「識別コード確認中。しかし、友軍には間違いありません。アルビオンの小隊が、急行中」

 ペガサス級強襲揚陸艦アルビオンと共に、ソロモン海で策敵任務を続けるモビルスーツ搭載型サラミス級巡洋艦ボスニア。

『こちらベイト、目標を視認。戦艦バーミンガムだ』
『ヘッ! のん気なもんだ。観閲旗艦がお供も連れずに』
『確か、観閲官はグリーン・ワイアット大将だったなぁ』

 アルビオンのパイロット達の通信が、こちらにも聞こえてくる。

「あれも、今度の観艦式に参加するのか?」
「二日後だ。一年戦争以来だなぁ。連邦のお偉方も、やっと重い腰を上げたってワケだ」
「それは違うわ。観艦式は以前から予定されていた。本艦もモビルスーツ搭載艦として参加するはずだったんだけど……」

 ボスニア艦長、レーチェル・ミルスティーン少佐が説明する。

「幕僚会議はあえて観艦式を強行し、連邦の力を見せつけたいのかもしれないわ。それで、息を潜める連中とも思えないけど」

 ブリッジの外、宇宙を睨み据えながら呟く。

「特に…… あのアナベル・ガトーは」



機動戦士ドラッツェ0083 STARDUST MEMORY
第8話「策謀の宙域」




 戦艦バーミンガムでは、グリーン・ワイアット大将が接近してきた味方モビルスーツを確認していた。

「今のモビルスーツは?」
「おそらく、アルビオンのものでしょう」
「フッ、例の融通の利かない艦か」



「ぐううううっ!」

 急加速で、背後からのジム改の狙撃を避けるドラッツェ1号機。

『ああっ!?』
『気づいてた?』

 驚愕の声を上げるロイとトム。

「ドラッツェのセンサー感度はジムの倍。モノアイレールも背後まであり、不意打ちは効かない!」

 アニッシュは部下達を一喝すると、ジム改に迫る。
 迎撃する二人。

『でやああっ!』
「無駄弾が多すぎる!」
『そ、そんな事言ったって!』
「無駄口もだ!」

 すれ違いざまに、ジムの背面に右腕のマニピュレーターを排除して装備した40ミリガトリング砲を点射する。

『うぁっ! く…… く…… あ!』
『だあぁっ!』

 ペイント弾まみれになる二人のジム改。

『最短撃墜記録更新かぁーっ』
『最近の少尉、神がかってますよね。いくらアナハイムの新型とはいえ、ザクの部品で作られた機体で、ここまでのスコアが出せるなんて』

 口々に自分を褒めたたえる二人に、アニッシュは呆れ声を出す。

「アナハイムの開発した新OSのお陰だ。それにしても二人とも、お前らは本当なら墜とされてたんだぞ?」
『訓練じゃないですか。明るくいきましょうよ、少尉。なっははははは』
「まったく、懲りないな……」

 まぁ、凹まれるよりはマシなのだが。

「よし、乗機終わり! 戻るぞ」
『『了解!』』

 ボスニアに帰還すべく進路を取るアニッシュ。

『少尉! 前方に何か黒い物体!』
「ん!?」
『大きい…… とても大きい!』
「何っ? って、脅かすな。連絡のあったスペース・コロニーの移動じゃないか」
『コ、コロニーの大きさが実感できなくて……』
「戦禍に傷ついたサイド1のコロニーを、サイド3へ運ぶんだ。コロニー再生計画の第2陣というわけだな」
『スペース・コロニー…… これが……』



「懐かしいぞ、カリウス! 来てくれたな」

 デラーズ・フリート、古い部下達と再会するアナベル・ガトー少佐。

「少佐! 302哨戒中隊、わずか3機になりましたが……」
「母艦の連中もまもなくだ。私の心は、今の宇宙のように震えている」
「しかし、おかしな事もあったものです」
「ん? 何だ?」
「シーマ中佐の事です。我々は誤って、シーマ艦隊に降りそうになりました」
「シーマ・ガラハウ…… 担当はあらぬ方向だったが?」



