ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件

第5話 大気圏突入 Aパート


「レイ博士!」

 ホワイトベース第2工作室、別名『テム・レイ博士の秘密の研究室出張所』。
 そこを開けて突入したミヤビが直面したものは、

 むぅ、臭い……

 オイルやケミカルな洗浄剤などの薬品臭だけではない。
 と言うか洗浄スプレーを使うと警報が鳴るからって、また可燃性ガス検知器切ってますね!
 という状況にプラスして、

 男の汗と体臭、さらに何かが腐ったような臭い!

 そしてアムロが叫ぶ。

「父さん!」

 床にぱったりと倒れこんでいるテム・レイ博士。
 アムロが慌てて駆け寄りその身体をゆする。
 果たしてテム・レイ博士はあっさりと目を開けた。

「おう、アムロか」

 おう、アムロかじゃないでしょ!
 絶叫したいミヤビだったが、それを抑え込んで問う。

「また何徹したんですか……」

 テム・レイ博士は研究者らしく熱中することがあると研究室に何日も閉じこもり、身体も洗わず着替えもせず、挙句の果て食事も睡眠も忘れて最後には倒れるという悪癖があった。
 今回もそれのようだ。
 おそらくサイド7を出港してからここまで、閉じこもりっぱなしだったのだろう。
 だからアムロたちもテム・レイ博士の存在に気づかなかったのだ。

「はい、経口補給液とゼリー食のパックです」
「お、おう済まないミヤビ君」
「いつものことですから…… 食べたらシャワーと着替え、してくださいね」
「うむ」

 いつものこと……
 手慣れた様子で対応するミヤビ。
 子供の世話をするようなものである。
 ずいぶんと大きな子供だが、男性であった前世を持ち、技術者、研究者として歩んできたミヤビには分かる。
 男なんて、そして特に研究者なんてみんなこんなものだと。
 前世でも睡眠不足で眼をショボショボさせながら授業を行う教授や、24時間戦えますかとばかりに会社や取引先に泊まり込みで働くジャパニーズビジネスマンな技術者などが居たものだ。
 そうやって感慨深げに瞳を細めるミヤビの耳にアムロの、

「母さん……」

 という呟きが届く。

「えっ?」

 振り返るミヤビの視線の先で、アムロが慌てたように説明する。

「うん、と、父さんの世話をするミヤビさんって、お母さんって感じがして」
「お母さん?」

 ミヤビはアムロの家庭環境を思い出す。
 彼は幼いころ宇宙に行きたくないという母親と離れて父と二人、サイド7に向かったのだ。

「案外、ミヤビさんって主婦とか似合っていたりして。ははっ、ははは……」
「……何を言うのよ」

 ミヤビは恥じらうようにそっぽを向いてつぶやく。
 アムロはそれを見て、ミヤビさんでもこういう風に照れることがあるんだ、と新鮮な感動を覚えていた。
 アムロにも父親に似てルーズなところがあって、熱中すると食事も忘れるし、幼馴染のフラウ・ボゥの前にランニングシャツとトランクスという下着姿をさらしてもなんとも思わないという実にダメ人間な面を持つ。
 そんなアムロにフラウは世話を焼きつつも口うるさく小言を言うのに対して、ミヤビは「男ってみんなそういうものだよね、研究者なら特に」という具合に理解を示し、いつものことと済ませて世話してくれる。
 レイ親子のような男性にはある意味、理想の女性と思えるミヤビにアムロが惹かれるのは当然のことだったのかもしれない。

 しかし……
 実際にはミヤビは死んだ目をした顔を見られないように顔をそむけただけである。
 女性として見られるたびに首を吊ってしまいたい衝動に駆られるミヤビだったが、青少年の母性に対する思慕の情もまた理解できるだけに、その夢を壊さないよう気を使っているのだった。
 誰か自分の忍耐力をほめて欲しいと思うミヤビ。
 まぁ、そんな彼女の葛藤はともかく、テム・レイ博士とアムロ、親子の再会である。

「……父さん」
「ガンキャノンの戦果はどうだ? 順調なのかな?」
「……は、はい。父さん」
「うむ、来るがいい」
「はい」

 そしてアムロとミヤビが目にしたものは……

「こいつをガンキャノンに使わせるんだ。ジオンのモビルスーツを参考に開発した」

 鎖付き鉄球。
 いわゆるガンダムハンマーであった。
 ハンマー型でないにもかかわらずハンマーの名を有する理由は不明、などという意見もあるが、普通にワイヤーの先に砲丸がついているハンマー投げのハンマーに形状が似てるからじゃないの、とミヤビは思う。
 テム・レイ博士はジオンのモビルスーツを参考に開発した、とは言うが、ザクのスパイク付きショルダーアーマーでも参考にしたのだろうか。

 それはともかく、これがあるってことはガンダムはちゃんと開発されていたんだ!
 ドタバタしていてホワイトベースにガンダムが積まれていないという衝撃の事実がすっかり頭から抜け落ちていたミヤビだったが、ほっと胸をなで下ろす。

