こんにちは、ルリです。
今日は、クリスマスイブ。
なでしこのみんなも、朝からクリスマスパーティーの準備に余念がありません。
もちろん、こういったイベントの時には、厨房は大忙しで……
テンカワさんも朝から働き詰めです。
海洋資源調査船「なでしこ」激ラブ外伝5
〜Hungry?〜
「今年のクリスマスパーティーは、暖かい料理を出したいと思ってね。ホウメイさん達と頑張ってるんだ」
にこやかに話すテンカワさん。
「こういうパーティーにありがちな、冷めたオードブルなんて嫌だからね」
悪戯っぽい笑みを浮かべると、私の耳元で小さくささやいてくれます。
私は、以前に出席したことのあるネルガルの立食パーティーを思い出して、笑ってしまいました。
ネルガル関係の偉い人達がたくさん集まるそのパーティー。
キャビアとかフォアグラとかフカヒレとか、高級な材料を使っているのでしょうけど、冷めたオードブルは本当にまずくて……
私はパーティーの間中、帰りにハンバーガーを食べることだけ、考えていました。
と……
「テンカワさん、何かいい匂いがしますね」
テンカワさんのエプロン…… と言うよりも服全体から、何だかおいしそうな匂いが漂っています。
「あ、分かる?」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑み崩れるテンカワさんの顔。
「実はメインディッシュの一つを、ホウメイさんから任されてるんだ」
「本当ですか?」
それは確かに凄いことです。
「うん、何だか分かるかな?」
上機嫌でたずねるテンカワさんですが、私はこういう会話はちょっと苦手です。
「……ケーキじゃないですよね」
我ながら、貧困な発想。
「ケーキはエリちゃん達が腕によりをかけて作ってるよ」
「そうですか……」
「ヒント、クリスマスには欠かせないものだよ」
「…………」
そんなこと言われても、困ってしまいます。
だって、施設育ちの私にとって、今までクリスマスは「世間が浮かれてるな」という程度のものだったんです。
オモイカネに聞けば、あっという間にクリスマスの料理のリストを教えてくれるのでしょうけど、テンカワさんがそういう答えを求めてるんじゃないって事ぐらいは私にも分かります。
でも、テンカワさんは特にもったいぶることもせずに、すぐ教えてくれました。
「七面鳥だよ」
そういえば…… なぜだか知りませんがクリスマスと言えば、七面鳥がつきものですね。
「今年はちょっと凝っててね、丸焼きだけじゃなく、ターキーのスモークも作ってるんだ。ちゃんとチップを使った本格的なやつをね。おかげで体中、匂いが染み着いちゃって……」
そう言って目の前に差し出されたテンカワさんの指。
私は思わず、ネコのように匂いをかいでしまいました。
本当、指先までおいしそうな匂いが染み着いていて……
かぷっ
ふと気付いたら私、テンカワさんの指を口にしていました。
「ルリちゃん?」
名前を呼ばれ、驚き顔のテンカワさんと目があって……ようやく、自分が何をしてるのか分かって。
「………!」
動転した私は、テンカワさんの指を口に含んだまま、固まってしまいました。
顔が真っ赤になって行くのが自分でも分かりますが、どうにかしなくては、という気持ちばかりが頭の中で空回りして……
でも、クスリという微笑みと共に、テンカワさん……
「!? 〜〜っ!! 〜〜〜っ!!!」
テンカワさん、私がくわえた指先で、口の中…… 上顎をくすぐるんです!!
「んっ、ん〜〜っ!」
くすぐったさが背筋に直接響いてくるような、不思議な感覚。
今にも逃げ出したいのに、身体は全然言うことを聞いてくれなくて……
「んんっ、ぷはっ!!」
ようやく口を開いて、テンカワさんの攻撃から逃れる私。
「なっ、何するんですか、テンカワさんっ!」
真っ赤になって抗議する私にテンカワさん、苦笑して。
「いや、ルリちゃんなかなか離してくれなかったから」
そうして、小さく首を傾げて逆に聞くんです。
「そんなに俺の指、おいしかった?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
ボンッ!!
真っ赤になった顔を上げていられなくて、うつむく私。
「ちょっとルリちゃん、大丈夫? 耳…… って言うか、首筋まで真っ赤だよ」
そんな、心配そうな声で聞かれたって、私にどう答えろって言うんです!
「ううっ……」
この髪型…… いつものツインテールの欠点が今、初めて分かりました。
「ルリちゃん?」
「もう、いやぁ……」
END
■ライナーノーツ
> そういえば…… なぜだか知りませんがクリスマスと言えば、七面鳥がつきものですね。
欧米ではクリスマスと言えば七面鳥ですね。
日本だと、某チェーンの販売戦略でチキンが売れてますけど。
>ターキーのスモークも作ってるんだ。ちゃんとチップを使った本格的なやつをね。
こういう器具を使うと家庭でもできたりします。