【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
第九話 開戦
宇宙世紀0079年1月3日午前7時20分、ジオン公国は地球連邦政府に対して宣戦を布告した。
時を同じくして、サイド5ルウムの各バンチの宇宙港に駐留する連邦軍艦艇へ通信が入った。
「地球連邦軍駐留艦隊に告ぐ。ただちに降伏せよ。こちらはジオン軍だ。コロニーには被害を与えたくない。ただちに降伏せよ」
ずいぶん乱れた雑音混じりの通信だった。
そのせいか、発信源が分からない。
見えない敵からの一方的な通告に、各コロニーの治安のため駐留していた連邦軍艦艇は他の艦と連絡を取ろうとするが、通信は途絶していた。
既に民間船に偽装したジオン軍により、遠距離の通信を妨害するだけの濃度のミノフスキー粒子が散布されていたからだ。
「最後通牒だ。降伏せよ」
突き付けられた要求を、連邦軍の各艦は跳ね除けた。
何が起こっているのか状況が掴めなかったこともあるが、そこには連邦軍に対し、ジオン軍…… コロニーの自治政府軍ごときに何ができるのかという驕りがあった。
そして、そのまま最後通牒が無視されたジオン軍モビルスーツザクIIは、核バズーカを発射。
ほとんどのコロニーで、港湾施設を巻き込みながらも連邦軍の艦は撃沈された。
コロニーの生命維持には問題はないが、港施設は抜本的な再構築を行わない限り軍用艦艇が駐留できない、連邦軍が補給地として使えないレベルまで破壊されていた。
「潜り込むまでは気を使ったけど、最後はあっけない仕事だったねぇ」
その作戦指揮を取っていたのは、ジオン突撃機動軍、海兵隊司令代理シーマ・ガラハウ中佐だった。
同様な作戦は、サイド1ザーン、サイド2ハッテ、サイド4ムーアでも行われ、成功を収めていた。
これにより、各コロニーの駐留軍が全滅すると共に、コロニーの宇宙港が壊滅。
未曾有の損害に、各サイドでは激震が走った。
月の裏側から進軍して来るジオン軍。
ドズル・ザビ中将率いるジオン宇宙攻撃軍を迎撃するため各コロニーに最低限の治安部隊を残してサイド5ルウムを離れた連邦軍レビル艦隊だったが、後方のコロニーから核爆発らしき反応を検知。
自分たちがおびき出されたことを悟った。
「どうします、提督」
慌てる副官達を静め、レビルは前進を指示した。
今更戻っても遅いだろうし敵に後背を突かれるのが落ちだ。
現に艦隊はレーダーも各艦のデータリンクも動作しない状態に陥っている。
宙域にミノフスキー粒子が散布されているせいだった。
総員を目視監視に当て、各砲座、銃座には人を配し準備はしているものの、データリンクに頼った訓練しか行って来なかった連邦軍の練度は低い。
「敵機発見!」
監視員から、敵編隊の接近が報告された。
両サイドのラッチに四発の対艦ミサイルを積んだ、暗赤色の機体。
ジオン軍の制式宇宙戦闘爆撃機ガトルだ。
「よし、迎撃せよ」
まず、足の長いメガ粒子砲が放たれたが、データリンクもレーダーも効かない状態では当たらない。
その上、砲撃を加えた途端、敵機の反応は五倍に増えた。
「何だ、あれは!?」
「敵が分身した!?」
大混乱に陥る連邦軍艦隊。
「対艦ミサイルです!」
敵の正体に気付く者も居たが、即応できる者は居なかった。
「この距離でだと!?」
「ブラフだ、無視しろ!」
「いや、しかし敵機がミサイルの後ろに隠れて照準ができません!」
敵機、宇宙戦闘爆撃機ガトルは戦闘機動で、対艦ミサイルの背後を行き来していた。
照準を定めようとしても、捉えたと思ったとたん、手前側の対艦ミサイルに照準が切り替わってしまう。
火器管制装置の自動化の弱点だった。
「ええい、対艦ミサイルごと迎撃しろ!」
怒声が飛び交い、砲撃が唸る。
コロンブス級輸送艦からは、戦闘機トリアーエズとセイバーフィッシュが飛び立った。
しかし遅い。
ガトルの対艦ミサイルを撃ち落とした時には全機、ガトルの赤外線、レーザー併用誘導のミサイルにロックオンされてしまっていた。
ガトルの機体の両サイドに縦に並んだミサイルポッドから、次々にミサイルが発射され、連邦軍の戦闘機隊を撃ち落としていく。
反撃で落とされたガトルも少なくなかったが、その優秀な脱出ポッドは乗員を保護し、装備された30ミリガトリング砲で経路を切り開きながら離脱して行く。
「くそっ、生き残った者でエレメントを組め。敵機を迎撃するぞ」
だが、生き残りの戦闘機達が何とか立て直そうとした時には既に、暗赤色の敵機、ガトルは逃走に入っていた。
ブースターを付けたセイバーフィッシュなら加速でも負けないが、全力で遠ざかるガトルを追うには機を逸していた。
