【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十三話 宇宙の蜉蝣


 ジオン公国の宣戦布告後、キシリア艦隊に属するモビルスーツ部隊は、月面都市グラナダを制圧。
 ドズル艦隊は、地球連邦側に立ったサイド2ハッテに向かって進軍していた。
 地球連邦軍サイド2駐留軍は防戦に当たろうとしていたが、そんな中、サイド2のコロニー周辺宙域では、混乱が起こっていた。
 宣戦布告から一時間で、サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアの連邦軍駐留艦隊が壊滅したと言う情報がもたらされ、危機感を覚えた地球連邦高官らが、一般市民を見捨て、己が家族を連れて次々と脱出を図っていたのだった。

「お陰で潜り込むのは簡単だったねぇ」

 数隻の、民間から徴発した大型のコンテナ船でサイド2宙域に紛れ込んだのは、開戦直前に編成されたキシリア・ザビ配下のジオン公国軍海兵隊。
 指揮するのは、艦隊司令アサクラ大佐の代理司令官シーマ・ガラハウ中佐だった。

「さて、それじゃあ、風船を使うよ」

 コンテナ船のコンテナが開くと、中からはジオン軍モビルポッド、ボール達が現れた。
 融合炉を持たないボールは冷却ベッドを必要とせず、また標準規格の大型コンテナにそのまま入れる事ができるので、こういった民間船に積載しての作戦には都合が良いのだ。
 そして、シーマは自らもボールに乗り込み、指揮を取る。
 ボール達はコンテナからシェルに納められた大型の装置を協力して運び出し、所定の宙域に移動させた。
 そして、

「デコイ展開」

 それは二つに割れると急激に膨らみ、チベ級重巡洋艦の姿を取った。
 レーダーにもきっちりと反応するバルーンダミー。
 囮装置だ。
 離れた場所でも、次々に部下達がダミーを膨らませていた。
 こうして突如として現れたジオン軍艦隊に混乱した所を、ドズル艦隊が叩くと言う寸法だ。

「しかし、攻撃を受けたら一発でばれますよ」
「だから、コロニーを背にするように配置したんじゃないかい。連邦がよほど馬鹿じゃない限り撃って来やしな……」

 シーマがそう言いかけた時だった。
 幾筋もの光芒がバルーンダミーをかすめて、背後のコロニーに、派手な火花を散らしたのは。

「な……」

 シーマは絶句する。

「何を考えてんだい! 味方のコロニーを巻き込んで攻撃するなんて! お前らはいったい、どっちの味方だ!」

 激高するシーマのボールの目の前を、空気と共に吸い出されたコロニーの住人の姿が流れて行く。
 その凄惨な光景に、シーマは目を剥いた。
 混乱する頭の中、上司であるアサクラ大佐が指揮を取らず遙任した理由がここにあったのかと発作的に結びついた。
 コロニーを背後に置けば、連邦軍は撃てないと誰が決めたのか。
 意図的に流された、サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアの連邦軍駐留艦隊が壊滅したと言う情報。
 これは、シーマ達が潜入しやすいよう混乱をもたらしたが、本当は、サイド2駐留艦隊を精神的に追い込む為のものでは無かったのか。
 疑心暗鬼に囚われた状態で、いきなり敵艦隊が忽然と姿を現したらどうなるか。
 答えは、目の前の光景が物語っている。
 味方コロニーを巻き添えにする事も躊躇わない攻撃。
 それによる住民の虐殺。
 はめられたのだ、連邦軍は。
 そして、作戦を実行したシーマ達にも、本当の意図は隠されていた。

「あ…… あたしは、知らなかった…… こんな事になるなんて知らなかったんだよぉっ!」
「シーマ中佐、中佐!」

 部下の悲鳴に、何とか自分を保つシーマ。

「全員散開! ダミーの周りから離れるんだよ!」
「はっ!」

 更に走る火線。
 破裂するダミー。
 そして壊滅的な被害を受ける各コロニー。
 アヤの知る未来では、ジオンのNBC兵器で滅んだサイド2は、ジオン軍の到来を待つまでも無く、連邦軍自身の手で住民が虐殺された。
 この事実がスペースノイドに与えた影響は大きく、後の歴史に多大な影響を与える事になるのだった。



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