ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第十八章 急変


「やはり、ローレシアの王子はまだ帰っていないのか」

 水の都ベラヌール。
 その宿屋では、ハーゴンの呪いに掛かったサマルトリアのトンヌラ王子が未だ寝込んでいた。

「遭難とか、してなければいいんですけどね」

 心配そうに言うマリア。

「よし、テパの村に行くついでに、念のため世界樹の葉を取って行こうか」
「はい、確かここからずっと東の島にあるのでしたね」

 こうして東の海へ、船で出港するリューとマリア。
 途中、以前苦戦した翼と剣を備えた魔物、ホークマンに襲われるが、

「マリア、援護を!」
「はい、虚ろなる幻影!」

 マリアとの連携で、危なげなく倒すリュー。
 マリアもだが、リューもこの戦いの日々で大きく成長していた。
 そうして、真ん中に大きな木が一本生えている島にたどり着く。

「これが世界樹ですか」
「トネリコの木に似ているな」

 木を見上げていると、まるでマリア達が来るのを待っていたかのように、その緑の葉がゆらゆらと一枚落ちてきて、マリアの掌に納まった。

「その大切な葉を一度に一枚ずつだけ落とす、か。言い伝えと同じだな」
「はい」

 これさえ持って行けば、トンヌラ王子も回復するはずだ。
 それ以前に、ローレシアのアレン王子が世界樹の葉を持ち帰っていれば良いのだが。

「さて、テパの村に向かうぞ」

 再度、船で河を遡り、山道に入る。
 途中、妖術師やら首狩り族やら、マントヒヒに似たサルの化け物、ヒババンゴを退治しながら、テパの村へと辿り着いた。
 さっそく、ドン・モハメの家を訪ねてみる。

「おお、いい所に来た! 今出来上がった所じゃ! ほーれ、水の羽衣。娘さんが着ると良かろう」

 水の羽衣は、雨露の糸でできているだけあって、滑らかで、それでいて頑丈だった。
 炎による攻撃から身を守ってくれるという。

「ありがとうございました」

 ドン・モハメに礼を言って去る。
 道具と材料を用意して行った事に免じて、料金はタダにしてくれると言う。
 本当に職人気質の老人だった。

「それじゃあ、着てみますね」

 宿に部屋を取って、水の羽衣に着替えて見せるマリア。
 その姿は幻想的で、リューも思わず見入ってしまうほどだった。

「馬子にも衣装とは言うが……」
「褒めてませんね、それ」

 それでも、リューの視線を釘付けにできた事に、満足そうな笑みを浮かべるマリアだった。
 その日の晩は、宿に泊まり、次の日の朝、テパの村を発つ。
 すると、首狩り族が一体で現れ、襲いかかって来た。

「食い物!」

 彼の目当ては、リューらしかった。

「なっ、リューさんを食べようなんて!」
「まぁ、犬を食べる文化もあるがなぁ」
「リューさん、何を呑気な事を言っているんですか!」

 ともかく、マリアと協力して、首狩り族を倒す。

「まったく、とんでもない魔物でした」

 ぷりぷりと怒るマリアだったが……
 なんと、首狩り族が起き上がって仲間になりたそうにこちらを見ている。

「あ、れ? どこかで見たような気が……」

 その首狩り族に既視感を覚えて、じっと見つめるマリア。
 そして、その姿と記憶が重なる!

「あ、ローレシアのアレン王子!」
「はぁっ!?」

 それは、世界樹の葉を探しに出かけて遭難し、野生化したローレシアのアレン王子のなれの果てだった……



「むぐむぐむぐ」
「飲み込んでからしゃべれ」

 突っ込むリューだったが、犬の言葉の分からないアレン王子には通じない。
 食べ物と言っても、体力回復用の薬草しかない。
 ポパイのほうれん草の缶詰みたいに、それを貪り食う王子。

「どこをどう間違えば、世界樹の葉を探してこんな所に迷い込むんです」

 さすがのマリアも呆れをかくせない。

「むぎゅむぎゅ」
「口の中に物を入れながら喋らないで下さい」

 思いっきり薬草を頬張っているその姿は、既にそういう段階では無いのだが。
 ともかく、薬草をごくりと飲み込んで、

「いや、助かった。腹が減って死ぬかと思った」

 そう言って頭を下げる王子。

「その分では、世界樹の葉は」
「うむ、まだ見つからん」
「はぁ、それではこれを」

 世界樹の葉を、王子に渡すマリア。
 王子はそれを見つめると、おもむろに……
 食べようとしてリューの突っ込み、体当たりを食らって吹っ飛ぶ。

「うう……」
「何を食べようとしているんです。それが世界樹の葉ですよ」
「何だ、それならそうと早く言ってくれれば」
「話の流れから、それぐらい察して下さい!」
「そういうのは、苦手なんだ」

 真面目切った顔をして言う王子に、マリアははぁとため息をつく。
 そう言えば、ローレシアの王子と言えば武勇の人だったが、物の機微には疎いという事だった。

「とにかく、ベラヌールに戻りましょう」
「そうだな、早い所、街に戻って飯を食いたい」
「そっちですか!」

 突っ込みを入れるマリア。
 こういうのは珍しい。
 それだけ、アレン王子がいい性格をしているということだが。
 こうして、アレン王子を伴って、船でベラヌールへ戻る一行。
 サマルトリアのトンヌラ王子が寝ている宿に直行し、世界樹の葉を煎じて、トンヌラ王子の口に含ませた。
 トンヌラ王子の顔色が見る見る良くなっていく!
 トンヌラ王子は元気になった!

「ありがとう! 僕はもう大丈夫だ! 心配をかけて悪かったな」

 そして起き上がると、アレン王子とがっしりと手を握り合った。

「さあ、行こう!」
「うむ」

 そして、すっかり蚊帳の外のマリアとリュー。

「熱いな」
「世界樹の葉を見つけて来たのは私達なのですけどね」

 そんな二人に気付いたのか、トンヌラ王子が話しかけてきた。

「君はどうして、こんな所に? 女性の身で旅は危険じゃないかい」
「私には、リューさんがついていますから」

 そう言って、リューの首に抱きつくマリア。

「旅の理由は、父の仇の悪魔神官を追って……」
「悪魔神官? それならうちの城の地下牢に居るが」

 衝撃の事実を告げたのは、アレン王子だった。

「はい?」
「ムーンブルク陥落の知らせが来てすぐだったな。神官姿の男がやってきて、自分を悪魔神官だと名乗ったんだ。まぁ、どこから見ても普通の人間だったし、狂言だろうとは思ったが、時期が時期だったので、地下牢に……」
「そんな、リューさん!」

 マリアの悲鳴じみた声に答えるリュー。

「うむ、あのムーンペタの兵士も神官と呼んでいた。これが本当ならローレシアは、懐に敵を招き入れた事に」
「すぐに行きましょう!」

 旅立ちの準備を整えるマリアとリュー。
 アレン王子達にも、危機を訴えるが、事態を軽く見ているアレン王子達は動かなかった。

「そんな馬鹿な。考え過ぎだ。それに、神官を入れたのは、一番厳重にしてある牢だ。心配は要らない」
「今は、ハーゴンを倒すのが先決です」
「いいです、それなら私達だけでも行きます!」

 こうして、マリアとリューは、王子達と分かれ、ローレシアへと急ぐのだった。



■ライナーノーツ

 時代ゆえなのか、版権のためか、実はムーンブルクの王女に関するアイテムってかなり少なかったり。


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