ドラクエ2〜雌犬王女と雄犬〜(現実→雄犬に憑依)
 第二章 旅の準備

「こ、これは……! 一体、何が起こったのだ!? 誰か、誰かおらぬかっ!」
「お 王様! 大変でございます! 大神官ハーゴンの軍隊が、我がムーンブルクのお城を!」
「なにっ!? ハーゴンが攻めてきたと申すかっ!?」
「はい!」
「ぬぬぬ、ハーゴンめ! こうしてはおれぬ! すぐに兵士達を集めよ!」
「はっ! ただちに!」
「よいかマリア、お前はここに隠れているのだっ! わしの身に何が起こっても、嘆くでないぞ」
「お、お父様……!」
「さあ、早く行け! わしは、この事をローレシアの王に知らせねばならんのじゃ」

 父に地下室に隠れるよう言われる自分。
 そこに翼を持った化け物が降りてきた。

「うぬ! ここまで来ていたとは! おのれ! 怪物めっ!」

 初めて見る、怪物と父親の戦い。
 だが、

 ……お父様! 後ろに悪魔神官が!

「ぎょえーっ!!」
「お、お父様ーっ!!」



「大丈夫か?」

 月明かり亭の二階にある宿。
 簡素なベッドの上でマリアが目を覚ますと、目の前に大型犬、リューの姿があった。
 マリアがあまりに酷く魘されていたので、彼が起こしたのだが。

「リューさん!」
「ぐえ!?」

 いきなりマリアに首を絞められ……
 もとい、力一杯抱きしめられるリュー。
 薄い下着越しに、とくとくと速まった鼓動が伝わってくる。
 リューは、彼女のされるがままになってやった。
 他者のぬくもりは、それだけで人を安心させる。
 マリアがそれで癒されるなら、それでいい。
 アニマルセラピーとか言ったか……
 その辺の知識は怪しいリューだった。

「夢を、見ていたんです」
「夢?」
「お父様が亡くなる夢です」
「そうか」

 リューは、ただ静かに聞き手に徹する。
 胸に貯まった物をいくらかでも吐き出せば、彼女も気が楽になるだろうと考えて。
 しかし……

「だから、一緒に寝て下さい」
「それを蒸し返すのか!?」

 寝る前も、さんざんベッドは一つ、枕は二つと夢見る彼女を説得するのに苦労したと言うのに。

「ペットを寝床に連れ込むような年じゃないだろうに」
「ペットじゃありません! 夫婦です!」

 この辺、頑固なのは、さすが王族の姫君と言った所か。

「……ダメ、ですか?」

 そして、一転して、今にも消え入りそうな、儚げな声で問う。
 その言い方は卑怯だろう、とリューはため息をつく。

「魘されなくなるまでだぞ」

 こう言うしかないではないか。

「はいっ!」

 一転して喜びの声を上げるマリア。

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「いや、それは違うから」

 お互いの思惑の齟齬はともかく、喜々としてベッドに迎え入れるマリアに、しょうがなくリューは従う。

「モフモフしてます」
「犬だからな」
「温かいです」
「犬は人間より体温高いからな」
「……それだけじゃないと思います」
「何か言ったか?」
「いえ、お休みなさい、リューさん」
「ああ、お休みマリア」

 頬をリューの毛皮にうずめ、その大柄な体にすがりつく。
 マリアは幸せそうに、本当に幸せそうに微笑んで、眠りに就いた。



 窓から差し込む光と、小鳥達の鳴き声が、朝の到来を告げる。
 寝ぼけているのか、マリアはベッドの中で、何かを一生懸命探しているようだった。

「起きたのか?」
「リューさん?」

 リューの声で、パチリと目を覚ますマリア。

「お早う、下の食堂では、朝食が出来上がっているようだぞ」

 鼻をひくつかせながらリューは朝のあいさつをするが、マリアはそれに答えてくれなかった。

「むー」
「な、何だ?」

 マリアの責めるような視線に、リューは少しだけ身を引いた。

「せっかく初夜を共にしたのですから、一緒にベッドで目覚めたかったです」
「ぶぅっ!」

 噴き出すリュー。

「そ、それ違う」
「えっ、好き合った男女が褥を共にしたんですよ」
「いや、そうじゃないだろ!」
「ああ、結婚してから初めての夜を言うのでしたっけ」
「そうだけど、違う」

 リューは、人間の頃だったら頭を抱えていただろう、頭痛に悩まされる。
 ともあれ、

「宿のご亭主が起こしに来てくれた時に、犬がベッドに入っていたらまずいだろう」
「だったら、リューさんが起きた時に、起こしてくれればいいのに」
「いや、寝顔がかわい…… もとい、幸せそうに寝てたから、起こすのが忍びなくてな」
「それでもです。今度からは起こして下さいね」
「あ、ああ、分かった」

 ベッドから素足を出し、朝日の中、立ち上がるマリア。
 日の光に、薄手のスリップ越しに未成熟な、しかし確かに女性を感じさせる身体の線が浮かび上がり、慌ててリューは顔をそむける。

「リューさん? どうしたんですか?」

 簡素なワンピースを下着の上に着ながら、不思議そうな顔をするマリアに、リューは何でもない、と答える。
 俺はロリじゃない、と心の中で呪文のように唱えながら。



「リューさん、重くないですか?」
「なに、このくらい朝飯前だ」

 朝食を摂った後、革細工師を訪れ特注で作ってもらったのは犬用の鞄だった。
 身体の左右に振り分けられたバッグを、腹の所で二箇所、胸前に1箇所、計三箇所のベルトで留めるため、動きやすく、負担が少ない。
 犬連れで山歩き、ハイキングに来ていた人が犬に背負わせていたのを覚えていて、真似て作ってもらったのだ。
 その場で寸法を合わせ、作りかけの鞄とベルトを組み合わせて即興で作ってしまうのはさすが職人と言った所。
 お代は本来、革の鎧ぐらいはするはずなのだが、このバッグのデザインを売る事で、それに替えた。
 何でも、救助犬向けや、愛犬家に売り出してみるとの事。
 中々に意欲的な精神を持った職人さんだった。

