【ネタ】機動戦士ガトル(ファーストガンダム・ジオンifもの)
第六話 シミュレーション講習
宇宙世紀0076年4月、MS−05ザクが本格的な量産体制に入った。
しかし、ザクの開発に携わった天才少女、十一歳になるメイ・カーウィン嬢の機嫌は良い物では無かった。
「どうした、メイ嬢。そんな顔をして。ようやくザクの量産が軌道に乗ったというのに」
喫茶コーナーで、テーブルにつきながら物思いにふける少女に声をかけたのはリュウヤ・タチバナだった。
「リューヤ」
メイは、顔を上げてリュウヤに訴えかけた。
「それがね、キシリア様はザクの性能に満足していないらしくって、もっと性能と生産性を上げた機体を開発しろって言うのよ」
「そうか。だが兵器の開発は日進月歩だ。一つ完成したら次のステップを望むのが当然じゃないか?」
リュウヤも椅子につきながら、メイに言う。
「それは、そうだけど……」
口ごもりながらも、恨めしそうにリュウヤを見るメイ。
「リューヤのせいも、あるんだからね」
「俺が?」
ただのガトル乗り、一介の中尉に過ぎないリュウヤが、モビルスーツ開発などという一大国家プロジェクトにどんな影響を与えられるというのか。
「去年の次期主力兵器競合試験。リューヤが編み出したパラレルアタックのお陰で、模擬戦が不首尾に終わったでしょ。だから、モビルスーツの性能アップの声が強いの」
「あー、あれか」
対艦ミサイルを、囮兼盾にした戦法。
「確かに考え付いたのは俺だが、実際にテストの場でやったのは、あいつらだぞ」
リュウヤがジオニック社のモビルスーツ開発部署に引き抜かれる前に居たガトル部隊。
模擬戦でモビルスーツの相手となったのは、そこの連中だった。
上の人間に睨まれる可能性があるというのによくやるというのがリュウヤの見解だった。
しかし、
「まさか、そのせいか?」
リュウヤはふと思い至った。
その呟きにメイが反応する。
「どうしたの?」
「いや」
頬を一撫でして、リュウヤは答えた。
「士官学校から呼び出しを受けてな。シミュレータの一日教官をやって欲しいそうだ」
その答えに納得するメイ。
「ああ、士官学校にもザクのシミュレータを入れたものね」
「なにっ、それじゃあ俺が呼び出されたのは、メイ嬢のせいかっ!」
「何でも、人のせいにしないでよ!」
大げさに驚いて見せるリュウヤに乗せられて、こちらも声を張り上げるメイ。
でも、と考え込む。
「ザク用のシミュレータがこんなに早くできあがったのは、リューヤのお陰かな」
「俺が?」
「リューヤがヒントをくれたお陰で、ザクのコクピットにガトルの脱出ポッドを組み込むことができたでしょ。コクピット周りのインターフェイスがガトルと共通化できたから、シミュレータもガトルの物を流用できたの」
「なるほど、俺もガトルのシミュレータには士官学校時代、世話になったしな」
ふむ、と頷く。
「それに、ガトルからの機種転換も楽だって好評なんだよ。これもリューヤのお陰かな」
「いや、普通にメイ嬢の手柄だろ」
リュウヤは自分の機体のコ・パイロット席を分捕られただけだ。
ともあれ、
「それじゃあ、そろそろ行くか」
腰を上げるリュウヤ。
「んー、メイも付いて行っていい?」
「なんだ、それは?」
「ザクのシミュレータをやるんでしょ。新しい機体のヒントが掴めるかな、と思って」
「つまり、それはメイ嬢がモビルスーツの開発に必要だということなんだな」
「うん」
「ならばよし」
気軽にリュウヤは請け負った。
「理由があれば、見学も認められるだろう。メイ嬢はザクの開発技師だからな」
こうして、二人は連れ立って、士官学校に向かったのだが。
何故、ザビ家の人間がここに居るのか。
リュウヤは、士官学校で彼を迎えた身長二百十センチの巨漢の存在に、頭を痛めた。
ドズル・ザビ。
ザビ家の三男である。
「貴様がリュウヤ・タチバナ中尉か。話は聞いておる」
「話、でありますか?」
怪訝そうに問うリュウヤに、ドズルは笑みを見せた。
「ガトルによる新戦法を編み出し、モビルスーツを窮地に陥れたそうではないか」
よりにもよって、ザビ家の人間に話したのか。
……謀ったな、謀ったな、あいつら!
