ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第十話 モビルスーツ演習


 大きい。
 サカキ財閥令嬢、アヤ・サカキが、ドズル・ザビを見てまず思ったのはその事だった。
 身長二百十センチの巨漢。
 威風堂々たる軍人。
 それが、ザビ家の三男ドズル・ザビだった。
 握手を求められたが、少女の手は、ドズルの掌の中にすっぽりと収まるだけだった。

「キシリアから話は聞いておるが。何でも研究の為、演習に参加したいとか?」

 ドズルが話しかけたのは、アヤの背後に居る、フラナガン博士に対してだった。
 これに対し、アヤは不快感を覚える事は無かった。
 軽んじられた訳ではない事が分かったからだ。
 ドズルの態度は、サカキ家令嬢としてのフィルターをかけて彼女を見るのではなく、等身大の少女として見てくれているということだった。

「はっ、ご令嬢に、標的機に使われているボールへの搭乗をお許し頂きたいのです」
「標的機にか?」

 現在、軍に納品されたモビルポッド、ボールは作業用に使われながら、二級の戦力として扱われている。
 演習では、モビルスーツの標的機としての利用が成されていた。

「それは構わんが……」

 ドズルは唸る。
 これが、いきなりモビルスーツに乗せろと言うなら彼も反対していただろうが、相手の要求は、より操作の簡便なボールに対してだった。
 ボールはジオンコロニー公社でも、従来の作業用スペースポッドSP−W03に代わり利用されている。
 兵役で民間の労働の担い手が減少している現在、若年者のアルバイトさえ乗りこなしている機体だ。

「それではよろしくお願いします」

 少女は、微笑んで頭を下げた。



「何なのだ、あれは?」

 ドズルは絶句していた。
 アヤのボールの戦果に対してである。
 演習ではボールにもペイント弾が装填されたマシンガンが装備され、反撃をする標的としての役割を課されていた。
 そして、アヤのボールがもたらした結果は、演習部隊のザクの壊滅判定だったのだ。

「一体何をした?」

 戦闘機動において、モビルスーツは人型である優位性を持っていた。
 体操選手の様に手足を振り回し、身体を捻る事により、素早い機動が可能。
 これを、AMBAC(Active Mass Balance Autocontrol 能動的質量移動による自動姿勢制御)システムと呼ぶ。
 それに対し、球形のボールは、一応、一対のマニピュレーターを持っているものの、AMBAC機動は不可能で、姿勢制御はスラスター頼みだ。
 普通なら、勝てる訳がない。
 それが、この結果だ。
 今、ドズルの執務室には、演習中の様子をモニターに映し出し報告を行うフラナガン博士と、演習から帰って来たアヤ。
 そして演習に参加したパイロットの代表として、一番の乗り手であるシャア・アズナブルの姿があった。

「どういうことか分かるか?」

 ドズルに問われ、シャアは頷いた。

「殺気を読まれているようでした。ここ」

 シャアの言葉に、フラナガン博士がモニターを止めた。

「明らかに、撃たれる前に回避行動に入っています。攻撃が先読みされている」

 それが、アヤのボールを撃墜できない理由だった。
 そして、シャア達のザクが撃墜された理由は……
 映像を進めると、包囲して接近し、側面、背後を突こうとしたザクに、くるり、くるりと振り向いて次々に反撃するボールが映し出される。

「球形の機体をわざとスピンさせています。これにより上下左右、三百六十度。いかなる方向からの攻撃でも対応できる」

 しかし、

「これは異常です。普通なら、機体がスピン状態になったら絶対に機位を見失います」
「超人的な空間認識能力ですな。さすがはアヤ様」

 フラナガン博士は、シミュレータでは取る事のできない貴重なデータを得る事ができたと、満足げに頷いていた。
 アヤは、その様子に苦笑する。

「統合整備計画によるコクピットの視認性向上も大きいと思いますが」

 アヤが企画した体感シミュレーションゲーム、戦場の絆では、モニター設置によるコストを抑える為に、パノラミック・オプティカル・ディスプレイと呼ばれるドームスクリーン技術によって視界を確保していた。
 これを逆にボールやザクのコクピットに応用し、全天周囲モニターとまでは行かなくとも、従来の平面ディスプレイでは不可能だった前方上下左右、百八十度の視界をシームレスに映し出す事に成功。
 また、余談ではあるがこれと同時に、モビルスーツのコクピット周りをチタン殻でブロック化し、機体破損時の救命ポッドとして機能するようにしてある。
 パノラミック・オプティカル・ディスプレイのパテントとチタン合金の加工技術を持つジオンコロニー公社スペースポッド部門が、このコクピットブロックの生産を受け持っており、今後、改良を重ねながら全モビルスーツで採用されて行くのだった。
 ともあれ、

「むぅ、フラナガン博士、これは一体どういう事なのだ?」

 ドズルの問いに対し、フラナガン博士は答える。

「これは、キシリア様の元で研究させて頂いているのですが」

 この時点ではまだ、ニュータイプについては基礎研究段階であり、軍事利用については考えられていなかった為、フラナガン博士の口も軽かった。

「アヤ様の持つ力は、ニュータイプ能力の発現と考えられております。認識能力の拡大により人並み外れた直感力と洞察力が身に付き、並外れた動物的直感と空間認識能力が備わる」
「あの、ニュータイプの事か……」

 ドズルとシャアの視線が、アヤに集まる。
 それに対し、アヤは頭を振った。

「ニュータイプとは、ジオン・ズム・ダイクンとその思想ジオニズムによって出現が予言された、宇宙に適応進化した新人類の概念です。誰もがニュータイプとなる可能性を秘めていると思います。事実、シャア・アズナブル様でしたか? 貴方様の操縦からはその片鱗が感じられましたが」
「私が?」

 アヤは、好意を滲ませた微笑みを、相手に向けていた。

「ええ、貴方には人を導く為の何かが感じられます」
「それは、買いかぶり過ぎと言う物です」
「いいえ、私、これでも人を見る目はあるつもりです」

 アヤは微笑んで、手を差し出した。

「これからも、フラナガン博士の研究の為、こちらに参る事があると思います。お相手を願えますか?」

 差し出しされた手を、シャアは受け止めた。

「私でよろしければ」

 こうしてアヤは、ドズル・ザビとシャア・アズナブル、双方への伝手を得る事が出来たのだった。



■ライナーノーツ

>パノラミック・オプティカル・ディスプレイ

 アーケードゲーム『戦場の絆』の筐体に使われている映像処理技術ですね。


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