『大尉! 駄目ですったら! 撤退命令が出ているんですよ!』
「えぇぃっ!」
『待て、ガトー! 貴公の母艦、ドロアは沈んだ』
「ドロアが?!」
『我が総帥、ギレン閣下も亡くなられた。我々は、ア・バオア・クーより撤退する!』
「………」
『我らは生きて総帥の志を継がねばならんのだ!』
「生き恥をさらせと!? 私は行きます!」
『ならん! 今は耐えるのだ。生きてこそ得る事の栄光をこの手に掴むまで、その命、ワシが預かる! いいな!』
「くっ……!」
一年戦争最大の激戦となったア・バオア・クーの戦いの後、地球連邦政府とジオン共和国は終戦協定を結んだ。
だがそれは、新たな戦いの始まりを意味していた……
機動戦士ドラッツェ 0083 STARDUST MEMORY
第1話「ドラッツェ強奪」
連邦軍宇宙基地ルナツー。
その周辺では戦後、ジオン軍から接収されたザクIIを仮想敵機に見立てた演習が行われていた。
『わぁ、ああぁぁ! このザクめ、なんて動きが鈍いんだ! パワーアップしたジムとじゃ、比較にもなりゃしないよ』
通信機越しに聞こえる部下の喚き声に顔をしかめながら、仮想敵部隊の指揮を取る教導官、アニッシュ・ロフマン少尉は部下に命じた。
「機体の不利を覆して見せてこそ、教導隊だろう。ロイ! トム! フォーメーションスリーだ! 一気に叩きに行くぞ!」
『了解!』
『了解』
「トム! 新人のジムを追いつめろ! 先のスペースデブリだ! 俺は先回りする!」
「ボスニア、ルナツーに入港します」
艦長を務めるレーチェル・ミルスティーン少佐の指示で、接岸準備を始めるモビルスーツ搭載型サラミス級巡洋艦ボスニア。
宇宙世紀0070年代後半より地球連邦軍宇宙艦隊の中核として大量建造がなされた艦だ。
それ故にありふれ目立たないという特性を生かし、今新たな任務を帯びて地球連邦軍最大の宇宙基地、ルナツーへ入港しようとしていた。
「ボスニア、入港します」
ルナツーとコンタクトを取るのはノエル・アンダーソン少尉。
本職はモビルスーツ教官だがオペレーター歴が長く、非戦闘時はこうして通信士としての仕事も引き受けていた。
「あら?」
そのブリッジにただ一人、私服姿の少女の姿を認めてノエルは声をかける。
「メイさん」
「あ、勝手に入り込んじゃってます。ノエル少尉」
「構わないわ。でも、月のフォン・ブラウン市からずっと宇宙(そら)ばっかりだったでしょ。退屈じゃない?」
ルナツーは、スペースコロニー建設用の鉱物資源を採取するために、宇宙世紀0045年にアステロイド・ベルトから月軌道上に運ばれてきた小惑星ユノーが、宇宙世紀0060年頃から地球連邦軍によって軍事基地に改造されたものだ。
月とは地球を挟んで正反対の位置に存在するため、自然と長旅となっていた。
「少しもそんなこと…… 私にとって、久しぶりの宇宙(そら)だから」
アナハイム・エレクトロニクス社から出向の技術者、メイ・カーウィン技師は十八歳という若さに相応しく快活に笑って見せる。
「それに……」
「え? あぁ、そうね。あなたは、ルナツーに入るのは今回が初めてだったものね」
ボスニアは巨大な宇宙船ドックへと入港して行く。
ボスニアの入港を監視する連絡船が1隻。
「隊長、来たぜ。モビルスーツ搭載型のサラミス級だ」
ジェイク・ガンス元・軍曹の言葉に、シートを倒してひっくり返っていたケン・ビーダーシュタット大尉は身体を起こして答えた。
「定刻どおりか。今時の連邦にしちゃ珍しく几帳面な艦長らしい」
「そうみたいだな。キワメルを呼び出すぜ」
「ああ」
ジェイクはレーザー通信でバックアップのために潜んでいるムサイ型巡洋艦キワメルへと報告する。
「こちらレッド・スリー。連邦軍のモビルスーツ搭載型サラミス級ボスニアを確認。星の影作戦を開始する」
『おお、なんだアレ?』
『すげぇ老朽艦』
部下達の声に、意識をボスニアに向けるアニッシュ。