「じーさん犬のパトラッシュだって荷車を引いたんだ。これぐらい軽いって」
「パトラッシュさん、ですか?」
「ああ、俺の知っている話で……」

 言いかけるリューだったが、途中で止める。
 この話をしたら、必ずマリアは泣く。
 というか、これで泣かない奴は、人間失格だとリューは信じていた。
 少なくとも日本人の大半はリューの考えに賛同してくれるはずだった。

「リューさん?」

 急に話を止めたリューを不思議そうに見るマリア。
 彼女は、肩から斜めにかけたポーチに、貴重品や身の回り品を入れている。
 最初は彼女も、もっと荷物を持つと言って聞かなかったのだが、この世界、街の外に一歩出たらモンスターが襲ってくる。
 彼女には護身用の杖を持たせ、身軽でいつでも対処できるようにしていて欲しかった。

「それにしても、この福引券って、何なんでしょうか?」

 道具屋で、毒消しや、万が一のための薬草を大量に買い込んだ際に「感謝の気持ちを込めて」とおまけしてくれたものだった。

「福引券って事は、何処かに福引所があるんだろ」

 そうして、ムーンペタの街の中を探すと、それはすぐに見つかった。

「ここは、福引所です。福引をいたしますか?」

 対応してくれた男性の言葉を聞く二人。
 もとい、一人と一匹。

「福引の機械が回転を始めたら、ボタンを押して止めて下さい。太陽印が三つ揃うと一等、ゴールドカードが当たります。星印三つで二等、祈りの指輪です。その他、色々商品を用意しております」
「って、パチスロかよ!」

 その機械を見てリューは驚いた。

「そ、それじゃあ、やってみますね」

 回転する機械に目を回しそうになりながら、ボタンを押して行くマリア。
 残念ながら、印は二つしか揃わなかった。
 それも、ほぼ偶然という奴だった。

「いやー、惜しかったですね。残念賞に、福引券を差し上げましょう」

 残念賞は、福引券らしかった。

「また戻って来ましたね」

 苦笑するマリアだったが、リューは真剣だった。

「いいだろう、リールの絵柄と、ストップのタイミングは大体覚えた」
「え? 今何て言ったんですか、リューさん」
「俺にボタンを押させてくれ」
「え、ああ、はい」

 福引所の係員に、福引券を渡すマリア。
 リューは後ろ足立ちになって、ボタンを前足で押す。
 最初に止まったリールの絵柄は月。

「ちっ、外したか。しかし、それももう覚えた」

 残ったボタンを次々に押して行くリュー。
 月! 月! 月!
 月の印が三つ揃った!!

「リューさん!」
「グッド、なかなか面白いゲームだ」
「おめでとうございます! 三等、魔導師の杖が、当たりました!」

 係員の景気の良い声と共に、宝玉のはめ込まれた杖が差し出される。

「三等か、惜しかったな」
「いえ、凄いですよリューさん! この杖は魔法の杖です。先に付いた宝珠の力で、火の弾を飛ばす事ができるんです。これなら未熟な私でも戦えます」
「そいつは良かった」

 中々の物を当てたようだった。

「でもリューさん、さっき何て言ったんです? 覚えた、ストップのタイミングは大体覚えた、って言ったんですか?」
「二度言う必要はないぞ」

 内心、冷や汗をかきながら答えるリュー。
 元の世界では、若気の至りで一時期パチスロにのめり込んでいて、それでさんざん散財しながら目押しのコツをつかんだのだ。
 その上で、人に比べて驚異的な力を持つ犬の動体視力。
 これが合わされば楽勝という物だったが、ギャンブルに夢中になっていた過去を、純真なマリアに知られるのはためらわれた。

「まぁ、向こうで散々貯金していた分を、こっちで下ろす事が出来たって事かな」

 人間、何が幸いするか分からない物である。

「これで、旅立ちの準備は万端って奴だな。今日は宿で英気を養って、明日の朝、この街を発とうか」
「はい、リューさん」



 ちなみに、その日の晩、マリアにせがまれ、パトラッシュ…… フランダースの犬の話をしたリューだったが、彼はフランダースの犬の破壊力を完全に読み違えていた。

「うっ、うっ、リューさんは、そんな風に亡くなったりしませんよね」

 マリアに盛大に泣かれ、慰める為に、また仕方なくベッドを共にするリュー。
 これが同衾が常態化する切っ掛けになろうとは、リューにも予想はできなかった。

「ぐしゅぐしゅ、悲しいお話は嫌いです」



■ライナーノーツ

 リューの装備した犬用かばんは実在するアイテム。
Lalawow ペット用 ドッグ用品 ペットリュック 犬用 レトロなキャンバス  リュックサック ハーネス ドッグバックパック 旅行に 散歩に  大中型犬用 多機能なリュ ック! (ブラウン)Lalawow ペット用 ドッグ用品 ペットリュック 犬用 レトロなキャンバス  リュックサック ハーネス ドッグバックパック 旅行に 散歩に  大中型犬用 多機能なリュ ック! (ブラウン)

Lalawow
売り上げランキング : 25995

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
 こんな具合に。


Tweet

次話へ
前話へ
トップページへ戻る

inserted by FC2 system