ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第十六章 ベラヌールの街


「あと、行っていない所と言えば、ここだな」
「そうですね」

 竜王の城で手に入れた世界地図を前に話し合う、リューとマリア。
 そういうことで、港町ルプガナから、船で北を目指す。
 すると陸地にぶつかり、そこに湖に囲まれた街を見つけることができた。

「よし、行ってみよう」

 船を岸辺に残し、上陸する。
 そこは水の都、ベラヌールの街だった。
 街を散策しながら、住人達の話を聞いてみる。

「雨露の糸を、聖なる織り機で織ると、水の羽衣ができるそうよ。でも、それを作れるのは世界で一人しか居ないんですって」

 女性が話してくれた言葉に反応するリュー。

「聞いたか?」
「はい、確かに」
「聖なる織り機は、漁師町ザハンの神殿から入手済みだ」
「雨露の糸は、確かラダトームのお裁縫の店で聞いた時、ドラゴンの角で採れるって聞きましたね」
「そして、地下都市ペルポイの街では、羽衣作りの名人、ドン・モハメの話を聞いたな。確か……」
「テパとかいう村に住んでいるとか」
「これは、雨露の糸を入手して、行ってみるしかないな」
「そうですね」

 お互い頷き合う。

「とりあえず宿に部屋を取って、もう少し散策してみるか」
「はい」

 リューと一緒に街を歩く。
 それも、見知らぬ異国の街、それも美しい水の都ともなれば、これはデート!
 そして美味しい夕食を食べた後は、夜の宿で……
 リューが知れば、間違い無く妄想だと突っ込まざるを得ないような事を、楽しげな表情で考えるマリア。
 まずは、この街の宿屋に立ち寄る。
 するとそこには、ローレシアの兵士が居た。

「おお、これはマリア様。私は王様からの伝言を王子達に伝える為にこの街で待っていたのですが」

 表情を曇らせる兵士。

「……しかし、トンヌラ様がこんな事になるなんて、私は王様に何とお伝えすれば良いのでしょう」
「はい?」

 果たして、宿屋のベッドには、サマルトリアのトンヌラ王子が伏せっていた。

「こ、こんな所で……」
「何やってるんだ」

 世界を救うはずの勇者がこんな所で寝込んでいる事に、不安を禁じえないマリアとリュー。

「か、身体が動かない…… どうやらハーゴンが僕に呪いをかけているらしい」

 トンヌラ王子は、マリアにそう言った。

「しかし、やられたのが僕一人で良かった…… 多分僕はもうダメだ。さあ、僕に構わず行ってくれっ! ううっ」

 病人を前に話し合うのも憚られたので、部屋を出るマリアとリュー。

「どうしましょう?」
「とにかく、この街の神父に相談してみよう」

 宿を出て街を行くと、ちょうど良く神父の姿があった。

「自らを大神官などと名乗るハーゴンには、いつか必ず天罰が下るでしょう」
「それが……」

 マリアがトンヌラ王子の窮状を話すと、神父は驚き顔で、こう答えた。

「なんと、そなた達のお仲間の方にハーゴンの天罰が下ってしまったと! それは、それは、何と言って良いのやら……」
「ダメだ、こいつ」

 犬の言葉を相手が分からないのをいい事に、吐き捨てるリュー。
 マリアも困り顔だ。

「ほ、ほら、他の人にも聞いてみましょうよ。確か、街の入り口にも布教活動をしている神父さんが居たはずです」

 マリアの勧めに従い、その神父と会う。
 トンヌラ王子の事を説明しかけると、神父は分かっているとでもいうように頷いた。

「話は聞きましたぞ! お仲間は身体が呪いで動かなくなったとか。もしやあなた方は、ハーゴンを倒すつもりでは? 何と無謀なっ!」
「いえ、その……」
「ともかく、勇気あるあなた方の為に祈りましょう。神のご加護があらんことを。アーメン」
「祈るだけかよ!」

 再び毒づくリュー。

「もう、教会は当てにならん。手当たり次第に聞き込みをするぞ」
「はい」

 街行く人々に、話しかけるマリア。
 すると、一人の老人からこんな話が聞けた。

「世界樹の葉には、死者を蘇らせる力があると聞く。ハーゴンは遠くからでも人を呪い殺す事ができると言うが、ここはハーゴンの居るロンダルキアの地ではない。呪いの力も弱いはずじゃ。もしかしたら、世界樹の葉でお仲間を助ける事が出来るかも知れんぞ」
「よし、これなら!」

 世界樹の葉の採れる場所は、街外れの小島に居た女性から聞く事が出来た。

「ずっと東の海の小さな島に、世界樹の木が一本生えているそうですわ。そしてその大切な葉を一度に一枚ずつだけ落とすと伝えられています」

 これで、トンヌラ王子を助ける目処がついた。

「それじゃあ、早速、世界樹の葉を採りに……」
「ちょっと待て、マリア」
「はい?」

 喜んで、世界樹の葉を採りに行こうとするマリアに、リューが待ったをかけた。

「ローレシアの王子の姿が無いということは、多分、彼も俺達と同じ事を聞いて、世界樹の葉を採りに行っているはずだ」
「それもそうですね」
「今ここで、俺達がトンヌラ王子の呪いを解いたとしよう。そうすると当然、彼はローレシアの王子の後を追うはずだな」
「あ……」

 リューが何を言いたいか、想像がついてしまうマリア。

「ローレシアとサマルトリア、あれだけ近い場所なのにも関わらず、延々とすれ違いを繰り返した二人だ。それが今度は世界だぞ」
「……二度と会えなくなる可能性が高いですね」
「そういうことだ」

 こうしてトンヌラ王子の事は、ローレシアの王子、アレンに任せる事にする二人。

「それじゃあ、夕食にしましょうか」
「ああ、歩き回ったから腹が減ったぞ」
「ウナギ料理が、ここのお勧めみたいですよ」
「そうか、かば焼き食べたいなー」
「かば焼きって、何ですか?」
「ああ、やっぱりこっちには無いのか。開いたウナギにタレを付けてだな……」

 湖に面した宿で、美味な夕食をゆったりととる二人。
 こうして、二人の夜はつつがなく過ぎて行くのだった。



■ライナーノーツ

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