「ん、ジャブローも随分金をケチってるなぁ。少しはこっちに回して欲しいもんだ」
『あれは、モビルスーツ搭載型サラミス級ですか、少尉!』
ロイが言うとおり、そのサラミス級巡洋艦は、艦前方にモビルスーツデッキとカタパルトを装備していた。
『あれが、フォン・ブラウンからの艦であれば、まさか搭載機はアナハイムの新型が!』
『スッゲェ! いつ見られますか? 少尉!』
興奮するロイとトムに、アニッシュはやれやれと肩をすくめた。
「まぁ待て。後で見学届を出しておく。とりあえず訓練は終了だ。今日はご苦労だった。解散!」
「申告します。レーチェル・ミルスティーン少佐以下乗員43名、モビルスーツ搭載型サラミス級ボスニアにおいて新型モビルスーツ2機を運搬し、到着しました」
金髪の眼鏡の美女はコーウェン将軍の有能な部下で一年戦争当時から兵站を担当している。
今回の任務も、それ故に彼女が任に就いていた。
「ご苦労だった、ミルスティーン少佐」
「准将、早速ですが核貯蔵庫の開封許可を願います。これが、ジャブローからの許可証と明日からのテスト項目の一覧です」
「ん…… テストパイロットは君が選んでくれたまえ。ファイルは用意しておいた。よろしく頼むよ」
「万全を期します」
レーチェルに手渡されたファイルの中には古い顔なじみ、アニッシュ・ロフマン少尉の名もあった。
もっとも知り合った一年戦争当時の彼は曹長。
レーチェルが支援するモビルスーツ特殊部隊第3小隊の一パイロットに過ぎなかったが、その彼が尉官まで昇進しモビルスーツ教導隊に居ることにレーチェルは時の流れを感じていた。
「やっぱり新型だ…… モビルスーツ? モビルアーマー? でも、ザクの胴体が使ってあるぞ」
ボスニアのモビルスーツデッキに鎮座した青いモビルスーツとモビルアーマーの合いの子みたいな機体に首をひねるアニッシュ。
「あぁ! 少尉! 少尉ってば!」
「なんだ?」
「あれ!」
部下が指し示した方には、細部が微妙に変わった同様の機体があった。
「新型が2機!?」
「あっちのもすごいなぁ。あのコクピット回りの重装甲、タダモノじゃないぜ」
確かに、2機目は開け放ったコクピット周りの装甲にボリュームがあったが、一年戦争を戦い抜いたアニッシュにしてみれば、ザクにしては、という感想だった。
にも関わらず、心に引っかかるものがあるのは何故なのか?
「あなたたち、基地の人?」
そんなアニッシュ達に声をかけてきたのは、こんな軍艦には場違いなバンダナとリボンで髪をまとめた私服姿の少女。
若い女性の登場に、アニッシュの部下二人は即食いついた。
「キミは? アナハイムの人?」
「ぅ…… うん」
部下達の無遠慮な視線に少し引き気味に答える彼女に、アニッシュは見覚えがあった。
「メイ、だったか?」
「お久しぶりー。こんなとこで会うなんて奇遇だねぇ」
軽やかに笑うメイ・カーウィン嬢。
その素直な笑顔に、部下達から嫉妬と疑問の視線が向けられる。
「少尉、こんな美人と知り合いだったんですか? どこで知り合ったんです?」
「戦場でだ」
短く答え、睨みを効かす。
首をすくめるロイとトムに溜息をつき視線をメイに戻すが、彼女は3年前の記憶通り子供っぽい、しかしどこか隠せない育ちの良さを感じさせる笑みを浮かべて自分たちを見ていた。
「もしかして、テスト・パイロットの人たちだった? あたしはアナハイムのエンジニア、メイ・カーウィン! これでもザクの開発技師だったんだぞ」
アニッシュの部下たちに自己紹介をするメイ。
「ドラッツェはメンテナンス中だから。見学だったら後で連絡するよ」
「ドラッツェというのか。足は付いてない……」
ザクIIの上半身にガトル戦闘爆撃機のプロペラントタンク兼スラスターを足部分に組み合わせたそれ。
背中のランドセルもガトルのスラスターの流用だ。
運動性を補うためか、両肩に取り付けられた球状のスラスターポッドが目を引く。
