【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
 第十一話 地球侵攻作戦




 緒戦における圧倒的な勝利を後ろ盾に、ジオン公国は地球連邦政府に事実上の降伏勧告である休戦条約の締結を突き付けた。
 ジオン公国軍は、開戦後の一週間戦争からルウム戦役において、連邦軍本部であるジャブローの攻略こそなしえなかったものの、地球連邦宇宙軍随一の名将レビル将軍を捕虜にするなどの大勝利をあげていた。
 既に連邦宇宙軍は、ルナ2に立てこもる少数を除いて壊滅状態であり、降伏もやむなしという空気が大勢を占めていた。
 しかし、レビル将軍が収容されていたジオン本国から脱出に成功し、条約締結のための会合が開かれていたその時に全地球規模での演説を行い、地球連邦軍以上にジオン軍も疲弊していることを訴えた。
 ジオンに兵無し、と。
 これを受けて、地球連邦政府首脳は徹底抗戦を決意、交渉も振り出しに戻る。
 結局、宇宙世紀0079年1月31日、核の封印等の戦時条約を結んで交渉を終えた。
 これを、条約が締結された地、南極にちなんで南極条約と呼んだ。

 だが、レビルは決定的な思い違いをしていた。
 撃墜した戦闘爆撃機ガトルやモビルスーツ、ザクの数から、ジオンの損害を類推したのだ。
 実際にはガトルは勿論、ザクにもガトルの物を元にした脱出ポッドが装備され、ジオンの多くの兵は自分のモビルスーツを失いながらも、一命を取り留めていた。
 ジオンの熟練したパイロット達は、まだまだ居た。
 いや、もう生産の終わったガトルを失ったことでモビルスーツに機種転換する者が多く出たこと、兵が実戦を経験したことで、そのパイロットの層は逆に厚くなっていると言えよう。

 そしてまた、駐留していた連邦軍のせいで各コロニーの港に被害を出し、経済活動はおろか生命維持にまで苦慮していたサイド1、2、4、5では、ジオンが送り込んだアジテーターたちに扇動された暴動が起こり、連邦寄りの政治をして甘い汁を吸って居た政治屋たちが倒され、反連邦の自治政府が樹立していた。
 さんざん自分達を抑圧しておきながら、いざという時に役に立たず、あまつさえジオン軍との戦闘に自分達のコロニーを巻き込んだ地球連邦軍に愛想を尽かしたのである。
 ジオン寄りを表明して中立を宣言したサイド6リーアが無事であったこともあり、どのサイドも、戦争には中立、不干渉の立場を取ることになった。
 そう、今や宇宙はルナ2とサイド7いう僅かな例外を除いて、連邦の物では無くなっていたのだ。

 そして、ジオン軍は速やかに地球侵攻作戦の決行を決定した。
 2月7日に作戦を本格的に発動し、同月中旬から月面から地球に向けてマスドライバーでの攻撃を実施し、目的基地の対空防衛を弱体化させた。
 3月1日に宇宙基地制圧隊、3月4日に資源発掘隊を第一次降下作戦にて天然資源の多いカスピ海及び黒海沿岸部、コーカサス地方のオデッサ・バイコヌールに降下させて占領する。
 この指揮を執ったのが、マ・クベ中佐である。

 その作戦前だった。
 メイ・カーウィン嬢が、護衛のリュウヤ・タチバナ中尉を連れて、マ・クベのオフィスを訪ねたのは。

「できました、中佐!」
「何がだね?」

 常に冷徹なマ・クベが気押されるほど、少女の機嫌は良かった。

「統合整備計画に沿った機体です! MS−06F2、F2型ザクです」

 プレゼンテーション資料を前に、上機嫌で説明する。

「機体の軽量化とジェネレーター出力の向上を目的に、量産機、MS−06Fを改修した機体です。完全に統合整備計画に則っているわけじゃないんですけど、細かい所が改修されて、性能向上が図られているんです」
「ほう」
「指揮官用のS型を上回る推力を出しながら、航続距離はF型と変わらず。軽量化によって、地上適性能力もS型を上回っています」

 つまり、現時点では最高性能のザクという訳だ。

「近くに予定されている地球侵攻作戦のために、F型をベースに推進剤の搭載量削減や宇宙用の装備を取り除いて軽量化を図ったJ型も検討されていたんですけど、地上でも、このF2型はJ型を上回る性能を示します」

 そもそも、と少女は言った。

「空間戦用の能力は、残しておいた方が良いと思うんです」
「何故かね?」

 マ・クベの質問に対し、メイは隣に座ったリュウヤにちらりと視線を向けてから言った。

「モビルスーツの空輸を目的にした、ガウ攻撃空母計画というものが立ち上がってるって聞いてます。大気圏内でモビルスーツの降下作戦を行うなら、姿勢制御用のスラスター類とAMBAC(Active Mass Balance Autocontrol 能動的質量移動による自動姿勢制御)システムはぜひ残しておかないと。そう、そのためのロケットブースターも開発したんですよ」

 ザクのバックパック脇に装備する小型のロケットブースター、ラケーテンガルデンを示しながら言う。

「小型で戦闘の邪魔にもなりません。でも、これと本体のスラスターを使えば、一回だけならザクは空を飛べます」
「空を?」
「そうです。万が一、降下作戦が失敗したり、地上の滑走路が破壊されて、ガウ攻撃空母が地上に降りることができなくなっても、これさえあれば上空でランデブーが可能です」