 そのシーマ艦隊は、連邦軍と接触しようとしていた。

「まもなくZ地点です。いますかね? 連邦のヤツら……」
「いるともさ。キツネかタヌキのどっちか、がね」



「会合ポイントです。まさか、罠では?」

 シーマ艦隊と接触しようとしていた艦は、連邦軍の、観閲旗艦戦艦バーミンガム。
 グリーン・ワイアット大将自らが出て来ていた。

「お茶の用意を」

 英国紳士然としたワイアット大将は、悠然と構えていた。

「え?」
「私は、ダージリンがいいな」



『補給艦エッジ、ライド中尉以下乗艦許可願います!』
「許可します。ボスニアへようこそ」

 コロンブス改級補給艦が、ボスニアに物資の供給に訪れた。

「はぁい! 今回は郵便もございまーす!」
「押すなって!」
「待てってば!」
「その荷物はオレ宛だ」

 ごった返す船員達の中に、アニッシュも居た。

「ん、あったあった。頼んでおいたディスクだ」
「おお、少尉、面白そうなもの持ってますね」
「船旅の間の娯楽って言ったら、アレですね。自分達にも見せて下さいよ」
「娯楽? まぁ、見たいなら一緒に見るか?」
「「はいっ!」」

 ロイとトムを連れて、自室に戻り、端末にディスクを放り込む。
 データの読み込みは素早かった、が……

「テ、テキストデータ?」



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ドラッツェを語ろうPart54

1 名前:通常の名無しさんの3倍
ザクの上半身とガトルのスラスターさえあればできる。
今一番熱いモビルスーツドラッツェについて語ろう。

以下テンプレです。

465 名前:通常の名無しさんの3倍
この無敵のピザーラ盾があればこわいもんなしや!

466 名前:通常の名無しさんの3倍
あ、いいなー。
俺もあれ、欲しかったなー。

467 名前:通常の名無しさんの3倍
ん? あれ、まだキャンペーン期間終わっとらんとちゃうか?

468 名前:通常の名無しさんの3倍
取れるならね、俺も取りたいよ。
けど、ピザーラが配達範囲外だって……

469 名前:通常の名無しさんの3倍
あー、そいつは御愁傷様やったなー。

470 名前:通常の名無しさんの3倍
所でデラーズ・フリート制式のドラッツェって何で青いの?
伝統のジオンカラーの方がかっこいくね?

471 名前:通常の名無しさんの3倍
宇宙用迷彩じゃね?

472 名前:デラーズ・フリーター
いや、あれは単に青の塗料が余ってるからだな。
昔、グフ用に確保した塗料、今は使われてないから。

473 名前:通常の名無しさんの3倍
>>472 説得力ありすぎ。

474 名前:通常の名無しさんの3倍
なかなかの素早さだが所詮ザクのスクラップからの再生品。
武装も貧弱だし、ジムの敵じゃないぜ。

475 名前:スティーリーダン
いいか、世の中、自分というものをよく知るヤツが勝つんだ……
イソップの話でカメはウサギとの競争に勝つが、カメは自分の性格と能力をよーく知っていたんだ。
フッフッフッ。
このドラッツェもそーさッ!
正面から致命傷を与えられるような武装や運動性は持っていないということは、私達自身がよーく知っている。
すべてはッ、おのれの弱さを認めた時に始まる。

476 名前:花京院
エメラルド・スプラッシュ!!

477 名前:スティーリーダン
フッフッフッ 史上最弱が……
最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も
最も恐ろしィィ マギィーーーーーーッ!!