「『あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ』、ってうちの技師は言ってたよ」
「うち?」
「ああ、アナハイムのこと」
「お前さん、戦後はアナハイムに行ってたのか」
「うん、元ザクの開発技師が居るってアナハイムに引っ張られちゃって」
そう言ってメイは小さくため息をつく。
「家族が心配するから本当は普通の会社に行きたかったんだけどね」
メイは肩をすくめると言葉を継いだ。
「で、現在は連邦軍に出向中と」
一年戦争当時はジオン軍に居た少女だ。
今、ルナツーに居るのが不思議なくらいだった。
「カーウィン技師!」
ドラッツェを見ていた整備員からの声。
「ああ、ごめん。お伝えしたとおり、まだメンテナンス中なので、失礼しますねー」
一応、言葉に気を付けて、とりあえずの別れを告げるメイ。
整備員たちと一緒に、ドラッツェの方に向かう彼女の姿をアニッシュは見送った。
「ここからだと小一時間というところか……」
連邦軍の連絡船に乗り込み、ルナツーを目指す、ケンとジェイク。
『……キワメルからレッド・スリー。キワメルからレッド・スリー』
キワメルからの通信。
レッド小隊の三番機を意味するコードは、一年戦争当時のジェイクのものだった。
「こちら、レッド・スリー」
『こちらは順調。すべて予定通り』
「レッド・スリー、了解」
「南極条約以来、ここを開けるのは初めてだよ」
「できうるなら、この先のドアは閉めたままにしておきたいものですね」
核貯蔵庫の扉を開くレーチェルたち。
「レッド・ツー、くれぐれも油断しないでくれよ。平和ボケした連邦相手の陽動だが、ルナツーともなれば、腕利きも居るだろうからな」
陽動役を務めるリック・ドムIIに乗った元同僚、ガースキー・ジノビエフ中尉に釘を刺すケン。
だが、それに答えたのはガースキーの僚機を務める女性パイロット、クローディア少尉だった。
『任せて頂戴。今の腑抜けた連邦なんて軽くひねってやるんだから!』
一年戦争当時、ザビ家の行った人体実験により強化人間となり屍食鬼(グール)隊に所属していた少女。
戦後になって治療を受けたとは聞いているが、好戦的な性格は相変わらずらしい。
『おいおい、俺たちは陽動なんだから、まともに戦闘しちゃまずいんだぞ』
抑えに回るガースキーの苦労が伝わってくるようだった。
ケンは溜息をつくとレーザー通信を切る。
「隊長、準備はできたのか?」
パイロット席から、ジェイクが振り返り聞いてくる。
「ああ、ばっちりだ」
ケンは大型のサングラスを着けながら答えた。
「なぁ、ジェイク。連邦のコスプレ、中尉のものしかなかったのか?」
ケンは緊張感の無い愚痴を言う。
「コスプレって言うな! 大体服が変わったって、あんたの中身が変わる訳じゃないんだからな!」
ルナツーの喫茶コーナー。
人口重力の働いているそこで、アニッシュは部下たちとドラッツェについて語る。
「それにしても、新型は楽しみです」
「ロイ。新型のパイロットはまだ未定だと言ったはずだが」
「ですが、ここでパイロットのエースと言えばロフマン少尉、次は自分なのでそれで決まりだと思ってましたが」
そんなロイに、トムが不平を洩らす。
「自分も乗りたいですよぉ! 来る日も来る日もザクばっかりなんだから……」
「ザクだっていい機体だよ!」
唐突に割り込む声。
通りがかったメイだった。
両手を腰に当て、何か文句でもあるの、といった風の彼女に、
「い、いやあ、俺たちはこれで……」
と、ロイとトムは早々に退散して行ってしまう。
部下たちが退席した所で、アニッシュは聞いてみた。
「ところで例の新型に、この基地のテスト・パイロットを使うと聞いたが、どんなパイロットを望んでいるんだ?」
アニッシュの率直な問いかけだったが、答えるメイは言葉を選んだ。
「……ウチとしては、新型機の性能を最高に引き出してくれるパイロットなら、大歓迎だよ」
テスト・パイロットの選出は、軍の領域だ。
