ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第十章 アレフガルド

「リューさん、どうしたんですか?」
「いや、街中に魔物が入って来たのが気になってな」

 ルプガナの街の外れを、リューは嗅ぎ回っていた。

「ああ、やっぱり壁が破れている」

 街を囲み、外敵の侵入を防ぐ壁の北西の角が崩れていた。

「マリア、町の人に伝えて置いて…… うん?」
「どうしたんですか、リューさん」
「いや、何かある」

 地面を嗅ぎ回って見つけたのは、何かの種だった。

「力の種ですね」
「嫌な予感しかしない!」
「なら、口移しで」
「だから止めんか!」

 また桃色な展開にされてはたまるかと、ぱくりと口に入れ飲み込んだリューは、直後、後悔することになる。

「ぐあああっ、体が!」
「だ、大丈夫ですか?」
「極度の筋肉痛を、百倍に濃縮したような痛みだ……」

 超回復による体力の増強が行われ、それに伴う痛みに耐えるリュー。
 すぐに痛みは退いたが、何度体験しても慣れるものではない。

「確かに、少しだけ力が付いた気がするな。それじゃあ、港に行ってみるか」

 港に向かう、リューとマリア。

「おお孫娘を助けてくれた方達じゃな。舟に乗りなさるか? さあさ通りなされ」

 そう勧める老人に、マリアは街の囲いの破損部分について伝えて船に乗り込んだ。
 船は外洋を旅する帆船で、熟練の船員達が、好きな場所に連れて行ってくれる。

「どこに行きます?」
「どこも何も、街で仕入れた情報には、東にアレフガルドという国があると言うだけだったからな」

 行くしかないだろうと、リュー。

「それじゃあ、アレフガルドにお願いします。船長さん」
「ああ、分かったが、最近は海にも魔物は出る。もしもの時は……」
「はい、私とリューさんとで何とかします」

 ルプガナを出港し、一行は一路東へ。
 アレフガルドを目指す。
 しかし、

「ウミウシと痺れクラゲだぁ!」

 船首に立つ船員が、悲鳴と共に倒れた。

「何だ?」
「聞いた事があります。ウミウシは、甘い息を吐いて、敵を眠らせるのだとか」
「そうか、なら真っ先に潰す必要があるな」

 敵は、船側にへばりついて上がって来たウミウシ2匹と、数匹の痺れクラゲだった。

「風よ、今こそ集い舞い狂え!」

 マリアの起こした真空の刃が、ウミウシ達を切り裂く。
 そして、飛び出したリューのひと咬みで、一匹のウミウシは絶命した。
 敵の反撃を受けるが、リューはその強靭な体で、マリアは、新調した身かわしの服で、耐える。

「次はクラゲの群れを一掃してくれ、残ったウミウシは、俺が止めを刺す」
「分かりました! 風よ、集い舞い狂え!」

 痺れクラゲ達を細切れに切り刻んで行く、マリアの魔法。
 そして、リューの牙が、最後に残ったウミウシに止めを刺した。

「ううっ、気持ち悪いです」

 ウミウシの死骸に、嫌悪の表情を浮かべるマリア。

「そうか? ウミウシは貝殻が退化してなくなった巻貝の仲間だから、食べれるんだぞ」
「ええっ、そうなんですか!?」

 現代人の雑学がこんな所で発揮されると、マリアは目を丸くして驚いた。
 実際、船長達はウミウシを料理するため、蛮刀で、その身を解体していた。

「私は絶対に食べません」
「まぁ、無理に食べろとは言わないが、食べてみると結構いけるかも知れんぞ。ただし、犬の体に貝類は合わないから俺は食べんが」
「うう、それって卑怯じゃありません?」
「本当なんだから、仕方がない」

 ともあれ、アレフガルド大陸に到着。
 ここからは歩きだ。

「それじゃあ、行って来ます」
「ああ、俺達はここに停泊して待っているから」

 船長に船を任せ、東へ。
 ほどなくして、ラダトームの城に着いた。

「あなたはもしや、ロトの勇者の子孫の方ではっ!?」
「は、はい」
「おお! やはりそうでしたか! ラダトームの地にお帰りなさいませっ!」
「昔々、この城に居たローラ姫様は、世界を救った一人の若者に連れられ旅に出たと伝えられています。一体あれから、どれだけの年月が過ぎたでしょうか…… おかえりなさいませ! 我がアレフガルドに!」

