 私達にできるのは、こうやって声を届けることぐらいです。

『香里、舞、佐祐理さん、天野…… ありがとう、お前達だけが味方だぞ』

 相沢さん……

 そう仰って頂けるのは嬉しいのですが、この状況では、無闇に張り合う方が……


「えぅ〜っ、それならオペレーション『白いアルバム』ですっ!」
「う、うぐぅ……」


「どうしてそんなこと…… そんなこと、どうして言うんですか?」
「聞いて栞ちゃん、真面目な話だよ」
「だ、だって祐一さんは……」
「聞いて…… ボクの気持ちは本当だよ。遊びでも興味本位でもないんだ。それは自信を持って言える。自信を持って祐一君を……」

「ボクは祐一君が好きだよ。だから、祐一君と寝たんだ」

 パァンッ!!

「どうして! どうして、あゆさん! あゆさんは、私と祐一さんのこと知っていたのに、どうして…… 私が…… 私が祐一さんのこと好きなの…… 愛してるのを知ってるのにどうしてそんな事言うんですかっ……!?」


(何よぅ、真琴だって祐一と一緒に寝……)
(しーっ、これはお芝居ですから。それに真琴のとは意味が違います)

 しかし、マイクの前で手を叩いたり、完全に演技に酔っている栞さんはともかく、無理矢理付き合わされているあゆさん、役に違和感有りすぎです。


『くー』
『いい加減起きろ名雪っ! 栞達もムダだから悪趣味なドラマごっこはもう止めろーっ!!』


 相沢さん……
 どうか、強くあって下さいね。



To be continued



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 あると便利で楽しいアイテムです。


>『けろぴーは、ここ』
 そのもののぬいぐるみが存在します。


>オペレーション『白いアルバム』ですっ!
 元ネタはもちろんこれ。

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