「……なんすか? これ」
「メイに教わった、ネット上の某匿名掲示板の最新データだ。実際にドラッツェを自作したり、運用している元ジオン兵が主に書き込んでるから敵ながら参考になるぞ。噂では、アナハイムの開発者まで参考にしたり、書き込んだりしてるそうだ」
「「はぁーっ」」
「ん、どうした?」



「……フッ、レディは人を待たせるものと思ったがな」
「さすが海兵です。交渉も手強いでしょうか?」

 定刻通り現れたシーマ艦隊に、笑みを見せるワイアット大将。

「キミ、レディは贈り物が好きだと相場は決まっている。フッフッフッフ……」

 しかし、そこに報告が入る。

「閣下! アルビオンから緊急入電!」
「ん、読め」
「は! 『我、敵艦影を見る。モビルスーツを急行せしむ。発、アルビオン。宛、観閲艦隊司令』」
「閣下!」
「バカめ! 盛りおって! コーウェン揮下の艦らしいわ、バカめ!」



「反転しますぜ、バーミンガム反転!」
「どうしやがった? 裏切りか!」
「おたつくんじゃないさ!」

 動揺する部下達を一喝するシーマ。

「もうすぐわかるよ、もうすぐね……」
「敵艦発砲!」
「ニーベルング沈黙!」
「フッフッフッフッフ…… 逃がしてくれるとさ、私をね」
「は?」
「あいつは味方に芝居をうってるのさ。だからこの艦を外した」

 シーマは正確に相手の意図を見抜いていた。

「いい男だったかな?」

 そこに、連邦から3機のモビルスーツが到着する。
 その内の1機、ガンダムにシーマは見覚えがあった。

「またあいつか。……ひっぱたいてもわかんないのかい!」

 墜としそこなった相手に再び邪魔されたことで、業を煮やすシーマ。
 自らゲルググで出撃する。



 激しくガンダム達と応酬するシーマだったが、決定打が打てない。

『シーマ様、頃合いです。敵の増援も予想されます』
「わかった、見計らう!」

 副官からの通信に答え、舌打ちするシーマ。

「チッ、3機相手にやられっぱなしか! ん? ……いや、動かないヤツもでたか」

 そこで、撃破されたムサイ、ニーベルングに視線を移す。

「ん? まさか?!」

 その可能性に思い至った時に、虚空からニーベルングに銃撃が走る。
 そして追い出されるようにして出てくるジム・カスタム。

「このシーマの上前をはねるつもりかい!」
『油断大敵ですね、シーマ中佐』

 そこに通信と共に現れたドラッツェは。

『あのジム、撃破されたムサイから情報をかすめ取ろうとしてましたよ。事前に追っ払いましたが』
「ビーダーシュタット大尉かい!」

 そう、そのドラッツェを操縦していたのはケンだった。

「助かったよ。いいタイミングだ」
『それでシーマ中佐?』
「なんだい?」
『駆けつけるのにスピードを出し過ぎて、推進剤、心もとないんですよ。補給もらえますか?』
「そんな事か。いいさ、私の船に来な! あんたには借りができたからね」

 通信を切り、心地良さげに笑うシーマ。

「一方的に貸しを押し付けるだけじゃなくて、弱みを見せて信用させる。小気味いいね、あの男は」



次回予告
 ソロモン…… そこは、連邦軍の手に落ちるまでそう呼ばれていた。
 いや、今もそう呼ぶ男たちがいる。
 脳裏をよぎる、かつての栄光と誇り。
 そして、敗北と挫折。
 居並ぶ連邦の艦隊を前に、この孤独の夢想家は何を見るのか?
 再び、悪夢は訪れる……



■ライナーノーツ

> 「ドラッツェのセンサー感度はジムの倍。モノアイレールも背後まであり、不意打ちは効かない!」

 ドラッツェのセンサー有効半径は10,900メートル。
 ジムの6,000メートルの倍近くある。
 その後ネオ・ジオン残党「袖付き」でも運用されているが、「袖付き」では3連40mmガトリング砲が大型ガトリング・ガンに換装されている。

 これは攻撃力強化のためより「哨戒偵察任務用のセンサーユニット」としてのもので、起動時にはセンサー有効半径が18,800メートルとジムの三倍まで拡大する(センサーはガザシリーズのシステムの部分流用)

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