リュウヤは内心で、元同僚たちを毒づく。
「小官は、ちょっとした発想の転換を図っただけですが」
「過程や方法なぞ、どうでも良いのだ。現実の戦いというやつを、生徒達に教えてやってくれ」
「はっ」
敬礼するリュウヤ。
「ところで、そちらの子供はなんだ」
最初から気になっていたのだろう、リュウヤの陰に隠れるようにして立っていたメイに視線を移すドズル。
リュウヤは姿勢を正して答えた。
「はっ、ジオニック社でザクの開発を受け持っております、メイ・カーウィン技師であります。今回は、開発に必要なシミュレーションデータの採集のため同行しております」
「こんな子供がか」
政争に興味のないドズルには、カーウィン家の詳しい内情など知らぬのだろう。
「キシリアは何を考えているのか」
そう呟きを漏らす。
ともあれ、ドズルのお膳立てで、士官学校でのシミュレータ教習は幕を開けたのだった。
士官候補生、シャア・アズナブルは代表として、その臨時教官を務める中尉とシミュレーターで対戦することになった。
子供が一緒にシミュレーターに乗り込んでいたが、こちらはジオニック社の技師。
ガトルのコ・パイロット席でデータ採取を行うらしい。
「それでは、開始だ!」
ドズル・ザビの声と共に、シミュレータが開始される。
光学センサーに感あり。
模擬戦相手の中尉は、一直線にこちらに向かって来るようだった。
シャアも戦闘機動を行いながら、相手のガトルに向かう。
「距離三千…… 二千五百」
ザクのマシンガンの有効射程は二千百。
確実に当てるなら二千以下まで詰める必要がある。
「距離二千、何!?」
唐突に、敵機の反応が五つに増えた。
ザクマシンガンの射程ぎりぎりで、ガトルが四発の対艦ミサイルを放ったのだ。
瞬時にブラフだと見切ったものの、シャアは射程に入った途端の仮想敵の行動に少なからず焦りを覚えていた。
「こちらの射程が、性能が読まれている?」
そう呟いて、それも当然と納得する。
相手には、ジオニック社のメカニックがついているのだ。
ザクの有効射程距離など、お見通しだろう。
そして、ガトルは四発の対艦ミサイルの陰を戦闘機動で行き来している。
ガトルに照準を定めようとするものの、捉えたと思った次の瞬間には対艦ミサイルの陰に隠れ、射撃管制装置が自動的により近くにあるミサイルへと照準を切り替えてしまう。
「ええい、これがガトルパイロットを専攻していた者達の言っていた、新戦法。パラレルアタックか!」
確かに忌々しい攻撃だ。
先に対艦ミサイルを撃墜してしまうしかない。
順番に四発の対艦ミサイルを撃墜するシャア。
その間に彼我の距離は縮まり、相手のミサイルの必中の間合いに入り込まれていた。
一、二、三、四、五、六、七、八、ガトルの射撃管制システムが一度にロックオンできる最大数の、レーザー、赤外線誘導ミサイルが放たれる。
「ちぃっ!」
シャアは驚異的な反応でそれをかわし、撃ち落とす。
士官学校随一の腕があってこその離れ業だった。
そんなシャアの目の前を、ガトルがすり抜ける。
追撃しようとして、センサーに反応。
ガトル以外に小さな物が至近にある。
それに気付いた所で、突如としてメインカメラが、サブセンサーがブラックアウトする。
「何だと!?」
何が起こったのか分からない。
そこで戦闘継続は無理と判断され、シミュレーションは終了した。
「ミサイルを全弾かわしきったのは見事だった。さすがは主席の腕前だな」
リュウヤはシャアを評してそう言った。
そして、戦いを見守っていた士官候補生達全員に向かって話す。
「連邦軍にもツワモノは居るだろう。今回の様な小細工を仕掛ける敵も居るに違いない。そういう敵も想定し、慌てずに対処することが肝要だ」
「はっ」
全員が頷く。
「しかし、中尉殿。最後の攻撃は、あれは一体……」
シャアが納得行かない様子で訊ねる。
彼には、あの攻撃の正体が分からなかった。
「メイ嬢?」
「あ、はい」
リュウヤに促され、メイは戦闘記録を映し出す。
第三者視点の俯瞰図だ。
「タネが割れれば簡単だ。自分はミサイル攻撃の後……」
小さな噴射と共に、ガトルのパイロット席が射出される。
脱出ポッドを兼ねたコクピットだ。
「ガトルの脱出ポッドを分離させ、ミサイル迎撃でビジー状態になっているザクのセンサーの隙をついて忍び寄り、本体を囮とし装備されている三十ミリガトリングでザクの頭部を破壊した」
「そんな戦法が……」
「まぁ、これは奇手だが、全員、何故ガトルやザクには脱出ポッドが内蔵されているのか考えることは大事だ」
リュウヤは士官候補生達を見回した。
「ジオンの国力は連邦の三十分の一と言われているのが一般的だが、これは当然人員についても通じることだ。モビルスーツも大事だが、熟練のパイロットを失うことも同じぐらい痛手になる。戦場では脱出ポッドを活用して、何が何でも生き残り再戦を果たす。これが諸君らに求められていることだ」
「はっ」
それで、リュウヤの講義は終了した。
この時の戦闘データはライブラリ化され、後々まで役立つことになるのだが、リュウヤの関与するところでは無かった。
そして、その帰り道。
「でも、全然参考にならないね、リューヤのすることって」
「まぁ、そうかもな」
素知らぬ顔でメイの言葉を受け流すリュウヤの姿があった。
■ライナーノーツ
ガトルは立体化に恵まれていない。
辛うじてB-CLUB(バンダイ)のレジンキットがあるくらい。
プラモデル1/144 ジオン公国軍 ガトル戦闘機 「機動戦士ガンダム」 レジンキャストキット [2532]
あとは、完成品としては海外版のMS IN ACTION!!でゲルググとのセットがあるくらい。