ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件
第2話 ドラケン破壊命令 Bパート
「ゆうべはな、貴様の作戦終了を祝うつもりでおった。貴様がもたもたしてくれたおかげで晩餐の支度はすべて無駄になったんだ、え?」
モニターに映る巨漢、ドズル・ザビ中将はシャアに向かって吠えるように言い放った。
そんな上官に、シャアは臆することなく報告する。
「連邦軍のV作戦をキャッチしたのです、ドズル中将」
「なに、V作戦?」
「は。モビルスーツの開発、それに伴う新造戦艦を同時にキャッチしたのであります」
その報告にドズルは一転して機嫌よく笑う。
「フフフ、さすが赤い彗星のシャアだな。で、何か?」
「帰還途中でありましたのでミサイル、弾薬がすべて底を尽き……」
「補給が欲しいのだな? 回す!」
「幸いであります。それにザクの補給も三機」
その要求に目をむくドズル。
「モビルスーツ・ザクを三機もなくしたのか!?」
「は、中将。そのうちの二機は、連邦軍のたった一機のモビルスーツのために」
シャアはスレンダー軍曹の話す敵モビルスーツの性能をあまり信じていなかったが、それでも受けた報告をそのままドズルにも伝える。
主観を交えて話してしまうと伝言ゲームより酷い状況になって上まで情報が伝わらなくなってしまうということもある。
また損失を上に納得してもらい補給を引き出すという意味ではスレンダーの報告は都合が良かった。
失態をごまかすために敵を過大評価していると後から非難されるのも馬鹿らしいため誇張したりはしないが。
そんなシャアの態度がドズルを信頼させたのか、
「まあよし、ザクを送る。V作戦のデータはなんでもいい、必ず手に入れろ。できるならそのモビルスーツを手に入れろ」
という返事をもらえた。
そうして通信を終わったシャアに副官、ドレン少尉が声をかけた。
「いかがいたしますシャア少佐。敵のデータはスレンダーが望遠撮影した物しかありませんが、まさかザクがあんな小さなマシンに負けたなどと報告しても信じてはもらえないでしょうし……」
シャアはドレンに命じる。
「少尉、突撃隊員を三名招集したまえ」
「は? 補給艦の到着を待つのではないので?」
「戦いとはいつも二手三手先を考えて行うものだ。できれば敵モビルスーツを手に入れ物的証拠としたい。スレンダーは脱出した。ということは逆もまた可能ではないのかな?」
ホワイトベースに帰還したミヤビはコクピット右側面にあるロックを解除しフェイス・オープンハンドルを引いて、
『フェイィィィス・オープン!!』
なんだか無駄にノリがよいサラのエコーがかかった警告音声…… 可愛らしい声でやるので違和感バリバリなそれとともにコクピットハッチを跳ね上げた。
無論アニメ『大空魔竜ガイキング』の主役ロボット、ガイキングように子供が泣くような凶悪超兵器ヘッドが現れ怒涛の攻撃を始めたりガンダムF91のように放熱のために素顔がさらされたりはしない。
コクピットに座っている『ヤシマの人形姫』を見て怯えたり竦んだりモビルスーツの性能を活かせぬまま死んでいったりする人間は居るかもしれないが。
フェイス・オープンハンドルの下には「EMERGENCY FACE OPEN HANDLE」とマーキングされた誤操作防止カバーに隠された緊急脱出用レバーが配置されている。
カバーを開け、これを引くことで爆発ボルトによるコクピットハッチの強制排除装置が作動するものだ。
ロックが壊れていたりハッチが歪んでいたりしても強制的に開けることができるが、周辺に人が居る場合はケガをする可能性がある。
そのためもあって、誤操作防止カバーで覆われているのだ。
「それじゃあ、サラちゃん。補給よろしく」
『はい、ミヤビさん』
サラの返事と共にシート左右に配されたレール上を前後に動く2本の多軸ジョイスティック、ドラケンEの操縦桿が後方にスライドした。
狭いコクピットで乗降の邪魔にならないよう必要のない時は待機位置に退避されるのだ。
これとフットペダル、音声認識コマンドによりドラケンE改は操作される。
なお機体制御OSの起動には音声や身体を使ったジェスチャーが必要になる。
両手を胸前でクロスさせたり「ドラケンE改、アクション!」と叫んでビッグオーごっこをすることも可能。
というか起動と同時に自動的に操作可能位置まで前進してくる操縦桿に肘をぶつけて悶絶したくないのなら、このポーズを取ることは有効だった。
ミヤビはコクピットの縁にあるステップを踏んでドラケンE改のコクピットを降りた。
ステップの前にはコクピットハッチの解放とロックに使用されるイジェクトフック、アンダーフックが並んでいる。
そしてドラケンE改はサポートAIであるサラの制御で補給を開始した。
まず使い終わったミサイルのケーシングを破棄。
自機の左腕二重下腕肢マニピュレーターを使い再装填を行う。
