【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十五話 ブリティッシュ作戦

「ボールが、ここまで役に立つとはな」

 ドズル・ザビ将軍は、モビルポッド、ボールの発案者であるサカキ財閥令嬢、アヤ・サカキの白い儚げな姿を思い浮かべながら呟いた。
 サイド2ハッテに進軍したドズル艦隊が、連邦軍コロニー駐留艦隊と接敵する直前の事だった。
 民間船で偽装し極秘裏にサイド2宙域に侵入したジオン公国軍海兵隊のボール部隊が、ダミーバルーンを展開。
 コロニーを背に突如として現れた偽りの艦隊に、混乱した連邦軍は、コロニーごとこれを撃つと言う暴挙に出たのだ。
 それによって、サイド2の全コロニーは壊滅。
 ドズルの艦隊は、連邦軍の混乱をついて新兵器、モビルスーツによる攻撃で連邦軍艦隊を撃破したのだった。

「最悪、核でコロニーを吹き飛ばす事まで考えていたのだがな」

 その準備は、幸い無駄となった。
 大量虐殺者の汚名は、地球連邦軍の物となった。
 工作を行ったキシリアは、対連邦の交渉材料として、この事実を嬉々として利用する事だろう。
 でき過ぎの結果とも思えたが、この為にキシリア配下の情報部は、サイド2連邦軍コロニー駐留艦隊の編成から司令官の性格分析、そして追い詰められた場合の行動予測まで行い、実施に当たっては、与える情報のコントロールまでしたのだ。
 結果、かなりの高い確率で連邦軍の行動を誘導する準備は整っていた。
 ドズルの艦隊が持つ核は、策が成らなかった時の為の保険である。
 そして開戦から明けて1月4日、ドズル艦隊所属の工作部隊は、サイド2の第8番コロニー、アイランド・イフィッシュに核パルスエンジンを装着して地球へ落下させるコースへ移動させていた。
 落下目標地点は、南アメリカ大陸のジャブローにある地球連邦軍総司令部である。
 作戦名をブリティッシュ作戦と言う。
 そして、この作業に使われているのも、ボールであった。
 兵員はアヤが、コロニー公社を退職した定年後のシルバー人材をかき集めて来た。
 兵役で人材が乏しい中、この抜擢は非常に有効だった。
 老いたりとはいえ、コロニー公社の現場で長年スペースポッドを使って居た人材であり、腕は確か。
 安心して作業を任せる事が出来た。
 この人材面での手当てがなかったら、貴重なモビルスーツ、ザクやそのパイロットを作業に振り分けねばならず、結果として活用できる戦力の減少が起こっていただろう。
 あの令嬢は、そんな面にまで、配慮を欠かすことが無かったのである。

「ボールはただ戦力として用いれば二級の品だが、使い方さえ間違わなければ、ザクを補う働きができる。確かかかるコストもザクの四分の一以下と言う話だったな」

 戦いは数だと言うまっとうな軍事理念を持つドズルにとって、使える戦力に掣肘を受けない事は理想であった。

「ルナ2より連邦軍の主力艦隊が出て来るぞ。遠慮なしに叩き潰せ」

 サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアの連邦軍駐留艦隊は、アヤの発案した中立サイドからの義勇兵募集構想により、ジオン正規軍の手によらず制された。
 サイド2ハッテの連邦軍駐留艦隊も、ボールによる特殊工作により混乱した所を一気に叩き潰す事が出来た。
 その上、サイド2ハッテが連邦軍自身の手で壊滅された事により、コロニー破壊用に用意してきたザクII用の核弾頭バズーカも温存されている。
 負ける要素はどこにも無かった。

「地球連邦軍に通達。我々の攻撃目標は、南アメリカ大陸のジャブローにある地球連邦軍総司令部。ただそれだけである。コロニー落下に対し妨害を企て、万が一にも落下地点がそれ、民間に被害が出るようになったら、それは総て地球連邦軍の責任であると」

 これは、開戦前に用意されたシナリオであり、地球全土に通達は出されていた。
 いくら核パルスエンジンを使っているとはいえ、巨大なコロニーの軌道変更には時間がかかる。
 落下予定時刻は、ブリティッシュ作戦発動から六日後の1月10日。
 これだけ時間があれば、連邦軍がジャブローから人員だけでも撤退をする余裕がある。
 つまり、このコロニー落としが当初の予定通りジャブローに到達すれば、地球連邦軍は司令部を失う。
 連邦軍が徹底抗戦を行い、コロニーの落下進路を変えてジャブロー以外に被害を与えれば、それは地球連邦軍が民間より軍司令部を優先した結果となる。
 どちらに転んでも、連邦軍にダメージを与えられると言う戦略だった。
 これにより、ジオン軍実戦部隊は作戦行動の自由を得る事ができた。
 つまり、コロニーの落下さえ実現できれば作戦が成功である以上、必要以上にコロニーを守るには及ばないと言う事だ。

「これは大きいな」

 必死にコロニー破壊に奔走しなければならない連邦軍を狙い撃ちにすればいいのだ。
 これによりジオン軍の被害を抑えられ、力の温存を図る事が出来る。

「それにしても、ジオンも変わった物だ」

 五年ほど前までには、ジオンは人道を捨てコロニーへのNBC兵器の使用すら辞さず、ジオン以外のコロニーを殲滅。
 電撃戦をもって、地球連邦政府を陥れるしか、戦略の幅を持たなかったはずだ。
 それが、いつの間にやらサイド1、4、6の中立化構想が打ち出され、スペースノイドの協力が得られるよう、作戦の見直しが行われ、結果として戦略の幅が広がった。
 戦を受け持つ軍人たるドズルにとって、それは歓迎すべき事柄だった。

「これも、あの少女の影響か」

 ドズルの脳裏を、アヤの微笑がよぎって行った。



 連邦軍の必死の反攻によりコロニーは崩壊し、ジャブローへの落下は食い止められた。
 しかし、宇宙世紀79年1月10日。
 地球連邦軍の迎撃で崩壊したコロニーの残塊が相次いで地球に落下。
 地球全土で甚大な被害が発生し、数多くの人命が失われた。



■ライナーノーツ

 この時のドズルの乗艦は一般に『シャア専用ムサイ』とも呼ばれるファルメル。
 この後、ルウム戦役の功績により、シャアが譲り受けることになる。
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