 だが、ミヤビは忘れていた。
 彼女の前世の記憶にあるゲーム『機動戦士ガンダムPERFECT ONE YEAR WAR』ではガンキャノンがガンダムシールドなどと共にガンダムハンマーも使えていたことを。

 そして彼女は気づいていない。
 テム・レイ博士はこれを『ガンダムハンマー』とは一言も呼んでいないということを。

 ガンダムがちゃんと開発されているのかどうかはいまだ不明のままなのだった。

 一方、古色蒼然とした質量兵器にアムロは、

「こ、こんな古くさい物を」

 父さん、酸素欠乏性にかかって……
 などと疑い出す。
 そんな彼をミヤビは生暖かい目で見る。

 いやいやいや、これがテム・レイ博士の素ですよ。

 と。
 現実を受け入れましょうよ、同志よ。
 とでもいうように、まるで自分だけ被害を受けるのが嫌で犠牲者が増えることを喜ぶような、実に大人げない思考をするミヤビ。
 そんな二人をよそに、テム・レイ博士は一人興奮した様子で言う。

「すごいぞ、ガンキャノンの戦闘力は数倍に跳ね上がる。持って行け、そしてすぐ装備して試すんだ」
「はい。でも父さんは?」
「研究中の物がいっぱいある。また連絡はとる。ささ、行くんだ」

 と、追い出されるアムロとミヤビだった。
 それでいいのか?



「大気圏突入25分前」

 そう告げたミライは操舵席でチューブ入りの宇宙食を取り、オペレーション前の最後のエネルギーと水分の補給を取る。
 キャプテンシートのブライトは、そんな彼女に声をかけた。

「ミライ、自信はあるか?」
「スペースグライダーで一度だけ大気圏に突入したことはあるわ。けどあの時は地上通信網がきちんとしていたし、船の形も違うけど」
「基本航法は同じだ。サラミスの指示に従えばいい」

 そのあたりはミライにも分かっていた。
 しかし、

「私が心配なのは、シャアがおとなしく引き下がったとは思えないことなの」

 それはブライトも懸念しているところだったが、ミライに対しては、

「ミライ、君は大気圏突入することだけを考えていてくれ」

 とだけ言う。
 ミライもブライトの気遣いが分かったのか、

「ええ、了解」

 とうなずいた。

『若造、聞こえるか?』

 護衛の巡洋艦、サラミスからの通信。

「は、はい、リード中尉」
『大気圏突入準備はいいな? 我々はサラミスの大気圏突入カプセルで行く。そちらとはスピードが違う、遅れるなよ』

『スピードが違う』のに『遅れるな』とはずいぶんな無茶振りである。
 というかミヤビが聞いていたら、

(たった一言で矛盾させるな!)

 と内心でツッコんでいただろう。
 しかし軍隊で理不尽な命令を受けることは珍しくも無い。

「はい、了解しました」

 とだけブライトは答える。

「ミライ、大気圏突入の自動操縦に切り替え、以下、突入の準備に備えるんだ」
「了解」

 ブライトはオペレーターを仰いで確認。

「シャアのムサイは?」
「変わりません。ただ、ムサイに接近する船があります」

 その報告を受け、ブライトは驚く。

「なに? また補給を受けるつもりなのか、シャアは」

 しかし、

「待てよ、ここで補給を受けるということは、俺たちの追跡をあきらめたということなのか?」

 そんなわけが無いからミヤビは苦労するのだ。



 コム、ジェイキュー、クラウン、三名のモビルスーツパイロットたちを前に語るシャア・アズナブル少佐。

「新たに三機のザクが間に合ったのは幸いである。20分後には大気圏に突入する。このタイミングで戦闘を仕掛けたという事実は古今例がない。地球の引力に引かれ大気圏に突入すれば、ザクとて一瞬のうちに燃え尽きてしまうだろう。しかし、敵が大気圏突入の為に全神経を集中している今こそ、ザクで攻撃するチャンスだ。第一目標、木馬、第二目標、敵のモビルスーツ。戦闘時間は2分とないはずだが、諸君らであればこの作戦を成し遂げられるだろう。期待する」

 とんでもないハイリスクな作戦を、大丈夫と錯覚させる。
 赤い彗星のカリスマがそこにあった。
 本当に始末の悪い、迷惑な男である。
 その力をまともな方に使えばいいのに、とミヤビなら思うだろうが、実際にはクワトロ時代のように味方にすると弱体化する。
 挙句の果てに勝手に人類に期待して勝手に失望した挙句、逆シャアでアクシズ落としを…… とつながっていくから本当に、
「シャアだかキャスバルだかしらねーがオレたちゃ迷惑だ! どっかよそでやれよそで!!」
 であった。
 腐るくらいなら理想など持つべきではないのだ。



