【ネタ】機動戦士ボール(ファーストガンダム・記憶逆行)
 第二話 覚醒のアヤ・サカキ


 ギレンの執務室を出た少女、アヤ・サカキは迎えのリムジンに乗った所で、ようやく大きく息をついた。

「……緊張しました」

 そう言葉を漏らすも、言うほどには緊張しては居なかった。
 それも、あのシャトル事故の時に、宇宙空間を把握できたような感覚と共に流れ込んできた記憶。
 十五年後のアヤの記憶があったお陰だった。
 どうしてそんな記憶が流れ込んで来たのかは分からない。
 が、推測はできる。
 シャトル事故の起きた瞬間。
 生と死の狭間に置かれた時、おそらくアヤは覚醒したのだ。
 ニュータイプとして。
 そして、時が見えた。
 少女が、ジオンが辿る歴史。
 このままではジオンは負ける。
 敗戦後、ジオンを追われた彼女は、月のアナハイム・エレクトロニクス社に職を求めた。
 仕事は戦後、武装を撤去して作業用宇宙ポッドとして払い下げられた連邦軍のモビルポッド、ボールを民間に売却、もしくはレンタルすると言うもの。

「でも、それが今役立つのです」

 宇宙世紀74年。
 現時点では、ジオンの基幹モビルスーツとなった、ザクですら存在しない。
 しかし、連邦軍が物量作戦で使用してきたモビルポッド、ボールなら短期間で作ることができる。
 幸い、十五年後の自分の仕事のお陰で、その構造や諸元は把握している。
 元となった、スペースポッドSP−W03は存在するのだから、再現は可能だ。
 唯一手に入らない武装も、ザクの物を流用すればいいという目処が立った。
 ジオニック社とツィマッド社のモビルスーツ開発部門への、パイプを作ることができたのも、望外の成果だった。
 しかし、そこで記憶に引っ掛かる物があった。

「あ、でもツィマッド社のヅダって、軍のトライアルで空中分解事故を起こしたのでは?」

 未来の記憶では、オデッサの戦いの前にその改修型が配備された事を軍が喧伝していたが、それが軍の公的飛行試験において、空中分解事故を起こした欠陥機であることを、連邦軍に暴露されていた。
 それによって、ジオン公国軍のモビルスーツ開発を巡る国内企業の確執が明らかになったのだった。

「ああ、どうしたものでしょう?」

 ツィマッド社の技術陣も、機体の強度に不安があることぐらい承知しているだろう。
 ならば、アヤが持つチタン合金に関する技術を渡せばそれを防ぐ事ができるのではないか?

「でも、射撃管制装置は、ジオニック社の物が望ましいし」

 戦争末期、統合整備計画というものが立ち上がっていることを、アヤは知っていた。
 モビルスーツの、メーカーごとに異なる部材や部品、装備、コックピットの操縦系の規格・生産ラインを統一することにより、生産性や整備性の向上、機種転換訓練時間の短縮をはかったものだ。
 それを考えれば、ザクと同じ射撃管制装置を採用すれば、ボールのパイロットをザクに転換する事が容易になるはずなのだ。
 兵士の不足による学徒動員などを見越して、操作系のフォーマットを統一することは必須。

「ツィマッド社がこちらの技術提供を蹴る可能性もあるし、まずは両社への接触ですね。最低で射撃管制装置の受領。最良を望むなら両社の架け橋になって統合整備計画の自主的な実施」

 さてどうなるか。
 リムジンのシートにその小さな身体を沈めて、アヤは小さく息をついた。



■ライナーノーツ

> 未来の記憶では、オデッサの戦いの前にその改修型が配備された事を軍が喧伝していたが、それが軍の公的飛行試験において、空中分解事故を起こした欠陥機であることを、連邦軍に暴露されていた。

 この辺は、OVA「MSイグルー」より。



 ボールは典型的なやられメカでしたが、プラモデルは立派なマスターグレード(MG)モデルが販売されています。
 マスターグレード(MG)モデルは内部機構まで再現されているため資料として役立ちますが、特に限定クリアパーツ付きのモデルは、組み上げても内部構造を見て取ることができるため見て分かりやすくイメージもつかみやすいかと思われます。

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