 古の勇者ロトと、その妻のローラ姫の面影が残っているのか、歓迎を受けるマリア。
 しかし、

「おお、あなた様は 勇者ロトの血を引く方ですなっ! しかし…… 我が王は、ハーゴンを恐れるあまり、どこかにお隠れになりました。情けないことです……」
「王様が行方不明になるなんて…… この国はもうお終いだ」

 という事で、アレフガルドの王には会う事が出来なかった。

「王が頼りない分、ロトの勇者に過剰な期待がかかっているようだが、大丈夫なのか? 旅立ったというローレシアとサマルトリアの王子は」
「多分……」

 自身無さげにマリアは言う。
 勇者の力の内、剣の力を引き継いだローレシアの王子は、武勇の人…… 愚直なまでに一本気な性格。
 それに対し、剣と魔法、バランス良く備えたサマルトリアの王子は、彼の妹君曰く、のんき者。
 未だに会えずに入れ違いになっているのでは、と危ぶんで、まさか、と乾いた笑いを洩らすマリアだった。
 ともあれ、何か情報はないか、リューの指示で聞いてまわるマリア。

「おお、古き言い伝えの勇者の子孫に光あれっ!」
「うおっ、まぶしっ!」

 城に居た老人に話しかけたら、いきなり叫んだかと思うと光が放たれた。

「何なんだ」
「リューさん、何だか精神の疲れが取れているんですが」
「ふむん? まじないか何かか?」

 どうやら、老人は、相手の精神力を回復させる術を持っているらしい。
 これがリューの元居た世界だったら、「あ、あやしーっ!」と叫んで近寄らないようにする所だが、ここは魔法の存在する世界。
 そんな事もあるのかも知れない。
 一方、商人からは、海に沈んだ財宝の話を聞く事ができた。

「ルプガナの港のそばに住む商人は、昔は凄い金持ちだったらしいですよ。何でも、舟に財宝を積み過ぎて、北の沖を航海中にその重みで舟が沈んでしまったとか。海のどこかがキラリと光ったなら、そこに財宝が沈んでいるという話ですよ」

 これが唯一の収穫と言うべきか。
 他の国についての話は、ついぞ聞けず、武器屋や道具屋にも、マリアが使えそうな新しい品は見当たらなかった。
 ともあれ、夕刻近くになって来たので、今晩はここに宿を取る。
 そして、その日の晩。

「ああっ、そ、そこ、いいです」

 寝室に、マリアの、無理に殺したようなあえぎ声が響いた。

「そうか、それなら、ここはどうだ?」
「あぅっ、そ、そんな所……」

 マリアは桃源郷をさ迷っていた。
 その瞳には既に理性の光は無く、ただただリューから与えられる快感を享受するだけだ。

「さぁ、これで仕上げだ」
「きゃうっ」

 まるで雌犬にされた頃に戻ったような小さな悲鳴を上げて、マリアは脱力し切った身体を、ベッドに預ける。
 快楽の余波か、時折、ひくん、ひくん、と身体が震えた。

「今日はいつになく、いい声で啼いてくれたな」

 まんざらでもなさそうにリューは言う。

「だ、だって、いつもの宿でしたら、他の人に聞かれたらと思うと……」
「その点、ここの宿は今晩かぎりだから、はしたない声を出しても大丈夫、か?」

 薄手のスリップから覗いて見える素肌は、元より桜色に染まっていたが、リューの意地悪なもの言いに、更に赤くなった。

「そ、そうです。はしたなくてもいいから……」

 リューの肉球による指圧で体中の骨を抜かれたようになっていたマリアは、無理に身体を起こして、スリップの襟元から覗く胸元を見せつけるようにして言った。

「さ、誘ってみたんですよ、リューさんを」

 その精一杯の、マリアの誘惑を、

「どこかに出かけるんだったら、まず服を着ろ」

 と、容赦なくボケでスルーするリュー。
 それはそれで鬼畜の如き所業だった。



■ライナーノーツ

 こちらはファミコン版発売当時の公式ガイドブック。
 これとファミコンのドット絵だけが、想像の源でしたっけ。


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