ドラケンE、そしてドラケンE改が標準で備えている二重下腕肢マニピュレーターは先端に付いた精密作業を担当する3本指ハンドとは別に肘から先がカニのはさみのように二つに割れて大きな荷物をつかめる機能を持っているのだ。
またこのマニピュレーターはゴリラのように立った状態でも地面に届くほどの長さを持つため、機体上面の左右に配置されているミサイルにも片手一本で十分届く。
分隊構成の場合、装填手にパワーローダータイプのマニピュレーターを装備した機体をあてがって行うことも多いが。
同様に左腕二重下腕肢マニピュレーターを使い右腕肘のハードポイントに付けていた甲壱型腕ビームサーベルも交換。
さらに主動力源である燃料電池の燃料と、背面装備のロケットエンジン用推進剤のサプライチューブを機体に接続し注入を開始する。
ここまで、すべてサポートAIのサラに任せてのオート作業。
人型兵器は自力で補給作業ができるのが強みだが、作業機械が元になっているドラケンE改は特にその点が優れており補給に関しては人間を必要としなかった。
そして同時に艦内ネットワークに接続し機体制御OSとカスタマイズ設定、また稼働記録が保存されている連邦軍規格に準拠した大容量光ストレージ、ミッションディスクのデータを管理サーバ上に保存、バックアップを行う。
ミッションディスクとクラウド上のバックアップはパイロット毎に貸与されており、これによりパイロットは機体を乗り換えても自分向けにカスタマイズされた設定をそのまま継続して利用することができる。
また一定動作を音声コマンドで自動実行するプログラムなど、パソコン端末を使って個人に合わせた動作プログラムの設定、機体オプションに合わせたドライバソフトのインストールなどチューニングを行うこともできるのだ。
管理サーバには機体メンテナンス支援プログラムが稼働している。
本来はヤシマ重工が無償で提供しているクラウドサービスだったが、軍など「一般のネットワークがダウンしても機能を維持する必要がある」「データを外部に置くなどセキュリティ上許容できない」という顧客、またガラパゴス志向の強い日本企業のように「クラウドでは実現できない独自の業務要件があり特別にカスタマイズしたい」などといった特殊な顧客向けには管理サーバのレンタルおよび販売を行っており、各顧客が自己のネットワーク上(通常DMZ)に独自に管理サーバを立てることになっていた。
そして機体メンテナンス支援プログラムによって集約された稼働記録を使って機体制御OSはアップグレードされており、アップデートパッチの配布が行われる。
さらに機体メンテナンス支援プログラムはこうして収集した稼働記録をもとに機体各部の部品の余寿命の予測管理、交換の推奨、交換部品の在庫管理、部品購入発注、メンテナンスサービスの斡旋等、様々なサービスを提供していた。
これはミヤビの前世、旧21世紀の世界で言うところの工業分野でのIoT(Internet of Things)技術活用で、実際にGE(ゼネラル・エレクトリック)などが提供していたプラントの機器や航空機のエンジンにセンサーを取り付けてネット経由で集約、遠隔管理するものを発展させたサービスだ。
(もっと身近なものだと企業などで使われるプリンターやコピー機などは既にIoT化されていてトラブルを遠隔で検知、それに応じてメンテナンス員を派遣するなどといった保守サービスが提供されている)
元々作業機械だったドラケンE改は機体制御OSなどの核心技術部分や軍事に関わる機密部分以外はミヤビの提案でオープンアーキテクチャにされており、機体の互換部品の製造は元より整備、メンテナンス業も連邦政府の認定を受けた業者なら誰でも参入が可能。
そしてこれらサードパーティはヤシマ重工に登録することで機体メンテナンス支援プログラムに広告を表示させることができる。
具体的にはヤシマ重工は機体メンテナンス支援プログラムにより各顧客のメンテナンスサービスの利用履歴や部品の購入時期、購入先、単価などを把握できており、顧客が必要になったタイミングで最適なメンテナンス業者、部品供給メーカーを候補として提示するようになっている。
従来の購入価格より安価で提示できれば顧客は高い確率で契約、購入してくれる。
ヤシマ重工はその成約金額の数パーセントを手数料として得ることになっている。
ヤシマ重工は無料で機体メンテナンス支援プログラムを提供しているが、そのビジネスモデルの実態は法人購入代行システムとなっている。
単に機体本体という製品を売るだけではなく、製品とサービスを一体化させたサービス製造業としてヤシマ重工はドラケンE改を提供しているわけである。
この辺のマネタイズ、商売の仕方は前世で某重工に勤務しライバルである海外企業の破壊的イノベーションを目のあたりにし体験してきたミヤビの提案を、辣腕の経営者である父、シュウ・ヤシマが形にしたものだ。