「サラミスのカプセル、離脱。ホワイトベースはカプセルについて行きます」

 ミライの操舵でサラミスの大気圏突入カプセルを先導としてホワイトベースが大気圏突入コースに入る。
 ブライトは手元の送受話器で全艦に一斉放送を行う。

「ホワイトベース各員へ。本艦は8分後に大気圏に突入します。立っている人は座ってください。船が揺れるようなことがあっても騒がないように。各戦闘員、メカニックマンは各自の部所で待機のこと。ガンキャノンも発進する可能性がある。メカニックマンはそのつもりで」



『敵だ!』

 ムサイ級巡洋艦ファルメルから発進したモビルスーツ、ザクはホワイトベースからでも観測された。
 報告を受け、即座に発進準備を整えるアムロ。



「映像出します、最大望遠です。接触推定時間、34秒後」

 画像に映る4機のザクに、即座に指示を出すブライト。

「ハッチ開け! ガンキャノン、急速発進!」



 ガンキャノンのコクピットにホワイトベースブリッジでオペレーターをつとめるフラウ・ボゥからの通信が入る。

『アムロ、発進後4分でホワイトベースに戻って。必ずよ』
「了解。フラウ・ボゥ、僕だって丸焼けになりたくはないからね」

 一応、ミヤビに言われて事前にガンキャノンの大気圏突入機能を確認したとはいえ、失敗する可能性だってある。
 できれば試したくなど無かった。

『後方R3度。敵モビルスーツは四機よ』
「四機も? ホワイトベースの援護は?」
『後方のミサイルと機関砲でリュウさんやセイラさんたちが援護してくれるけど、高度には気をつけて』

 戦ってる最中に気をつけられるとでも思ってるのか?
 と言い返しそうになったアムロだったが、ガンキャノンのモニター隅、サポートAIである『サラツー』のアバターが任せて、というように小さな胸を張るのを見て言葉を飲み込む。
 フラウには、

「了解」

 とだけ言って、アムロはガンキャノンを左舷モビルスーツデッキからカタパルトで出撃させた。



 そして、

『ミヤビ、ドラケンE改、出ます!』

 右舷モビルスーツデッキからはミヤビのドラケンE改がカタパルトにより弾かれるように発進した。

ドラケンE改60ミリバルカンポッド

「ミヤビさん!?」

 驚くブライトに、ミヤビは、

『大気圏突入カプセルの護衛に回ります』

 とだけ答える。
 そしてリード中尉にも連絡。

『リード中尉、私がカプセルを死守します。絶対にコースを変えないで下さい』
『か、回避するなと言うのか!』
『コースを変えたらそれに続くホワイトベースも南米ジャブロー以外に、ジオンの勢力下に降りてしまう可能性が高くなります』
『そっ、それは……』

 現在地球は半分以上がジオンの勢力範囲となっており、地球連邦軍の支配地域のうち最大の南米から外れるとなるとミヤビの言うとおり、ジオンの勢力範囲の真っただ中に降りてしまう可能性が非常に高くなってしまう。

『大丈夫、あなた方は私が守ります。ですからもし回避するにしても私が死んだ後にしてください』

 その悲壮なまでの覚悟の言葉にリード中尉は、そしてその通信を傍受していたホワイトベース、そしてガンキャノンでも、誰も何も言えなくなってしまう。

(ミヤビさん、あなたって人はどうしてそこまで……)

 ブライトは震える拳を硬く、爪が手のひらに食い込むほど握りしめ、叫んでしまいたい衝動に耐える。
 ミヤビは自己犠牲の精神が強すぎる。
 どうすれば彼女を止められるのだろうかと。

 まったくの誤解である。
 ミヤビが「あなたは死なないわ、私が守るもの」とばかりに死守だの何だの言っているのは、リード中尉にコースを変えさせないためのハッタリだ。
 当然死ぬ気も無い。
 ただリード中尉のせいでコースを外れ北米、ガルマ大佐が率いるジオン軍の勢力圏内真っただ中に降りたりするのは御免というだけだ。

 しかし目的達成のために集中しきっている彼女には、その行動が他者からどのように映るかという視点がすっぽりと抜けていた。



■ライナーノーツ

 テム・レイ博士のしょうもない行方の判明。
 ガンダムがちゃんと開発されていたのかどうかはいまだ不明です。
 そして大気圏突入回の開始。
 相変わらず文章量が多すぎて長くなってしまうため4パート構成です。
 次回から戦闘ですね。


> いわゆるガンダムハンマーであった。

 割と人気のある装備にも関わらず、鎖がネックになるのかプラモデルには付属しない場合が多くて。
 MG(マスターグレード)RG(リアルグレード)に付属しないのは勘弁してほしいものです。
 別にこの辺を、

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 購入しなくてはいけないとかになりますからね。


> 彼女の前世の記憶にあるゲーム『機動戦士ガンダムPERFECT ONE YEAR WAR』ではガンキャノンがガンダムシールドなどと共にガンダムハンマーも使えていたことを。

 プレイステーションのシミュレーションゲームですね。

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 今後の展開の参考にさせていただきますので。
 またプラモデル作成に関しては「ナマケモノのお手軽ホビー工房」へどうぞ。

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