この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
バイクの運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
「この世には2種類の人間が居る」
「はい?」
「アライ頭の人間と、ショウエイ頭の人間だ」
……はぁ。
美汐のスクーター日記
『ヘルメット談義』
「それは、人に種類があるのではなくて、人の頭の形に種類があるということでは?」
「そうとも言うな」
日本のバイク用ヘルメットのトップメーカーは、アライとショウエイとされています。
その他にもOGK、YAMAHA、HONDA、クノー等がありますが、やはり機能的に水を空けられているのが現状で。
まぁ、それぞれアライやショウエイにはない特色のあるヘルメットを作っていますから、一概にどうこうとも言えないのですが。
大体、アライとショウエイはどう考えても高いですし。
「……そもそも、お話が唐突すぎて、意図されている所がよく分からないのですが」
「いや、ヘルメットが大分くたびれてきたから、新しいのが欲しいんだ」
そういうことですか。
確か安全のため、メーカーからも3年毎の交換が推奨されていましたね。
本当にやっている人は、少ないとは思いますけど。
「昔からよく言われているのは、アライはこめかみで固定し、ショウエイは頬パッドで固定するって奴だな」
「……最近のモデルでは、一概にそうとも言えなくなっているようですよ」
「………」
でもまぁ、参考程度にはなりますが。
「やはり最終的には試着してみて合うかどうかですよ。5分から10分、着けてみて頭が痛くならなかったら合格だとか」
そう簡単に買い直すわけにもいかない物ですから、慎重に選びたい所ですよね。
「大きすぎるのも危険だが、小さすぎるのはもっとやばいからな。特に長距離を乗ると覿面に効くぞ」
「三蔵法師にお経を唱えられた孫悟空のようなものですからね。合わないものを長時間着けていると、頭部が圧迫され、酷いときには頭痛や吐き気まで引き起こします」
逆に言うと日頃、短距離しか乗らない人は、多少痛くても「こんなものか」程度にしか認識しておらず、サイズが合っていないのを自覚していないということが多々あります。
ツーリングに行って耐えきれなくなって、初めて分かるとか。
自分の頭のサイズや形状が、標準から見てどのように違っているかなど、把握している人は普通居ませんからね。
「私の知り合いですが、最初、入れば良いからと安いフリーサイズを買って失敗。次はショウエイのXL(特大)なら大丈夫だろうと買って、それでも失敗。内装を金槌で叩いて凹ませるという安全上問題のある真似までして、ようやく凌いでいるという方が(汗)」
「そんなに頭、でかいのか……」
「いえ、それがそんなにでも。ただ、こめかみとか耳の上辺りとか、丁度内装にホールドされる部分が張っているので当たると痛いのだとか」
「まぁ頭の形については、外人は縦長、日本人は横に張ってるとは言うけどなぁ」
そうですね、特に日本人には、こめかみの辺りの頭蓋が発達している人が多いとか。
こういう人達は、多少高くなろうとも、内装で調節できたり、XXLなどの標準外のサイズまで用意されているモデルを選ぶ必要があるでしょう。
ある意味、選択肢が限られるため、迷いようが無いとも言いますが。
「逆に顔が小さい人も大変ですよね」
「……よくよく選ばないと、宇宙人になっちまうからな」
ヘルメットには様々なサイズが用意されていますが、注意しなければならないのは、大抵、サイズが変わっても帽体(外装)の大きさは変わらないということです。
つまり、頭の小さい人向けには、内装をぶ厚くしてフィットさせているんですね。
大きいし重いし(重いヘルメットを被っていると長距離走行の際、確実に疲労します)、何より見栄えがアレですので、良いことはありません。
「昔、そういう奴が居てな。左右から手を捕まえられて写真を撮られて……」
はい?