 モビルスーツが空を飛ぶという発想にマ・クベは驚き、それがこんな小型のロケットブースターを追加するだけで済むということに、二度驚いた。

「この性能でも、統合整備計画に沿って開発したお陰で生産コストは従来のF型、地上用を想定していたJ型よりもお得です。それに、統合整備計画に完全に沿ったものに改修できるよう、余裕を持った設計をしてあるんです」

 そして、三度目の驚き。
 コスト面でも、この新型は勝っているという。
 ここまで来ると、もう採用するしかないだろう。
 地上用ザクは地球侵攻作戦後、地球で生産する予定だったが、この機体を採用することになるだろう。
 なお、後日のことであるが、地上用モビルスーツの開発でジオニック社とツィマッド社が共同でザクの後継機グフを開発したものの、このF2型ザクの完成度があまりにも高かったため採用に至らず、テスト用の機体が製造されるのに留まることになる。
 それはまた、次のモビルスーツ、ドムの開発を早めることになるのだが、これもまた未来の話である。
 そして、少女はモビルスーツ本体以外にも開発の手を伸ばしていた。

「それから、武器も新開発されました。MMP−78です」

 従来のザク・マシンガンに似たシルエットを持つマシンガンを示す。

「従来の、M−120A1ザク・マシンガンと違う点は、バレル下部にグレネードランチャーを装備していることと、オプションで対空弾と下から装填される専用箱型マガジンが追加されている点です」
「うむ?」
「通常形態だと今まで通り、円盤型マガジンの徹甲榴弾を射撃できますけど、専用箱型マガジンを機関部下部に差し込めば、こちらの弾丸が優先して発射されることになります。磁気探知式の近接信管を使った対空弾ですから、ミノフスキー粒子散布環境下でも使えます。地上で連邦軍の航空機を相手にしなければならないモビルスーツには、便利な装備だと思うんですけど」
「なるほど」

 ザクに対空戦闘能力が加われば、頼もしい限りだ。
 それが、対地戦闘装備と即座に切り替えられるというのであれば、言うことはない。
 また、銃の下部から装填される箱型マガジンは、円盤型マガジンより再装填が素早くできるため、予備の弾倉をこれで賄うことが、現地の運用レベルでは行われることになる。
 スカート部に、箱型予備弾倉をアタッチメントで取り付けた機体が、戦線各所で見られるようになるのだった。

「よろしい。採用するよう、上に諮ることとしよう」

 マ・クベの了承に、少女は満面の笑みを浮かべた。

「はい、それじゃあ先行生産型を何機か回します。地球侵攻作戦、行かれるんですよね」

 マ・クベは、ちらりと少女の隣に座るリュウヤ・タチバナ中尉を見た。
 ジオニック社の社員に過ぎないメイが、軍の内情を知ることができるとしたら、この男を経由してのみだろう。
 案の定、リュウヤは小さく頷いて、マ・クベの推測を肯定した。
 そこで、マ・クベは考え込み、メイに言った。

「そうだな、君にも開発者として同行してもらおうか」

 メイ・カーウィンは、旧ジオン・ダイクン派だったカーウィン家に対する人質である。
 今後、戦場が地球上に移るなら、この少女にも同行してもらう必要があるだろう。
 だがしかし、ここでリュウヤが口を挟んだ。

「いえ、メイ嬢には、他にやってもらう仕事があります」
「他の仕事?」

 いぶかしげに問うマ・クベに、少女は答えた。

「はい、マ・クベ中佐が提唱された統合整備計画。これに完全に沿ったザクを作らなければならないんです」
「ふむ」

 もっともな理由ではある。
 それにリュウヤが補足した。

「マ・クベ中佐の統合整備計画では、モビルスーツの装甲材は、チタン・セラミック複合材を使用となっていますが、今はまだできません。キシリア様がグラナダを掌握されましたから、月からチタンの供給体制がようやく始まりそうですが、地球に行っては、それも手に入れることが難しくなってしまいますから」

 これから占領する地球上でもチタンの入手は可能だろうが、供給が可能になるまでには時間がかかる。
 それを考えると、少女には宇宙に残ってもらった方が良い。
 特に、このF2型ザクの開発を主導した手腕を考えると、単に人質として使うには惜しい人材であった。

「よかろう。チタン材の優先的な割り当て、私の方からキシリア様に具申して置こう」
「本当ですか! ありがとうございます」

 喜色を浮かべるメイ。
 こうして、F2型ザクと、新型のマシンガンMMP−78が生産されることになる。
 これにより、地球侵攻作戦は予想以上にスムーズに進み、F2型ザクの名声を高めることになるのだった。



■ライナーノーツ

 F2型ザクのロケットブースターは、『機動戦士ガンダム0083』にて宇宙・大気圏内両用強襲揚陸艦アルビオンに取りつくために利用されたが、メイはそれをガウ攻撃空母との空中ランデブーに利用することを提案している。
 後にファット・アンクルやドダイとの連携にも利用された。


 MGモデルにはこのロケットブースターも付属している(1/144のHGUCには付いていない)

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