下手に口出しする訳にもいかなかったのだ。
アニッシュの方も、それに気付いて話題を変えた。
より、剣呑な方にだが。
「ところで、あのコクピット回りがやたら重装甲のヤツは対核兵器用で、左腕に抱えたバズーカは戦術核装備だろ?」
「えっ!?」
「いや、思い出したんだ。南極条約が結ばれる前、核バズーカを装備したザクのコクピットがあんな形だったって」
アニッシュが言っているのは、一年戦争初期、南極条約で核が禁止される前の核攻撃を前提とした機体のことだった。
コクピット周辺の装甲裏側に放射線遮蔽液が注入されていたものだ。
「……さすが、一年戦争を戦い抜いた人は違うね」
メイは間接的にではあるが、それに答えたのだった。
『そこの船、止まれ!』
「遅くなってすみません。アナハイム社の者です」
『あぁ、聞いてます。どうぞ』
連絡船を、ドックへと乗り入れるジェイク。
「……隊長、もう大丈夫だ」
「こんなにもノンキだとは思わなかったな」
「今の連邦はどこもこんなもんみたいけどな。しょせんは素人集団さ」
ケンの言葉にジェイクは苦笑しながら答える。
ケンはと言うと、
「んん!」
襟元を整える彼は、芝居がかった口調で呟く。
「こんなヤツらと戦争していたとはな……」
「何の真似だよ、それ」
「いや、今回の俺は某ソロモンの悪夢役だからなぁ」
そう言って不敵に口元を歪める。
「セッティング完了だよ」
ドラッツェ2号機のコクピットから身を乗り出し、メイは整備兵達に声をかける。
「これで一段落だな」
「カーウィン技師、明日からがまた大変だが、よろしく頼むよ」
「はい」
そこに、アニッシュが部下を引き連れ通りがかる。
「ん? なんかやってるみたいだな」
「あ、ロフマン少尉! ここは立ち入り禁止のはずよ!」
少し慌てた様子のメイに、アニッシュは悟る。
核装備の機体なら、整備の様子も伏せたいだろうということを。
「カーウィン技師」
「ぁ、はい!」
1号機を担当している整備員に呼ばれ、振り向くメイ。
「1号機の方は、機銃弾装備だけですね」
「ええ、お願いします」
「はい」
「もしかして今、弾頭装備中なのかい?」
ロイの問いに、メイは慌てたように答える
「えっ!? うん、そう! 危険だから立ち入らないで」
その答えに、ロイは呟く。
「彼女、あの硬い所がなきゃ最高なんだけどなぁ」
「ふ、もう諦めろよ、ロイ。気さくな風でいてガードが固い。きっとどっかのお嬢様だぜ。高嶺の花さ、はっきり言って」
トムがロイを慰める。
しかし言っていることは中々に鋭い。
メイはこう見えて名家だったカーウィン家の出身だ。
「わぁーってるよ、んなこたぁ。帰ろ、帰ってヤケ酒付き合えよな」
「おい、待てよ。もう少しいいだろ?」
「駄目だ。オレァ悲しいんだぞぉ」
「わかったよ」
部下達が立ち去った後、しばし機体に見入っていたアニッシュの隣に、一人の影が並んだ。
「素晴らしい…… 見事なモビルスーツだな」
「自分も、そう思います」
ちらりと確認した中尉の階級章に、敬語で答えるアニッシュ。
大型のサングラスで顔は隠れていたが、細身でも鍛えられた身体と伸ばした髪をオールバックで固め、後ろで縛った姿が特徴的な士官だった。
「キミ、バズーカに弾頭の装備は済んでるのかな?」
「は、はい」
「なら、試してみようか」
「は?」
あっけに取られるアニッシュを置いて、その中尉は、ルナツーの低重力下、ドラッツェ2号機のコクピットへと床を蹴って飛び込んで行ってしまった。
瞬時、側面から見えた瞳に、既視感を覚えるアニッシュだったが、
「ロフマン少尉、まだ見てたの?」
メイの声に、疑問は霧散した。
いや、それどころではなかった。
「何をしてるの! ハッチを閉めて降りて!」
2号機のコクピットに入っていく人影に、悲鳴を上げるメイ。
「フ……」
しかし、その人物は制止を無視してコクピットに収まり、ハッチを閉じてしまった。
「誰なんです!?」