そしてこのビジネスモデル、金の問題よりも恐ろしいのは顧客から「ユーザー技術」を根こそぎ奪い取ってしまうことにある。
旧21世紀の例で言えば、GEなどが提供していたプラントの機器や航空機のエンジン。
これらの利用者であるユーザーの元には実際に運転させることで得られたデータや、管理、整備してきたノウハウ、技術が蓄積される。
設備改善はもちろん、運用、運転方法を工夫することでほんの少しでも効率を上げれば数千万、場合によっては億単位のコストダウンが可能な世界である。
またジェットエンジンやガスタービンの高温部には、高度な技術で中空に加工したチタンブレード(物によっては1枚1千万円以上、それが何十枚と使われている)やニッケル基の耐熱合金を加工して表面にセラミックコーティングを施した燃焼器などといった高価で交換にコストのかかる部品が使われている。
これら部品の余寿命を厳密に管理し交換周期を伸ばせれば、それだけで莫大なコストダウンにつながる。
同業他社等ライバルへの絶対的なアドバンテージとなるため、ユーザーはそういった技術の追求とデータの蓄積に余念が無かった。
それに対してGE等のメーカーが提案してきたIoT技術を活用した管理サービスは、そのような技術をより安い破壊的な価格で提供するものだった。
ただしこれまでユーザーだけが蓄積してきた運転記録などのデータはIoT技術によりメーカーに根こそぎ吸い上げられ、技術はメーカーだけのものになり、金を出せば誰にでも提供される。
これまでアドバンテージとされていたユーザー技術が根本的に消え失せてしまうのだ。
そしてミヤビ提案の機体メンテナンス支援プログラムはさらに「基本無料」で顧客を獲得し、他で収益を得るフリーミアムというビジネスモデルを組み合わせたもの。
タダで提供している分、効果は圧倒的で破壊的になっていた。
悪魔的と言い換えても良い。
宙陸両用作業機械という新機軸、破壊的イノベーションをもたらす新製品ドラケンE改をIBM/PCの成功を参考にオープンアーキテクチャとして提供することで素早く市場を独占。
従来のスペースポッドSP−W03や陸上作業機械を瞬く間に駆逐し業界標準、デファクトスタンダードとなった上にこれである。
まぁ、オープンアーキテクチャの参考にしたIBMはパソコンのコモディティ化、日用品のように誰が作っても同じで価格以外差別化が図れなくなる未来をいち早く予見し、さっさと中国企業にPC事業を売却していた(日本のPCメーカーがその問題でにっちもさっちも行かなくなって事業売却するより10年以上も前の話)
それを参考に別に収益を得る方法として、当時日本企業が先進的な海外企業にやられてヤバかったビジネスモデルを今度はミヤビ自身が仕掛ける側になってやろうとパクって組み合わせただけだったが。
経緯はともかく、こんな真似をするから周囲に『ヤシマの人形姫』などと呼ばれ恐れられることになっているのだが、その事実にミヤビ本人は気づいていなかったりする。
そんな悪魔な商売を産み出したミヤビはというと、休憩コーナーでチューブに入ったゼリー食により水分とエネルギーを補給していた。
前世でも忙しいときや風邪をひいたときにはお世話になったなぁ、などと思いつつ。
『機動戦士ガンダム』劇中でスレッガーさんも食べていた自販機のハンバーガー、ミヤビにとっては逆にレトロで昭和の香りがするそれも食べてみたかったが、今は時間が無い。
「そこの方、手伝っていただきたいわ」
「あ、あの人は……」
ほら金髪さん、つまりセイラ・マス嬢と、先ほど出会った少女、フラウ・ボウがお呼びだ。
「それでも男ですか、軟弱者!」
唐突にもらった“平手打ち”
予想外の“罵倒”
特に理由のない暴力がカイ・シデン少年を襲う――!!
『痛そう……』
HMD画面の片隅で、サラが形の良い眉をひそめている。
艦長命令でコロニーに生存者を探しに行くというセイラとフラウに請われ、同行することになったミヤビ。
補給を終えたドラケンE改と共に彼女たちとは別ルートをたどり宇宙港ブロックから降りたところのエレベーター前で合流したのだが。
そこで目にしたのが先ほどの金髪美少女セイラと斜に構えた不良少年カイとのファーストコンタクト。
「命からがら逃げ伸びてきた民間人の男の子に、それ以上を求めるのはさすがに理不尽だと思うんだけど……」
ミヤビもあきれ顔だ。
まぁセイラ・マスという少女が美しいだけではない、内に気高さと激しさを秘めた人物であるというのは伝わってきたが。
「これが富野節……」
とりあえずミヤビは思う。
暴力はいけない、
と。
■ライナーノーツ
ドラケンE改のコクピット周りの描写は「MS大全集2006」と「MOBILE SUIT GUNDAM
80/83/08」掲載のドラケンE設定図から拾った情報に基づいたものです。