【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
第三話 三社共同開発
「それでは射撃管制装置は、ジオニック社のプロトタイプを元に、三社共同開発と言う事でよろしいですか?」
ジオンコロニー公社、来賓用会議室。
場違いなソプラノの声が響くと、ジオニック社、ツィマッド社両社のモビルスーツ開発担当の重役達は頷いたのだった。
「それではフロイライン、よろしくお願いいたしますよ」
「うむ、開発費の圧縮は、社内でも問題となっていましたからな」
ジオンコロニー公社社長令嬢アヤ・サカキは顔が引き攣らないように注意しながら、両者からの握手を受けた。
それと共に言葉を添える。
「微力ながら、私どものボールプロジェクトがお役に立てるのでしたら光栄ですわ」
こうなった経緯は、先日に遡る。
ギレン・ザビ総帥の声がかりにより、モビルスーツの電子管制装置の内、重要なウェイトを占める射撃管制装置の提供をジオニック社に依頼したアヤは、未来知識にあった統合整備計画を念頭に、これをツィマッド社と統一する事を提案した。
しかし、当然のことながらジオニック社としては、いくらジオン全体の為とはいえ、自社のノウハウを易々とライバル会社に渡す事には抵抗があった。
だが、ここでアヤは食い下がった。
「私どもの計画しているボールの生産は、74年中に開始いたします。量産されたボールは、コロニー湾口部の荷役や、コロニー補修作業用に配置されている現行のスペースポッドSP−W03の代わりとして就役する事になるのですが」
そうした場合、どうやっても、ジオニック社製の射撃管制装置が、ライバルとなるツィマッド社に渡る可能性が出て来るのだ。
その事実に思い至り、ジオニック社の代表は頭を痛めた。
技術提供を拒めば良いのだが、目の前の少女はギレン総帥の命を受けて動いている。
「そこで提案なのですが、ボールを射撃管制装置の実射データ収集用のプラットフォームとして使うつもりはありませんか?」
アヤは未来知識から学習型コンピュータの有用性を知っており、ボールの開発に当たり学習型OSを既に開発させていた。
これにより、ジオニック、ツィマッド両社から依頼を受けたトライアルを実機でこなし、そのデータをフィードバックさせる事が出来ると言うわけだ。
これならば、ジオニック社にも旨みがあるはず。
「それにしても、三社共同開発なんて、考えて無かったのだけれど」
人の居なくなった会議室の高級椅子にその小さな身体を埋めながら、アヤは呟く。
当初、アヤは射撃管制装置の開発に関しては、ジオニック社とツィマッド社両社でやってもらえればいいという考え方だった。
しかし、ここでジオニック社は、まさかの三社共同開発を提案してきた。
つまり、どうせ技術を共有するなら、応分の負担をアヤにもツィマッド社にも持ってもらおうという話だ。
さすがジオニック社。
そのやり口はしたたかだった。
手痛い出費を強いられる事になるが、統合整備計画を目論むアヤにとっても嫌は無く。
こうして射撃管制装置は、三社共同開発となったのだった。
一方、モビルスーツ用に開発されていた105ミリ機関砲の入手は楽だった。
しかし、
「機関砲の固定をアタッチメント式にする、ですか?」
ボールの試作機の製作現場を訪れたアヤは、開発主任に説明した。
「ボールの武装は、次期主力機動兵器からそのまま流用にする事でコストを抑えます。また、アタッチメント式にしておけば、仕様が変わっても交換が簡単でしょう」
これは、後にザクマシンガンと呼ばれるM−120Aが採用されるまで、モデルチェンジが有る事を見込んでの事であった。
それに、ジオニック社、ツィマッド社から射撃試験の依頼を受ける事になる。
これに対応するには、必要な措置だった。
「それで、完成までにどれくらいかかります?」
「射撃管制装置とのマッチングで三週間程度でしょうか」
「たったそれだけでできるのですか?」
「はぁ、結局は現行のスペースポッドSP−W03の拡大設計ですから」
アヤは内心呟く。
記憶にある未来で、連邦軍が短期間に大量配備ができたはずだと。
ともあれ、
「シミュレータも、並行で作成をお願いしますね」
「シミュレータですか? 生産が開始されれば実機での実習が一番と思いますが」
開発主任からはいぶかしげに問われるが、アヤには考えがあったのだ。
■ライナーノーツ
「モビルスーツ用に開発されていた105ミリ機関砲」
旧ザク用の円盤マガジンが右横に付いたマシンガンですね。