「『NASAに捕まった宇宙人』ってタイトル付きで、今でも仲間内のアルバムに収まってるみたいだぞ」
……そこまで来ると、悪魔の所行としか思えませんが(冷汗)
「まさか、相沢さん」
「俺は関わってないぞ。むしろジュニアやレディス用にしとけって忠告していたくらいだ。それを無視するような奴が悪い」
「………」
と、とにかく、こういう人達は、少しでも帽体が小さく軽いものを探すわけですが、意外にも2大メーカーよりも、YAMAHA、HONDA等に合うものがありますから要チェックです。
「まぁ、安全性とか機能性とか追求すると、アライかショウエイに行き着くわけだけどな」
「そうですね」
例えば、栞さんが使っているものはジェットにも関わらずスネル規格を満たしているアライのものですし、私はショウエイを使っていますし。
ちなみにスネルはアメリカの規格で、日本のJISより厳しいので有名ですが、アライの社内規格はそれよりも更に厳しいとのこと。
「でも、他のメーカーもなかなかですよ。YAMAHAのワイズギアは昔からオープンフルフェイスを作っていたことで有名ですし」
オープンフルフェイスとは、フルフェイスとジェットヘルメットの折衷案みたいなもので、簡単に言うと、フルフェイスの顔面部分が、ジェットのように上に開くものです。
フルフェイスより着脱が簡単なため、眼鏡をかけている方などに人気があります。
現在では、ショウエイでも作るようになりましたが、そちらはお値段が張りますからね。
「安さでは、OGKでしょうか。ホームセンターの安売りでも見かけますが、他の無名メーカーと比べて機能も安心感も違いますから。ベンチレーションを比べてみれば一目瞭然ですけどね」
安物のベンチが、ただ額部分に穴を開けてあるだけなのに対し、OGKなどのしっかりとした品では、前頭部から後部まで、十分に風が抜けるような設計がされています。
換気性能が段違いですから、購入の際には気を付けてみるべきでしょう。
夏場の蒸れが全然違います。
なお、更に高級品になると、バイザー内に関しても換気対策がされているため、呼気による曇りもかなり緩和されます。
ここまで求めるかは、お財布と相談というところですね。
「後はお手入れのしやすさ、ですね。内装を取り外して洗えるものは、簡単に清潔さを保つことができます。最近では洗濯機での洗浄も可能なものもありますし。また、メジャーなモデルを選んでおけば、シールドや内装などが消耗した際、取り寄せるのも楽です」
まぁ、内装が外れないものは、バスタブ等で丸洗いするという方法もありますし、ファブリーズを吹いておけば除菌、消臭程度はできます。
一方で、内装の取り替えに関しては傷んできた時点で寿命とし、安いヘルメットを定期的に買い換えて行った方が安全という考え方もありますが。
「いや、そもそも、ジェットにするかフルフェイスにするかと言う問題もあるんだが」
とりあえず、半キャップっていう選択肢は無いんですね。
安全性以外にも、ベンチレーションが無いため夏場蒸れるとか、シールドが無いと、風、雨、雪、虫、前車が巻き上げる土埃、小石等から顔面が守れないとか、機能的にも疑問がありますからね。
「最近では、スクーターにフルフェイスでも違和感ありませんから、いいんじゃないですか?」
「ああ、ここの冬場の寒さは堪えたからな」
そういうことでしたか。
それはもちろん、冬場はフルフェイスの方が暖かいですよ。
ジェットも口元まではシールドで保護してくれますが、顎の先は風の巻き込みなどがあって冷える場合があります。
マスクなどで保護するというのも手ですが、気を付けないと呼気が籠もるため、シールドが曇ってしまいます。
「フルフェイス並のウィンドプロテクトを備えたものもありますが、高いんですよね」
「ああ、それに事故った時の顎の保護を考えれば、絶対にフルフェイスだと言う奴も居るしな」
事故でアスファルトとキスして悲惨な目に、という話は良く聞かれる所です。
「まぁ、そういった事故に対する危険性も分かりますが、フルフェイスとジェットでは視界の広さが違いますから。視界が広い方が危険を素早く察知できるため、安全運転ができるという考え方もありますよ」
もちろん、両方持っていて、場合によって使い分けるという方もいらっしゃいますし。
「バイクは五感を駆使して乗るものですから、自分に合ったものを選ぶのがいいと思います」
「そうだな。たまに第六感まで使ってるとしか思えない奴も居るが」
それは、川澄先輩のことですか?
「何人たりとも、私の前を走らせない」などと仰って、非常識なフォームとスピードで峠を下っていましたっけ。
……しかも、フュージョンの後ろに倉田先輩を乗せたまま。
「あはは〜」という笑い声がドップラー効果の尾を引きつつ流れて行くのは、非常にシュールな光景でした。
後ろに付かれたリッターバイクのライダー、恐怖で泣きそうな顔をしていましたし。
相沢さんはFごっことか仰っておりましたが……
「天野はそれよりも上だから、第七の感覚に目覚めているわけだな」
……人を、一体何だと思っているのです。
To be continued
■ライナーノーツ
ヘルメットって高い買い物ですから、失敗すると悲惨です。
特にサイズを間違えると、楽しいはずのツーリングが我慢大会になってしまいます。
頭がさほど大きくなくとも、こめかみや耳の上辺りが張っているという人が日本人には多くて、XLサイズを買ったのに締め付けられて痛い、というのも良く聞くお話です。
なお、私はショウエイ派です。
ショウエイ(SHOEI) バイクヘルメット ジェット J-CRUISE ショウエイ(SHOEI) 2012-10-20 売り上げランキング : 15750 Amazonで詳しく見る by G-Tools |