【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十四話 赤い彗星、誕生秘話


 サイド2に向け、進軍中のドズル艦隊。
 その中で、士官学校主席相当、鳴り物入りで入隊してきたシャア・アズナブル少尉を待っていたのは、上官からの陰湿な嫌がらせだった。

「やれやれ、まさか未塗装の機体をあてがわれるとはな」

 彼の目の前には、下塗りの赤い錆止め塗装しかされていない、未塗装のザクIIの姿があった。
 なるほど、この目立つ機体では、戦場での生存率も下がらざるを得ない。
 統合整備計画の推進の結果、コクピットのブロック化が進められチタン殻の脱出ポッドとして機能するようになったとはいえ、融合炉が爆発すれば、それも気休めだ。
 諦めて搭乗しようとするが、そんな彼を、整備兵が止めた。

「違いますよ、少尉。少尉の機体は隣です」
「隣? まさか……」

 そこにあったのは、球体の天頂部に120ミリマシンガンを装備しただけの機体。
 赤く塗られたジオン軍モビルポッド、ボールであった。

「ただのボール、だと?」

 思わず呟いてしまうシャアに、整備兵は憤慨して見せた。

「ただのボール? 冗談じゃありません。現状でこのボールの性能は三百パーセント出せます」
「三百パーセント?」
「ええ、機体下部のバーニアを見て下さい」

 ボールの機体には不釣り合いな、巨大なバーニアがそこにはあった。

「普通のバーニアと違って、重元素を推進剤とする熱核ロケットエンジン。ツィマッド社の試作型土星エンジンです。こいつさえあれば、ザクの三倍のスピードで飛行が可能です!」

 そう、その機体は、ツィマッド社にて土星エンジンのデータ収集用プラットフォームとして試作された、高機動型ボールだったのだ。
 通称、三倍ボール。
 ツィマッド社が実戦データの収集の為、ドズルの部隊に回してきた機体だが、誰も使いたがらず。
 結果として、上官に隔意を持たれたシャアに押し付けられた訳だ。

「腕は付いていない」
「あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」

 正確に言えば、ハンド部分だけちょこんと機体下部に付いている。
 土星エンジンの大出力で戦闘機動を繰り返した場合、通常型のマニピュレータでは強度が足りない為、応力から金属疲労で折れてしまう。
 その為、伸縮式にして通常時は収納してあるのだという。

「使い方はさっきの説明でわかるが、土星エンジンな、私に使えるか?」
「少尉の耐G適性は未知数です。保証できる訳ありません」

 その物言いに、シャアは苦笑した。

「はっきり言う。気にいらんな」
「どうも」

 そう答える整備兵を残して、シャアはボールのコクピットへと向かった。

「気休めかもしれませんが、少尉ならうまくやれますよ」

 背中にかけられる声に、一瞥して微笑む。

「ありがとう。信じよう」

 こうして、シャアは、赤く塗装された高機動型ボールで出撃する事になった。
 後に、赤い彗星として畏怖されるようになった名パイロット、シャア・アズナブル。
 高機動型ボールに備えられた土星エンジンの恩恵で、文字通り三倍のスピードで迫るその戦いぶりは、連邦軍を恐怖のどん底へと叩き落としたのであった。



■ライナーノーツ

 シャアが赤い彗星と呼ばれるようになった辺りの描写は、オリジン版で語られていますね。


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