【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
第六話 EMS−04ヅダ
「これがツィマッド社が誇るモビルスーツ、ヅダですか」
楚々とした幼い令嬢、アヤ・サカキは背部に巨大なロケットノズルを持った人型機動兵器を見上げた。
件の射撃管制装置の三社共同開発は、サカキ財閥が支配するジオンコロニー公社が仲介して、ジオニック社のプロトタイプを元に共同で開発が行われる事となった。
モビルスーツ開発でジオニック社に後れを取っていたツィマッド社は、出資こそしているものの技術供与を受ける側。
つまりこの三社共同開発態勢を整えてくれたサカキ財閥令嬢、アヤに大きな借りを作っている状態だった。
それ故、主力モビルスーツを巡る競争試作に備え開発中のヅダの見学が可能となったのだ。
「主機の出力が凄そうですが、機体強度は大丈夫ですか? 人型は空気抵抗や慣性モーメントが大きいです。超硬スチール合金ではもたないのでは?」
正しく、開発陣の危惧していた事をずばりと言い当てられ、令嬢を案内していた開発主任は、冷や汗を流した。
目の前の、たった十二歳の少女に過ぎない彼女が、簡易型とはいえ機動兵器作成を主導し、あまつさえ射撃管制装置の三社共同開発を図った才女である事を、改めて実感したのだ。
もっとも、アヤの発言は彼女の未来知識あっての事で、彼女自身は、いかにしてそれを防止すべきか腐心していた所だった。
先ほどの発言も彼女が望んだ答えを引き出す為の物で、それに対する開発主任の反応は彼女にとって、渡りに船だった。
「私どもが開発をしているスペースポッド、ボールは、より強度の高いチタン合金を使用しています」
ここで、アヤはちょっとした駆け引きを行う。
「これは、ジオニック社にも申し入れたのですが…… チタン合金の冶金技術、または素材を貴社に提供する準備があるのですが、いかがですか?」
漫然と技術や素材の提供を申し出ても、興味を持たれる可能性は低い。
しかし、それがライバル社にも供与されている物だとしたらどうだろう。
技術的に遅れまいと、食い付かざるを得ないのではないか。
果たして、ツィマッド社は食いついてきた。
それは、ぜひとも、と。
「そうですか。私どもも、お役に立てるなら嬉しいです」
アヤは邪気無く微笑んで見せるが、実際には先ほどの会話には裏があった。
チタン合金の提供はアヤの言った通り、ジオニック社に申し入れていたが、コストが高まる事を嫌ったジオニック社モビルスーツ開発陣からは、少なくとも試作中のモビルスーツ、ザクには採用しない旨、回答があったのだ。
それを伏せつつ会話を進めるアヤは、その外見にそぐわぬ策士だと言えよう。
なお、ジオニック社へのチタン合金技術の提供の打診は、公平性を鑑みてのものでもあった。
ツィマッド社への肩入れと見られぬよう、政治的な配慮が必要だったのだ。
しかしながら、これは将来的に、ジオンのモビルスーツの装甲材にチタン素材を導入する為の布石にもなる。
アヤにとって、やって損の無い苦労だった。
「それでは詳細は、追って当社の技師から話をさせていただきますね」
アヤはそう言って、話を締めくくる。
こうして、相手に好意を持たせ、また十二歳の少女にはそぐわぬ見識を示した事で、更にヅダに関する説明を引き出して行く。
とは言っても、機密に触れない程度に。
言葉巧みに相手の自尊心をかきたたせ、自慢話へと誘導する。
実際、言うだけあって、ヅダの性能は、高いレベルにあるようだった。
射撃管制装置の技術提供を受けている分、他に開発力を回す事ができていて、完成度は高まっている様子だ。
「凄い物ですね、これなら最悪、リミッターをかけてトライアルに臨んでも十分ではないでしょうか」
「リミッター?」
「ええ、冒頭の話に戻りますが、機体性能が凄過ぎるので、私にはかえって機体剛性に不安が感じられるのです」
考え過ぎかもしれませんがね、と相手の機嫌を損ねないように言い添えて言葉を継ぐ。
「万が一、私どもからの技術供与を受けても機体強度に不安が残るようでしたら、リミッターで主機の上限を制限するのも手かと思うのです。何しろ、そうしてみた所でこのヅダの高性能さは揺るぎないものと思いますから」
アヤは、チタン合金技術を供与しても問題点が克服されない場合を考慮して、次善の策を提案したのだった。
こうして、アヤはヅダの空中分解事故を防ぐべく、手を尽くしたのだった。
■ライナーノーツ
HGUGでプラモ化されているヅダはここで登場した試作機を改装したもので、OVA『MSイグルー』に登場している。