「あぅ〜っ! 助けて美汐っ!!」

 いつものように、神社のお手伝いをしていた私の所に駆け込んできたのは真琴でしたが。

「まっ、真琴っ!!」

 まさか巫女装束のまま、真琴の働く保育所に連れ込まれてしまうとは思いませんでした。



『まねっこきつね』



「一体どうしたんです?」

 保育所でお手伝いをしていた所をそのまま抜け出して来たのでしょう。
 エプロン姿の真琴と、巫女装束の私が並んで町中を駆けるという姿に、頭を痛めます。

「あぅ〜っ、佐祐理と舞が〜」
「真琴、目上の方を呼び捨てしてはいけないとあれほど……」
「あはは〜っ、いーんですよ」
「……友達だから」

 言いかけた所で、そのお二人が保育所から出ていらっしゃいました。

「あ、こんにちは、倉田先輩、川澄先輩。今日は……」
「真琴さんが働いているって聞いたので、お手伝いに来たんですよー」
「子供は嫌いじゃないから」
「それは、ありがとうございます。ほら真琴。お礼は言ったんですか?」
「あうぅ〜っ、そうじゃなくてぇ……」

 何やらごねている真琴に頭を下げさせて。

「それで、何をされていたんですか?」
「はい、佐祐理と舞のお気に入りの『まねっこきつね』でみんなで遊んでいたんです」

 ぱん、と胸の前で手を合わせて仰る倉田先輩でしたが。

「『まねっこきつね』、ですか?」
「はい。名前を言うから、ものまねで返すんです」
「詰まったら負け」

 大体分かりましたが……
 狐なのは、やはり真琴だからなんでしょうか?

「天野さんにも教えてあげますね」
「は、はい」

 そうして、歌い出すお二人。

「まねっこ、まねっこ、言えるかな〜♪」

 本当に楽しそうに歌う倉田先輩。

「まねっこ、まねっこ、言えるかなー」

 応える川澄先輩はいつも通りのクールボイス。

「ねこさん」
「にゃん」
「いぬさん」
「わん」
「うさぎさん」
「ぴょん」

 なるほど、倉田先輩が言った動物を、川澄先輩がまねるわけですね。

「たぬきさん」
「ぽんぽこ」
「かえるさん」
「けろぴー」

 ……今、何か混ざっていませんでした?

「うしさん」
「もー」
「きつねさん」
「あぅーっ」

 私の気のせい…… じゃないですよね。

「あゆさん」
「うぐぅ」

 やっぱり気のせいじゃなさそうです。

「秋子さん」
「了承」
「あははーっ、舞の負けだねー」
「私の負け」

 何故?

「あと、0.2秒、早ければ大丈夫だったんだけど」
「1秒で返すのは難しい」

 ……そう言うことですか。
 何か、凄いローカルルールですが。
 これを真琴の手伝っている保育所でやったんですか、本当に?

「みんな、喜んでいたよねーっ」
「はちみつくまさん。ナウなヤングにバカ受け」
「それは、幼児はみんな若いでしょうけど……」
「あうぅ…… 美汐、突っ込む所が違うわよぅ」

「まさか美汐は、おばさんだから死語もへーきなのっ?」などと相沢さんの影響がまる分かりの失礼なことを言う真琴を叱ってあげるのは、いつものことですが。

「め〜っ」
「あぅ〜っ」

 ちなみに叱る時は、名前を呼んではダメです。
 名前で怒られると、名前を呼ばれると怒られると思い、呼んでも来なくなってしまいます。

「め〜っ」
「あぅっ、あぅ〜っ」

 ……って、そうではなくて。

 子供達がみんなで「うぐぅ」などと叫んでいる光景を想像すると、思わず目眩を覚えてしまいますが。
 いいんですか?

「技に著作権はないから」

 川澄先輩……


 ともあれ、保育所の子供達の相手をして下さる先輩方でしたが、

「子供は可愛くていーですねーっ。かずやくん、佐祐理お姉ちゃんの家の子にならない?」
「あうぅーっ! ダメダメダメーッ!!」
「あははーっ、そーですよねーっ。佐祐理はやっぱりダメな子です」

 寂しげに笑う倉田先輩。
 そうやって冗談にできるだけ、傷は癒えてきているのでしょうけど……
 って、冗談ですよね?

 でも、翳りのある表情を一転させると、『ぽわわわわっ』みたいな擬音がぴったりくる夢見るような視線を宙に向けて、

「それじゃあ、やっぱり祐一さんとの間に…… あ、二人の名前から、『祐』の字を取ってというのも……」
「そっちもダメーッ!!!」


 真琴、応援ならしますから、頑張って下さいね……



HAPPY END?



■ライナーノーツ

 ちなみに、作中の『まねっこきつね』遊び、「みのさん」だったら返しは「ファイナルアンサー」だったり、応用は色々です。


>  ちなみに叱る時は、名前を呼んではダメです。
> 名前で怒られると、名前を呼ばれると怒られると思い、呼んでも来なくなってしまいます。

 それ、犬のしつけ方です美汐さん。


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