ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第五章 ローレシア城


 リリザの街を発ったリューとマリアは、そこから南東の方角にあるという、ローレシア城を目指した。
 途中、

「な、ナメクジです!」
「苦手か?」
「好きな人が居るとは思えません! それも、あんなに大きいんですよ!」

 化け物じみた大きさのナメクジと出くわす。
 もっとも、魔導師の杖を使うと、それはすぐに消し炭に変わったが。
 この辺りの魔物は、ムーンブルク地方に比べ弱いため、実際の苦労はさほどでもなかった。
 しかし、大ナメクジだけは、生理的に受け付けられないマリアだった。
 ともかく、割と容易くローレシアの城に着くマリアとリュー。
 ムーンブルクの王女が訪れたということで、二人はすぐに城内に通された。

「結構簡単に受け入れるんだな」
「ムーンブルクとローレシア、サマルトリアは同じ勇者の血を引く親戚関係にありますから。私もローレシア王と顔を合わせた事がありますし」

 城内、謁見の間に通される。
 玉座にはこの国の王、ローレシア王の姿があった。

「おお、ムーンブルクのマリア王女ではないか! 心配しておったのだぞ。お父上や城の者達の事は、真に残念であったが、そなただけでも無事で良かった! これからは、このわしが、マリアの父親代わりじゃ。困った事があったら、いつでもわしに言うのだぞ!」
「ありがとうございます。ローレシア王」

 上品に、貴族の礼をとるマリア。
 リューは彼女を守るように、傍らに座っていた。

「うむ…… ムーンブルクの勇敢な兵の働きにより、大神官ハーゴンの軍団がムーンブルクの城を攻めて来た事は分かっておる。我が息子、アレン王子と、サマルトリアのトンヌラ王子も既にハーゴン征伐のため、旅立っておる」
「それでは、お二人は力を合わせて?」
「いや、それがだな……」

 ローレシア王は、歯切れ悪く口を濁した。
 曰く、旅立ってしばらく経つが、お互いが入れ違いになって合流できていないらしいとの事。



「何をしているんでしょうかね、お二人は」

 謁見の間を出て、ため息交じりに呟くマリア。

「気にしても仕方ないだろう。ハーゴンの事は二人の王子に任せて、俺達は悪魔神官の行方を追う事にしよう」
「そうですね」

 城内を散策していると、城に出入りしている商人に出会ったので、話を聞いてみる。

「私も若い頃には、世界中を旅して歩いたものです。そういえば、ここからずっと南の祠に住んでいたご老人は元気だろうか……」

 その話を聞いて、リューは言う。

「そういえば、ローラの門で行く事を勧められた祠とやらが、この城の南にはあるはずだが」

 リューは、老人から聞いた話をちゃんと覚えていた。

「分かりました。行ってみましょうか」

 そう言う事にして、城の料理人にパンやエールなど、携帯できる食料を分けてもらい、ローレシア城から南へと下る。
 途中、山ネズミや蝙蝠の化け物ドラキーに襲われたが、リューが壁になる事で攻撃を防ぎ、マリアの魔導師の杖から迸った火炎が、相手を蹴散らした。
 化け物達の犠牲になった者の物だろう、周囲に落ちていた貨幣を回収して路銀の足しにし、先に進む。
 すると、岬の南端に小さな祠があるのが目に付いた。
 中に入ると、潮風が身に沁みるのか、焚火で暖を取る老人の姿があった。

「おお、待っておりましたぞ! このじいは王女様に、お教えすることがあります。実は、この世界には銀の鍵と金の鍵の二つがあり、扉にも二つの種類が。まず銀の鍵を見つけなされ。サマルトリアの西、湖の洞窟の中に隠されているという話ですじゃ」

 つまり、2種類の扉の鍵に対応したマスターキーが、それぞれあるということらしい。
 リューに促され、情報の礼として、ここに来る途中に倒した山ネズミを差し出すマリア。

「これはありがたい」

 老人は嬉しそうに受け取ると、その場でナイフを使って皮を剥いで肉を捌き、焚火に炙って肉を焼き始める。
 岩塩とハーブをまぶし、焼けた表面からナイフで削って食べる、素朴な料理だった。
 マリア達も勧められたため、持参したパンの上にそれを乗せて食べ、瓶に入れたエールで胃袋に流し込む。
 ちなみにエールというのはホップを使って苦みを出すことが発案される前の、ビールのような物。
 食事時に水代わりに飲むものだった。

「美味しいです」
「こういう、野趣溢れた食事もたまにはいいだろう?」

 人間だった頃を思い出しながら、リューが言う。
 彼は、結構アウトドアを楽しんだりした経験があった。

「少し、酔ってしまったようです」
「おいおい、大丈夫か? この辺ではエールは水代わりで、子供でも飲んでるはずだと思ったが」
「子供じゃないです! もうれっきとした大人なんですから、ちゃんと大人の女性として扱って下さい!」

 やはり酔っ払っているらしい。

「休むなら、毛布を貸しますが……」
「あ、ありがとうございます」

 それでも老人にはきちんと礼を言い、

「リューさん……」

 リューと一緒にそれを被る。

「わっぷ、こら、ご老体が見ている。ペットと一緒に寝るような醜態を曝すな」
「ペットじゃないです。リューさんは私の大事な人です」

 ぎゅーっと子供のようにリューの首にしがみつくマリア。

「……二度と飲ません」
「そんなつれない事を言わないで下さい。私がこんなにあい、わぷっ」

 とっさにマリアの口を塞ぐためには、顔を舐め上げてやるしかなかった。

「い、今の、ききき、キス……」
「ノーカンだ。頬の唇の端ぎりぎりだったろ。そもそも俺は犬だ」
「私の初めて…… もらってくれたんですね」
「だから、ご老体の前で変なこと口走るなーっ!」
「もう、そんなに言うならこうです!」

 マリアは口の中で呪文を紡ぐ。

「大いなる眠りよ!」

 魔法が発動し、老人の瞼が落ちた。

「こら、何をした!」
「初めて成功しました! 眠りの魔法です。癒しの魔法より少し難しくて、今まで使えなかったんですけど」

 この旅で心身が鍛えられ、発動が可能になったらしい。
 厄介な事に、今この時に。

「うーん、リューさぁん」
「こら、寝るな! 寝るなら一人で寝ろ!」

 しかし、夢うつつになりながらも、マリアの手は離れない。
 それ故に、リューが更にもがこうとした時。

「独りに、しないで……」

 そう呟いて、すうすうと寝息を立て始めるマリア。

「ふぅ……」

 ため息を漏らすリュー。
 閉じられたマリアの瞳。
 その眼尻は涙で濡れていた。

「まったく、反則だな」

 諦めたように呟き、マリアに抱きつかれたまま器用に口を使って毛布を引き寄せてかけ直す。
 その温かみに、わずかにマリアの表情が緩んだようだった。

「お休み、マリア」

 そうして、自らも瞳を閉じるリューだった。



■ライナーノーツ

 ドラクエ2を今やるならスマホ版か、Wiiの復刻版が良いか。


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