そして、艦隊も艦載機もガトルの攻撃にかまけている間に、もっと恐ろしい物に懐に入られていた。
宇宙を縦横に舞う人型兵器。
ジオンのモビルスーツ、ザクである。
その巨体が担いだバズーカで狙いを定め、サラミス級巡洋艦に攻撃を放つ。
一撃。
一撃でサラミスが墜ちた。
「核だ。連中、核を使ってやがる」
恐怖で動きが止まった戦闘機群を、120ミリマシンガンがなぎ払う。
一方的な攻撃。
運良く反撃が当たっても、その機体胸部のフロントパネルが跳ね上がると同時に、ガトルと同じ脱出ポッドが射出される。
爆発まで利用して、一目散に離脱して行く脱出ポッドに構っている余裕は、連邦軍には無かった。
「連邦軍も潰走し出したな」
連邦軍がザクに蹂躙される様を、戦場から離れた位置で観測しているのはリュウヤ・タチバナ中尉のガトルだった。
ミノフスキー粒子散布環境下における観測を行うため、光学系センサーを搭載した有効観測距離、五百キロ以上を誇る戦術航宙偵察ポッドシステム。
ガトルの両側面のハードポイントにマウントされたそれで、ザクの実戦データを取っているのだ。
「うん、リューヤの考え出したガトルのパラレルアタックのお陰で、突撃する時の被害が大分減ったからね」
ヘッドアップディスプレイに表示される情報を忙しく確認しながら戦術航宙偵察ポッドシステムを操作するのは、コ・パイロット席に同乗したメイ・カーウィン嬢だった。
今年で十四歳になる少女はノーマルスーツ越しにも女性を感じさせるような成長を見せていた。
無論、リュウヤから見ればまだまだ子供なのだが。
「ガトルの脱出装置、さすが確実だよね。ザクに搭載した分もきちんと動作してるよ」
メイは戦場にあっても笑顔を浮かべることができていた。
「お陰で助かる人が、たくさん居るね」
それが嬉しいのだろう。
正直、年端も行かないメイを戦場に連れて来るのは気が進まなかったリュウヤだったが、少女の様子に内心、ほっと息を漏らした。
PTSD、心的外傷後ストレス障害を心配したのだが、この分なら大丈夫だろう。
もっとも少女が気丈な態度でいられるのは、頼りにできる大人がすぐ隣に居るからこそなのだが、それには気付かないリュウヤだった。
「さて、連邦軍の艦隊を片づけたら今度はコロニー落としか」
戦場の方は一段落ついた様子で、ごく少数の連邦軍艦艇が密集隊形で味方の艦を盾にしながら逃げ出している。
さすがのザクも、後先考えずに加速して逃げ出した戦艦の後は追えない。
メイの方もそれを確認しながら頷く。
「テキサスだっけ、無人のコロニーを核パルスエンジンでジャブローに落とすんだよね」
「ああ、連邦軍が無駄な抵抗さえしなければ、上手く行くだろうが」
実際には地球上にコロニーを落とすことができても、連邦軍の抵抗により上手くジャブローに落とすことはできないだろうとリュウヤは踏んでいた。
それについては、ジオン上層部ももちろん把握している所で、逆に利用することを考えている。
テキサスがジャブローに落ちてくれればそれでよし、もし落ちなくても、目標をそれたコロニーが、地球上に甚大な被害を与えることになる。
つまり、最初からジャブローを攻撃目標として明かすことで、それ以外の場所に被害が出た場合は、連邦軍がジャブローの連邦軍総司令部を民間より優先させたせいであるとするのだ。
徹底的な、権力者と市民との乖離策。
それがジオンの取る政策だった。
これにより、連邦の不甲斐なさを責める方向に民意を向けることができる。
いくら地球連邦がジオンの三十倍以上の国力を持っているとはいえ、市民の間に厭戦感と反連邦の感情が蔓延すれば、戦争の継続は困難になる。
増してや地上に甚大な被害が及んでは、地球連邦の経済自体が揺るぎかねない。
そこで地球侵攻を行えば、速やかに占領が行われるだろう。
地球上の戦略物資の確保は、地球連邦から国力を奪い、ジオンに益をもたらす。
そのためにも、メイの所属するジオニック社とツィマッド社には、地上用モビルスーツの開発が任されているのである。
宇宙世紀0079年1月4日、ジオン軍はサイド5ルウムのテキサスコロニーに核パルスエンジンを装着して正規の軌道から離脱させ、地球へ落下させるコースへ移動させた。
連邦軍の必死の反攻によりコロニーは崩壊し、ジャブローへの落下は食い止められた。
しかし、1月10日。
地球連邦軍の迎撃で崩壊したコロニーの残塊が相次いで地球に落下。
地球全土で甚大な被害が発生し、数多くの人命が失われた。
■ライナーノーツ
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