この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
 バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。



「そろそろですね……」

 パッシングで合図を送り、相沢さんと栞さんのフュージョンをパスして前に出ます。
 そのままの勢いで、コーナーに飛び込み……

「っ!」

 風が鳴り、道いっぱいに敷き詰められた木の葉が、舞い上がります。
 私のZRの後ろにできあがる、落ち葉の嵐。

「――! ―――!!」

 ふふっ、バックミラーの中で、栞さんが歓声を上げています。
 ZRが作り出した、赤と黄色の舞い散るシャワー。
 その中を突っ切る、相沢さんと栞さんのフュージョン。

「気に入ってもらえたようですね」

 そう呟き、私は更にZRを加速させるのでした。



美汐のスクーター日記
『紅葉降る場所で』



「凄かったですっ、こんなのドラマでも見たことなかったです!」

 それは、栞さんにとっては最上級の誉め言葉ですね。

「気に入っていただけたようで嬉しいです」

 休憩のために入ったドライブイン。
 興奮冷めやらぬといった様子でまくし立てる栞さんに、思わず笑みがこぼれます。

 山間の、広葉樹に囲まれた3桁国道。
 先ほどの場所は、地形の関係で丁度吹き溜まりのような感じになっているため、数キロに渡って落ち葉が路面に散乱するのです。

「ここ数日、天気が良かったので落ち葉が乾燥していたのが幸いしましたね。秋口は雨が多いので、ここまで見事に木の葉のシャワーを体験できるのは、珍しいんですよ」

 これも、栞さんの日頃の行いが良いお陰ですね。
 この日のために健康に気を付け、体調を整えてきたのですから。

「むぅ、しかし、運転する立場から言わせてもらうと、あらかじめ言って欲しかったぞ」
「驚かれましたか?」
「ヘルメットのシールドがあるし、何でもないとは分かってるんだが、それでもいきなりはな」
「ええ、でもこれが体験できるかどうかは全くの自然任せですから。もしダメだった場合を考えますと、あまり期待させるのも酷かと思いまして」
「そうか……」

 栞さんの方を見て、苦笑混じりに頷かれる相沢さん。

「それにしても、あんなに木の葉があると、雨の時は危ないんじゃないのか?」
「そうですね…… でも山道ですから、雨が降ればすぐに流されてしまいますから」

 ですから、雨の後だとダメなんです。

「なるほどなぁ」

 感心されたように呟く相沢さん。

「普通、先行車に浴びせられるのは、ダンプの土埃とかディーゼルの黒煙とか、ろくでもない物ばっかりなんだが、こういうのは珍しいよな」

 そうして、くすりと笑われます。

「昔、南紀の方にツーリングに行った時の話なんだが、おがくずを一杯に積んだ軽トラが走っててな」

「えぅ?」
「紀伊半島の南側、三重、和歌山の方ですね」

「ああ、それで荷台の隙間からおがくずが漏れてて、後ろを走るとモロにかかっちまうんだよ。たまらず停車したんだが……」
「それは災難でしたね」
「いや、それが何だかいい匂いが付いちまって…… 後で知ったんだが、あの辺って檜の産地なんだな。どうやら檜のおがくずだったみたいだ」

 あの時は笑ったな、と相沢さん。

「もっとも酷いのもあって、あの辺は活魚を名古屋の方に運ぶ水槽付きのトラックが走っていてな。水槽の海水、溢れた分は垂れ流しなんだよ」

 それは、つまり……

「坂道とか、コーナーとか、要所要所に真っ白に泡だった海水をぶちまけるわけだ。滑りそうだわ、スクーターとメットには塩が浮くわで」

 よくそんな車が公道を走れるものですね……

「でもまぁ、面白い所だったな」
「私もそんな所、行ってみたいたいです〜」
「ああ、香里が許してくれるぐらい、栞が丈夫になったらな」
「えぅ、それは〜」

 ふふ、栞さんにとって、お姉さんである香里先輩の許可を得るのが一番の難関のようですね。

「大丈夫ですよ、時間はまだまだあるんですから」

 栞さんの前に開けている、これからの未来。
 それこそ、かわいいおばあちゃんになるまでの長い長い時間。

「そうだな。それに……」

 言いかける相沢さんと目が合い、二人して声を殺して笑います。
 今日の目的地、某温泉に秋子さんの車で先行している香里先輩。
 ……本当に栞さんには甘いのですから。

「えぅ?」

 栞さんは全く気付いていない様子ですけどね。

「とりあえず、さっきの話と……」

 相沢さんの手が、先ほどの走行の名残。
 栞さんのジャケットにくっ付いていた真っ赤な紅葉を取り、栞さんに渡します。

「こいつを土産に、香里達の所に急ごうぜ」
「はいっ」


 栞さんの掌の上……
 小さな紅葉は秋の日を浴びて、宝物のようにきらめいていました。



To be continued



■ライナーノーツ

 このお話、モデルとなった三桁国道がありまして毎年行くわけですけど、やはりその年で体験できたりできなかったりですね。

 栞を乗せる時にいつも使っているフュージョンってどんなの? という質問がありました。
 そういえばヒロインがフュージョンに乗っている漫画が月刊アフタヌーンで掲載されていましたっけ。
 結局単行本化されず作者の方が同人誌として出して下さったのを私も買いましたが。
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 表紙もフュージョンですね。

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 とても面白いので、今後も頑張って欲しい方です。


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