【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十九話 青い巨星


「ええと、接近戦用のボールですか?」

 サカキ財閥の令嬢、アヤ・サカキは彼女には珍しく表情を崩した。
 それだけ目の前の軍人、ランバ・ラル大尉の要求が想定外だと言う事でもあったのだが。

「一体どういう事です?」
「そうだな、ドズル中将からは、貴女になら作戦内容を話して協力を取り付けても良いと言われている」

 ラルは、この小さな少女に、ドズルからの言葉を告げた。
 民間人相手に、破格と言ってもいいほどの信頼だ。

「そこまで信頼して頂けるのも、こちらとしては嬉しい限りですが」

 戸惑いがちに問いかける少女に、ラルは小さく笑った。
 そして、表情を改め、話し始める。

「宇宙上に残存している地球連邦軍、ルナ2を攻略する作戦が、現在立案されている」

 ルナ2とは、スペースコロニー建設用の鉱物資源を採取するために、アステロイド・ベルトから月軌道上に運ばれてきた小惑星を、地球連邦軍が軍事基地に改造したもので、月とは地球を挟んで正反対の位置に存在する。
 第2の月という意味から、ルナ2と名付けられた。
 核攻撃にも耐えられる厚い岩盤層の中に、ドックや整備、補給を行う施設を保有しており、宇宙のほとんどをジオン公国軍が制圧した結果、宇宙において唯一の連邦軍の拠点となっている。

「作戦に使われるのは、連邦軍から鹵獲された大型のコンテナ式輸送艇。それと、数隻のサラミス級巡洋艦だ」

 それで、アヤにも察しがついた。

「なるほど、トロイの木馬ですか」

 その洞察眼に、内心舌を巻くラル。
 一を聞いて十を知る天才とはこういったものだろうか。
 さすがは、才女として名高いサカキ財閥のご令嬢である。

「その通り。サラミス級に護衛された輸送艦が、ルナ2目がけて逃げ込んで来る。無論、そのままでは怪しまれるだろうから、サラミスは自動操縦とした上で、追撃する我が軍の艦隊と交戦。撃沈されながらも、無事ルナ2に輸送艦を送り届けると言う作戦だ」
「そして、ルナ2に受け入れられた輸送艇のコンテナからは、ボールが次々と現れ、港を占拠する、ですか?」

 アヤの指摘に、ラルは頷いた。

「左様、外からが駄目なら中から攻め落とせば良い。元々ゲリラ屋の私の戦法でいこうと言う訳だ」
「確かに。内部から呼応すれば、損害も最小でルナ2を攻め落とす事が出来ますね」

 しかし、である。

「でも、どうして接近戦用のボールなどという、特殊なご注文を?」
「これは、確認された情報なのだが、どうやら、連邦軍は鹵獲した我が軍のザクをルナ2の守備に回しているようなのだ。狭い要塞内で、これと遭遇した場合、格闘戦の能力が無いボールでは、一方的に撃破される恐れがある」
「それで、ですか」

 しばし、考え込むアヤ。
 そして、面を上げる。

「それでしたら、ジオニック社と我社の共同で開発した試作機がございますが」



「これが、格闘戦用ボールです」

 アヤが案内した倉庫内の一角に、それはチタンの地肌をむき出しに置かれていた。

「これは…… 右のアームの代わりに取りつけられているのはムチかな?」
「電磁鞭のヒートロッドです。特殊デンドリマーを積層することにより幾層からなる圧電アクチュエーターを構成し、各層に独立して電荷を与えることにより自在に動かすことができます」
「なるほど。それで、天頂部に供えられた手は一体……」
「75ミリ5連装フィンガーマシンガンです。元々これらの武装は、地球侵攻作戦の為にジオニック社が開発したモビルスーツ、グフの為のものなのです」
「しかし、地球侵攻作戦には、重モビルスーツであるドムが」
「ええ、その為、せっかくグフ用に開発、作成した固定武装が無駄になってしまったのです。それを惜しんだジオニック社が我社に働きかけて作られたキメラ的機体が、この格闘戦用ボールなのです」

 威嚇用に、反り返った角まで付いている。

「それでどうか、使えるのか?」

 問題はそこであった。
 アヤは、手元のモニターに、このボールとザクの戦闘試験の映像を呼び出した。

「性能試験は、ジオニック社が行いました。接近戦だけなら、この固定武装でザクを圧倒できるそうです」

 画面上には、このボールがヒートロッドを自在に振り回し、接近戦でザクを一方的に翻弄している姿が映し出されていた。

「こちらが、性能試験結果です」

 プリンターで、レポートを印刷して渡す。

「漢ムチ?」
「ああ、ヒートロッドの事です。ジオニック社の技師が仮名称で呼んでいたものですね」
「では、この漢バルカンと言うのも?」
「フィンガーマシンガンの事ですね」
「ふむ」

 ラルはこの機体が気に入ったようだった。

「それでは、こちらの機体を納品させて頂きます。塗装はどうされますか? 試作機ということで、チタンの地肌そのままの状態ですが」
「では青で」
「あ、これは失礼しました。青い巨星の名は有名ですものね」

 こうして、格闘戦用ボールは青く塗られて、歴戦の勇士ランバ・ラルの手に渡された。
 ルナ2攻略戦では、連邦軍に鹵獲されたザクを相手取り、獅子奮迅の活躍を見せ、作戦を成功させることになる。
 そして、この格闘戦用ボールには、ランバ・ラル専用ボールの別名が付けられ、軍から同仕様の機体の生産が発注された。
 このタイプのボールは、ジオニック社のグフ用固定武装、ヒートロッドとフィンガーマシンガンの不良在庫が捌けるまで生産され、各戦線に配備されたのだった。


■ライナーノーツ

ランバ・ラル専用ボール」は、トニーたけざきのガンダム漫画より。
 プラモデルで再現する場合はボールとグフのミキシングで再現可能。
 ベースはやはりカトキVerなので、1/100のMGを使うか、1/144ならK型を使う。



 通常、グフ側をワンサイズ大きなスケールにするとバランスが良くなるが、敢えて同スケール同士をミキシングしてリアリティのあるモデルにするのも一興。

 または、R35のバルカンポッドを使うのも手。
 グフカスタムと違ってヒートロッドがついているのでベースに使うには向いている。

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