【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十二話 開戦


 宇宙世紀79年1月3日午前7時20分、ジオン公国は地球連邦政府に対して宣戦を布告した。
 時を同じくして、連邦軍艦隊の駐留するサイド1ザーンの宇宙港では、港の各所に置かれていた大型コンテナが次々と開き、中から球状の機動兵器が現れた。
 緑色に塗られたボディにジオンのマーク。
 ジオン軍モビルポッド、ボールだった。
 ボールは宇宙港内を縦横に飛び回り、連邦軍艦隊の各艦の艦橋に、その天頂部に装備された120ミリマシンガンを向けた。
 一瞬の事だった。

「連邦軍サイド1駐留艦隊に告ぐ。撃沈されたくなければ、即座に投降せよ」

 全周波数を通じて、降伏勧告が告げられる。

「なっ!」

 駐留艦隊旗艦のマゼラン級戦艦の艦橋にも、その凶悪な銃口は突き付けられていた。
 停泊中である為、どの艦も主機の出力は最低限に落とされていた。
 メガ粒子砲は使えない。
 機銃を向けようとする艦もあったが、

「抵抗すれば撃沈する」

 次の瞬間には、艦橋を120ミリマシンガンに蹂躙されていた。
 戦闘指揮所を潰された事で、高度に電子化されていた防空システムも沈黙する。

「警告する。次に抵抗の動きがあった場合、即座に全艦を撃沈する。速やかに投降し、艦を下りろ」

 再度の通告が成される。

「提督」
「全艦に通達しろ。抵抗するなと。相手と通信を繋げ」

 緊迫した空気が流れた後、敵ボールの指揮官と通信が繋がる。
 相手は民間用ノーマルスーツ姿のパイロットだった。

「何者だ」
「我々は、ジオン軍ザーン義勇兵隊だ」
「ザーン義勇兵隊?」
「そうだ。我々はスペースノイドの独立の為にジオン軍に義勇兵として参加した部隊だ」

 見る者が見れば分かっただろう。
 ボールの機体に、ジオン公国の国家マークと共に描かれたエンブレムが、体感シミュレーションゲーム戦場の絆、ザーン向けバージョンに登場したザーン義勇兵隊エンブレムと一緒だったということを。

「くっ、反乱か」
「そうではない。これは地球連邦に対するスペースノイドの独立戦争だ」

 そして、再度、勧告が成される。

「連邦軍サイド1駐留艦隊に告ぐ。撃沈されたくなければ、即座に投降せよ。サイド1に停泊中の全艦に、我々は砲を向けている。今この瞬間にも全艦の撃沈が可能だ」

 そうしている内にも、敵の勧告が事実である事が報告される。
 駐留艦隊の全艦が、提督の決断を待っていた。

「分かった。投降しよう」

 その指示は艦隊旗艦から、艦隊の全艦に通達された。
 こうして、サイド1に駐留する連邦軍艦隊は、全面降伏したのだった。



「ふふふ、連邦軍の駐留艦隊、サイド1ザーンは全面降伏。サイド4ムーアは抵抗の末、全艦撃沈。サイド6リーアも全面降伏したそうだぞ。開戦後一時間でこの成果だ。君の提案した作戦通り、な」

 ジオン軍作戦本部。
 ギレン・ザビ総帥は、傍らに立つアヤ・サカキに声をかけた。
 初めて顔を合わせてからもう五年目。
 少女は今年で十七歳になる。

「作戦を実行できたのは、すべて総帥のお力によるものです」

 サイド1ザーン、サイド4ムーア、サイド6リーアは、アヤのプロデュースした反地球連邦色も鮮明な体感シミュレーションゲーム、戦場の絆によってスペースノイド独立運動の雄、ジオン支持に傾いた。
 無論、そこにはギレンの発揮した政治的な辣腕ぶりが背後にあったのだが、三つのコロニー政府では、自領を中立地帯とする事を条件に、連邦軍に協力しない事を確約した。
 その上で、国民がジオン軍義勇兵隊に志願する事には何の制限も設けなかった。
 それを受けて、ジオン軍はアヤの発案の元、モビルスーツではなく二級の戦力であるモビルポッド、ボールを各コロニーに送った。
 融合炉を持たないボールは冷却ベッドを必要とせず、また標準規格の大型コンテナにそのまま入れる事ができた。
 後は、コンテナを各コロニーの宇宙港に搬入し、現地で訓練した志願兵達を義勇兵隊として編成。
 ジオンの宣戦布告と同時にコロニー駐留の地球連邦軍艦隊の鎮圧にあてるだけで良かった。

「それでは総帥、ザーン、ムーア、リーアの同志に向けて、お言葉をかけてやって下さい。この戦争は、スペースノイドの独立を賭けた物であると」

 アヤは微笑む。

「そうすれば、彼らはジオンの心強い味方となってくれるでしょう」

 そう、戦争は始まったばかりだった。



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