「カーウィン技師、どうしたんです?」
1号機を担当していた整備員たちも駆け寄ってくる。
「降りて下さい! 聞こえていますよね! 降りて下さい!」
メイの声もむなしく、ドラッツェ2号機は動き出してしまう。
「あぁっ! 誰か、誰か2号機を止めて!」
「くっ!」
それを見て、ドラッツェ1号機のコクピットに向かうアニッシュ。
「少尉!?」
「ロフマン少尉、他の人を呼びます。初めての機体、それもジオン系の機体じゃあ……」
口々に止める整備員たちとメイだったが、
「大丈夫だ。教導隊で、ザクは扱っている!」
「今、充弾中です! すぐには出せませんよ?」
「急いでくれ!」
「なんて事を…… 2号機のパイロット、聞こえてますよね? すぐに降りれば罪は軽いです。今すぐ2号機から降りて下さい!」
メイの呼びかけに、相手は通信機越しに宣言した。
『この機体と核弾頭は頂いてゆく。ジオン再興のために!』
「えっ!?」
「ジオンだと!?」
「モビルスーツ格納庫のハッチ破損! 損傷状況確認中!」
「艦長、モビルスーツ格納庫より連絡。2号機がジオンを名乗る者に奪取されました」
「2号機が奪取されたですって!?」
ボスニアのメインブリッジでも、状況を報告されたレーチェルが大声を上げていた。
「ルナツーにミサイル群接近。距離1万2000!」
「何ですって!?」
「うわーっ!」
ルナツー、ベイ入口付近に着弾が走り、振動が基地全体を揺るがす。
『レーチェル艦長、1号機を止めてください』
モビルスーツデッキのメイから、ブリッジに通信が入る。
「1号機がどうしたの!?」
『ロフマン少尉が、2号機を取り押さえるつもりで追っています!』
「彼が?」
「実弾装備は済んだのか!」
「トム! ロイ! 急げ!」
「模擬戦じゃないぞ! 気を引き締めていけ! いいな!」
「はい!」
この火急の時に、間に合うように出撃できるのは、ドック出口に置いてあった教導隊用のザクだけだった。
いや、それほどまでにドラッツェ2号機の動きが早かったという事でもあったが。
『二人とも! ジオンだ! ジオンが核弾頭装備の2号機を奪っていったんだ!』
ドラッツェ1号機のアニッシュから二人に通信が入る。
「何ですって!?」
「ジオンだと!? あいつら、また戦争をやる気なのか! 何人殺れば気が済むんだ!」
「行くぞ!」
「おう!」
「ザクか……」
ルナツーの外へと飛び出そうとするドラッツェ2号機。
その前方に連邦カラー、白く塗られた2機のザクが立ちふさがった。
「連邦に下ったのか…… そんな姿を見るのは忍びないな」
更にスロットルを開き、ドック内とは思えない超加速を見せるドラッツェ2号機。
反応できずにいるザクの間をすり抜け、振り向きざまに右腕のマニピュレーターを排除し装備された小口径40ミリガトリング砲を、ザクの比較的薄い背部装甲に叩き込む。
「うわああああぁぁぁぁっっ!」
「あぁぁ……」
瞬時に機体中枢を破壊されるザク。
爆発もせずに、搭乗者が無事だったのは、敵の情けか。
『隊長!』
ルナツーから宇宙に躍り出たドラッツェ2号機に、遠方に待機するガースキーのリック・ドムIIからレーザー通信が入る。
「ガースキー、作戦は成功だ。撤退するぞ!」
しかし、そこにドラッツェ1号機、アニッシュが割り込んだ。
『ここから逃すわけにはいかない!』
次回予告
荒涼と広がるルナツーの宙域に、ジオン残党と連邦の死闘は続く。
3年ぶりに実戦参加したアニッシュを襲う試練の波。
ドラッツェ2号機を目の前に捕らえた時、アニッシュは見た。
敵パイロットの比類なき力を……
■ライナーノーツ
このお話は『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』を元にしたifストーリーです。
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